49. 事業の真使命に思い至る 1932年(昭和7年)

所主が知人の案内で、某宗教本部を訪れたのは、昭和7年3月のことであった。別に信仰する気などなかったものの、知人の熱心な勧めもあって、ある程度はその宗教に関心をもっていた。

来てみて、驚いた。建物の壮大さもさることながら、教祖殿の建築や製材所で働く信者たちの喜びに満ちた奉仕の姿に胸を打たれた。

所主は感銘を受けつつも、なお信仰の道に入る気にはなれず、知人と別れ、帰途についた。そして電車の中で、先刻見たことを考えた。

そのうちに、事業経営のあり方に思い至った。なるほど、宗教は悩んでいる人々を救い、安心を与え、人生に幸福をもたらす聖なる事業である。しかし、事業経営も、人間生活に必要な物資を生産する聖なる事業ではないか。こう悟ったとき、所主は目を開かれる思いであった。

「昔から“四百四病の病より貧ほどつらいものはない”ということわざがあるが、われわれには、その貧乏をなくすために、刻苦勉励、生産に次ぐ生産でこの世に物資を豊富に生み出す尊い使命がある」と自覚した。今まではただ商売の常道に従っていたにすぎないが、これからはこの真使命に立って事業経営を進めようと決心した。