20. 独立を決意 1917年(大正6年)

幸之助は、検査員になる少し前に、いろいろ工夫してソケットを改良し、1個の試作品をつくったことがある。彼自身相当苦心してつくったものであり、自信もあったが、上司に見せたところ、意外にも使いものにならないと酷評されて、くやしい思いをした。その後、検査員になり、その仕事に熟達するうちに、暇ができ、彼はまたソケットの工夫考案に身を入れ始めたのである。

彼はまた、体が弱く、風邪引きなどはしょっちゅうのことで、結婚はしたものの、将来に一抹の不安を感じていた。そのために早く独立をし、将来の方針を立てなければという気持ちも次第に強くなってきた。

たまたま肺尖カタルがこうじてきて悩みも重なった。そんなときに「実業で身を立てよ」という父の言葉を思い出したのである。彼は思い切って改良ソケットをつくろうと独立を決意し、この年6月15日、辞表を提出し、会社を退職した。