プロボノ支援の“要”は経営理念の理解をお互いが深めること
理念を統一することで見えてきた、支援先団体の成長

従業員プロボノ参加者 中谷 将也さん

社内では、技術開発、新規事業マーケティングに従事、社外では経営コンサルタントとして活躍し、今までも多くの企業やNPOを支援されてきた中谷さん。社会人大学院に入学し、NPO法人の経営等について改めて学んだことで、プロボノとして、新たなNPO支援に挑戦。そこから見えてきたものとは。

支援のスタートは“理念”の洗い出し

私がプロボノに参加したきっかけは、大きく二つあります。一つ目は、MBA取得のために、2018年に社会人大学院に入学し、ファンドレイジングという講座の中でNPO法人の経営や、寄付の集め方などを学んだことです。もう一つは、普段から中小企業診断士として、企業やNPOの支援をしていたことです。
「NPO法人a little」の支援プロジェクトに参加した理由は、私の地元から近く、直接の知り合いの団体ではないところで、経営支援の経験を積みたいという思いからでした。

兵庫県西宮市を拠点に活動する「a little」の主な事業は、家事代行サービスの提供。特に、妊娠中、出産前後など、女性の生活に大きな変化があり不安定になる時期の支援に取り組んでいます。プロボノ支援をしていた当時は、市の補助があったため「a little」利用者は比較的低価格で利用できていました。

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中谷 将也さん

ただ、利用者やサービス提供者(主にパート従業員)の管理などのオペレーションが運営上の負担になっており、そのオペレーションの内訳を整理し、効率化していくところからプロボノプロジェクトをはじめました。7人のプロボノチームで担当し、私自身はプロジェクトマネージャーとしてスケジュールや方向性などの調整・管理等を行っていました。

業務改善に加えて、効果的に営業活動ができていない点も改善の必要があると感じました。そこで、個人の利用者だけではなく、市役所や産婦人科など、サービスを導入してくれる企業や組織利用の増加を目的に、営業資料の作成を推進。いざ作り始めると、「a little」が、家事代行サービスに取り組む背景、いわゆる経営理念が非常に重要であることが見えてきたのです。団体は、主に3名のリーダで活動を運営していて、ひとり親の支援を中心にしたいという人もいれば、幅広い世代に提供したいという人もいて、それぞれの事業に対する思い入れと、対象者が違う部分があったので、そこを整理し、統一していく必要性を感じました。団体を運営する方々自身も、それぞれの方向性の違いには気がついていて、経営方針を定めるのが難しくなってきた部分もあり、外部へ支援を求めたという経緯もあったそうです。当時の我々としては、理念を明確にして、同じ方向を向いてくれればという思いでしたが、最終的(プロボノでの支援終了1年後)には、別々にNPO法人を設立し、運営していくという結論になりました。残念な気持ちもあるものの、本人たちからは「自分たちが本当にやりたいことが見えてきて良かった」と報告があったので、今は、かえって良かったのかなと思います。

テストマーケティング、アンケート調査で見えてきた方向性

プロボノでの支援時には、作成した営業資料を持ってテストマーケティングを行いました。先ほどお話ししたように、団体のステークホルダーの方々向けに営業資料をカスタマイズし、一緒に営業活動を行いました。実際に営業資料を持っていったのは保育園の園長さんとか、小児科クリニックの院長先生、県会議員さんです。

また、家事代行サービスの活動に入られているスタッフさんと、かつてサービスを利用したことがある利用者さんを対象に、アンケート調査も行いました。スタッフさんに向けては、働く上でのモチベーションなどを中心にアンケートをとり、利用者さんには、サービスを利用したいと思う状況や環境を中心に聞き取りを行いました。

アンケート結果から見えてきたのは、利用者側の費用面の負担であり、新たな課題も明確になりました。プロボノ支援終了時(2022年1月)にわかっていたことなのですが、1年後の2023年4月に市からの補助がなくなるので、このままでは家事代行サービスの利用者がかなり減ってしまうことが予想されたのです。その対策として、団体ではもう一度経営理念に立ち返り、自分達が「なぜNPO法人として活動しているのか」「どんな社会を実現したいのか」という議論を重ねることで、2023年8月に新事業としてカフェ事業、チャリティショップ事業を始めることができました。この間、プロボノ支援プロジェクトとしては約半年間で終了していましたが、個人的に継続支援要請をいただいており、事業戦略、財務戦略、DXなどで支援を続けております。

また、最近のことですが私自身が他団体の支援に関わっていく中で、ペイフォワードというシステムのことを知り、「a little」への導入を検討しています。ペイフォワードとは、「誰か」が「誰かのために」という善意であらかじめチケットを購入し、サービスを利用したいと思った人が必要な際にそのチケットを利用できる仕組みです。「a little」の理念である『女性の自立をサポートし「お互いが補い合える社会」そして誰もが「ありのままにワクワクして生きられる社会」になるよう活動を広げる』ことにも合致しそうです。

プロボノプロジェクトで団体の理念を明確にすることができてからは、その理念に共感できる人が集まってこられているように思います。カフェ事業、チャリティショップ事業は始まったばかりですが、理念が共通している限り、結束して進めていけるのではないでしょうか。

プロボノで学んだ非営利団体の経営は、企業経営にも活かせる

私がNPOの経営支援を続けている理由は、社外活動で経営コンサルティングを行っている際にある企業を支援した時の経験が根底にあります。その企業の会長さんが「自らの事業で社会貢献するんだ」という理念を強く持たれている方でした。今でこそ50億円ほどの年商ですが、最初は大変ご苦労されて、それでも社会貢献を重視する経営理念を貫いて成長されました。実際にその企業に入って支援し、会長さんとお話していく中で、共感できる部分が大きく「やっぱり企業は理念にもとづいて成長していかないといけない」と思ったんですね。私が社会人大学院でMBAを取った時に、修士論文で書いた内容も社会貢献型経営理念に関するものでした。そこからは、どの企業を支援するにしても、まずは「なぜこの事業をやっているのか」という経営理念を経営者に聞くようにしています。
その会長さんとの出会いをきっかけに、経営支援のノウハウをもっと積み上げたいという思いが強くなりました。それに、プロボノを通じて学んだNPOの経営支援のノウハウは企業経営にも活かすことができます。一つの企業に所属するだけではできない体験をプロボノという仕組みを通して得られるというのは、非常に魅力的で良い機会ではないかと思います。

元々、私自身が理系出身で技術開発をしてきたというのもあり、「こんなことができたらいいな」と妄想をふくらませて考えるのが好きで、できるかどうか、すぐに確かめてみたい性格なんですよね。ひとつひとつのことには、そんなに詳しいわけではないけれど、幅広い知識、経験は持ち合わせているので、過去の経験を活かし、幅広く支援ができるのではないかと思っています。

プロボノを通して「感謝」の先に見えてきたもの

NPOは利益を求めているわけではありません。だからこそ、社会貢献にフォーカスし、第一優先にして、物事を考えられるベースがある。そこに身を置けるのは、プロボノならではです。そして、プロボノ経験のある方はみなさん言いますけれど、支援先に感謝されるのは純粋に嬉しいですよね。

また、プロボノのチームメンバーは社内のいろんな部署から参加するので、パナソニック自体が幅広く事業をしているのもあり、「そんなことやってたんだ」って知らないことも多くて驚きました。一方で、違う部署のメンバーとの活動を通して見えてきたのは、別々の事業をしているにも関わらず、“パナソニック”っていうだけで、根っこは同じことを考えていること。要は経営理念みたいなものがちゃんと根付いている、と改めて再確認しました。社内には、ある分野にはものすごく長けているとか、全体俯瞰して物事の整理をすぐやってしまう人とか、みなさんが、自分が持っていないものを持っていて、新しい発見、新鮮な気持ちになれましたね。

プロボノに挑戦するのは、最初は不安だと思いますけれど、やってみたらどうにかなるもんですし、「楽しいよ」ってことを伝えたいですね。プロボノを通して、色々な発見がありますし、出会いもあります。自分のスキルアップに繋がるので、飛び込んでみてもいいのではないでしょうか。

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団体の皆様との記念写真

今までも多くの企業、NPOの支援を行ってきた中谷さんだからこそ、導き出せた経営理念の重要さ。プロボノチームの参加により支援先団体の理念が整理されたことで、団体のさらなる飛躍が可能になったのではないだろうか。

中谷さんが参加したプロボノプロジェクト

兵庫県西宮市で、子育て世代の女性たちが集まって活動が始まり地域の中で助け合える関係をつくることで、すべての人が自分らしく生きられる社会を目指している。
女性が抱える日常の困り事を分かち合い、自立を応援する活動を行っている団体に対して従業員7人がプロボノチームが団体の活動を紹介した営業資料作成の支援を行った。