パナソニック技報
【4月号】APRIL 2011 Vol.57 No.1の概要
特集1:環境革新技術
環境革新技術特集によせて
本社R&D部門 上席理事 児玉 久
招待論文
環境共生技術による幸せな暮らし
慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科
教授 佐藤 春樹
技術論文
SiCパワーデバイスの損失低減実証
庭山 雅彦,風間 俊,工藤 千秋,北畠 真
ワイドバンドギャップ半導体であるSiCパワーデバイスの高性能化を実現し,家庭用電化製品に使われるパワーエレクトロニクス回路へ適用した.SiCパワー素子としては世界最高水準となる,耐圧実力値1000 V以上,ドレイン電流40 A以上(Vds=1 V,Vgs=20 V),規格化オン抵抗3.5 mΩcm2の,ノーマリーオフパワースイッチをMOSFET構造で実現した.また,損失低減実証実験を行ったところ,PFC(Power-Factor-Correction)回路では,スイッチングデバイスにおける損失を素子当りSi-MOSFETに比べて1/3に,インバータ回路では素子当りSi-IGBTの1/2以下に低減することができた.
今後は,1200 V超級での高耐圧分野で,自動車用途などへの新応用展開を目指す.
高効率ワンチップGaNインバータIC
森田 竜夫,梅田 英和,上本 康裕,上田 哲三,田中 毅,上田 大助
地球温暖化問題が大きな課題となっている中,産業用途から家電機器に至る幅広い分野でモータドライバとして使われるインバータの高効率化が求められている.高効率化の有効な手段として,従来のSi半導体に比べ優れた材料特性を有するGaNを用いたパワーデバイスの導入が期待されている.今回,独自に開発したノーマリーオフゲート注入型GaNトランジスタを利用したワンチップGaNインバータICを開発し,初めてそのモータ駆動を確認したので報告する.各素子を独立に駆動するため十分な素子間耐圧を実現することが課題であったが,Feイオン注入を用いた素子分離技術により解決した.作製したGaNインバータICは,20 W出力という低出力で従来インバータよりも高い効率95 %を示し,変換損失を従来のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)インバータより42 %低減できた.
複合金属酸化物とアルカリ金属硫酸塩との組合せによるディーゼル排ガス浄化触媒
宮川 達郎,中島 隆弘,久保 雅大,須賀 亮介
熱効率の高いディーゼルエンジンは,CO2削減の一手段として見直されている.しかしながら,ディーゼル排ガスを浄化する触媒には白金などの希少な貴金属が多量に使用され,その使用量の節減は重要な課題であった.今回,遷移金属硫酸塩とアルカリ金属硫酸塩の混合系触媒がPM(Particulate Matter: ディーゼル排ガスに含まれる粒子状物質)に対して高い燃焼活性をもつことに着目し,貴金属不使用の混合系触媒について検討した.その結果,複数の金属からなる複合金属酸化物と特定のアルカリ金属硫酸塩の混合系触媒が,PMに対して特に高い活性を示し,耐久性にも優れることを見いだした.この触媒は実際の排ガス試験においても従来の貴金属触媒の代替となることが実証され,ディーゼルエンジン排ガス処理装置の貴金属使用量を低減できることがわかった.
省エネソリューション技術による省エネトップランナー工場の実現
伊藤 貞芳,村上 友康,領木 直矢,田端 大助,松田 直子,中 裕之
省エネルギー対策が重点的に進められてきた産業分野においても,さらなる省エネ技術の開発が求められている.そこで,生産状況や生産環境の変化に合わせて生産設備と原動設備を連携制御し,エネルギーの使用量を最小化する,新しい省エネ連携制御システム“Save Energy-Link”(“SE-Link”)を開発した.さらに,独自開発のシミュレーション技術を“SE-Link”に組み込み,品質を確保しながら生産性を2倍に向上する省エネ乾燥炉を開発した.このシミュレータをリアルタイム自動制御に応用すれば,より革新的な省エネ制御が可能となる.これらの省エネソリューション技術を,省エネトップランナー工場を目指すモデル工場に導入し実証した結果,生産時,生産待機時ともに最大40 %のエネルギー使用量を削減できた.
技術解説
近赤外分光法を活用した樹脂リサイクル技術開発
小島 環生,宮坂 将稔
当社では,循環型モノづくりの実現に向けた取り組みを推進しており,樹脂材料については再生樹脂の活用拡大に取り組んでいる.その中で,近赤外分光法を活用した樹脂材料の高精度選別技術を開発することで,使用済み家電のリサイクル工程で発生するミックスプラスチックからの樹脂材料の高精度自動選別を実現し,家電製品へ再活用できる樹脂品質を達成した.
当社の生物多様性の取り組みと今後の展望
飯田 慎一
当社グループは,2010年10月に2018年を目指した総合的な環境アクションプログラム「グリーンプラン2018」を発表し,CO2削減などに加え,生物多様性もプランの柱の1つに位置づけた.これまでの具体的な取り組み内容やアプローチの考え方を紹介するとともに,今後の展望を紹介する.
特集2:無線応用技術
無線応用技術特集によせて
東京R&Dセンター 所長 三輪 真
招待論文
無線システム用アナログ・RF集積回路技術
東京工業大学大学院理工学研究科 電子物理工学専攻
教授 松澤 昭
技術論文
ミリ波を用いたポータブル機器搭載用ギガビット伝送無線システム技術
藤田 卓,佐藤 潤二,嶋 高広,坂本 剛憲,四十九 直也,高橋 和晃
デジタル機器の高機能化によって,ポータブル機器,据え置き機器を問わず,機器が取り扱うデータは数百MBから数GB,数TBへと大容量化している.短時間にこの大容量のデータを機器間移動させるためには,ギガビットクラスの高速通信が必要であり,近距離無線通信では数GHzの広い帯域を1つのシステムで使うことができるミリ波帯が注目されている.本稿では,ダイレクトコンバージョン方式,30 GHz帯プッシュ-プッシュ電圧制御型発振器,1/3分周注入同期型分周器を用いることで回路数を削減したチップサイズ3×3.5 mm,消費電力241 mWの小型・低消費電力フロントエンドICと1 Gbit/sを超える高速の無線通信で適用可能なシンボル同期方式およびLDPC(Low Density Parity Check)復号器を開発したので報告する.
ホームエネルギーマネジメントシステムにおける無線応用
浮田 陽介,藤原 ゆうき,村上 隆史,林野 裕司,吉川 嘉茂,多鹿 陽介
低炭素社会の実現に向け,家庭用創蓄省エネ機器同士が接続し,連携,協調動作することで,個々の機器より効率的にエネルギーを運用するHEMS(Home Energy Management System)の実現が切望されている.その機器間の接続は,設置の自由度や既築住宅への導入容易性などの観点から無線の利用が適する場合も多いと考えられる.しかし,その要件は従来のIT(Information Technology)系ホームネットワーク要件と異なると考えられる.そこで本稿では,HEMSで用いる無線の要件を,(1)通信エリア,(2)通信品質,(3)通信レートの観点で整理したうえで,伝搬実験を通じて,その無線適性を分析する.さらに,その結果を基に,HEMSに適した標準化活動の取り組みとして,無線伝送方式の追加や,収容機器の拡張などを目指した標準化活動について述べる.
マイクロ波UWBタグの一点測位技術開発
中川 洋一,深川 隆,向井 裕人,淺沼 努,安木 慎,岡田 亨
GPS(Global Positioning System)が利用できない屋内環境における高精度な動体位置特定の用途には,時間領域の分解能に優れたUWB-IR(Ultra-Wide-Band Impulse Radio)による無線測位が有効である.筆者らは,高精度測位と同時に簡易設置を実現するUWBタグの一点測位技術を開発した.マイクロ波のハイバンドにおいて,パルスを再放射するUWBタグとタグからの折り返し伝搬時間と到来方向に基づいて測位するリーダを試作し,一点測位技術による測距の平均誤差が50 cm,移動タグのリアルタイム測位誤差は±1 m以下を実証した.
技術解説
マシン通信システム向けセルラ技術標準化活動
池田 新吉,阿相 啓吾
ユーザーの判断を必要とせず,機器間の自律的なコミュニケーションによりサービスを実現するマシン通信システムに関し,その相互接続性の確保と利便性の向上を目的とするセルラシステムの標準化が進められている.本解説では,マシン通信に適用されるセルラ技術のグローバル標準化動向を説明するとともに,マシン通信デバイスのグループ化によるリソース効率化技術など,当社が標準化提案を進めている開発技術の概要を説明する.
アクティブタグによる高齢者支援システム
猿渡 孝至,富岡 豊
近距離無線通信デバイス(アクティブタグ)を活用した社会システム構成手法について,高齢者支援システムを題材にとって解説する.構成の要求事項として,端末の差別化とサービスの成立性の2点に絞って説明する.特にサービスの成立性に関しては,平成20年度から自治体と連携した実証実験を継続する中で1次顧客の要望を抽出し,なおかつ,適切なインフラコストで必要機能を実現する点がポイントとなる.