参加のきっかけは、英語のニュースレターのボランティア。
“未知の世界”だった災害支援を学んだプロボノ活動
従業員プロボノ参加者 西木 美恵さん
社内外合わせて3つのプロボノに参加し、現在も新たなプロジェクトに挑戦中の西木さん。意外にもプロボノに参加する前は社会課題に高い関心はなかった。それが、地元京都の災害支援者登録をするまでに心境の変化があったという。プロボノを通じた学びと、参加前後の変化を聞いた。
英語学習の一環で始めたボランティア活動がプロボノ参加につながる
プロボノに参加する前は、京都在住の外国籍の方向けのボランティアに参加していました。私は京都に住んでいるのですが、普段から外国の方に英語で道を尋ねられることも多く、一方で自分自身は英語が苦手だったので英語を習っていたんです。その英語学習の一環として、京都の魅力やおすすめ情報などをニュースレターで発信するボランティアを始めました。
ニュースレターはジャンルとしては観光・エンタメ寄りの内容を扱うボランティアだったのですが、何か困っている人を助けるような、社会課題を扱うボランティアにも挑戦してみたくなったんです。そんな折に社内プロボノの存在を知り、社会課題に向き合うボランティア活動があることを知りました。ニュースレターの活動を始めてからボランティアに参加することへの心理的なハードルは下がっていたので、社内プロボノにも参加を決めました。
第三者だからこそ気が付ける、支援先団体の魅力と課題
プロボノは1週間あたりの作業時間の目安があらかじめ共有されていたため、仕事との両立に対する不安はありませんでした。一方で、具体的にどんなことをするのか、最終成果物はどんなものになるのか、そこまでは参加前にはわかりません。その点については、多少不安も抱えつつ参加しました。社内プロボノでは、災害に関するプロジェクトに2度参加しました。2020年に参加したプロジェクトでは、災害を受けた被災地域をサポートし、災害時の連携・コーディネーションを行うことを目的とした中間支援組織『全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)』に対して、彼らの災害支援のノウハウを具体化・可視化した資料を作成しました。また、2022年に参加したプロジェクトでは、東日本大震災で甚大な被害が出た福島県を拠点に、現地の支援者同士の連携や避難者への支援活動などを行なう中間支援組織『ふくしま連携復興センター』に対して、企業にアプローチするための営業資料を作成しました。
いずれも営業資料の作成がミッションでしたが、資料に載せる内容が明確に決まっているわけではなく、支援先の人たちも「困っているけれど、何をすべきかわからない」という状態です。彼らが抱えている課題は何か、それを乗り越えるためにはどんな資料が必要なのか、支援先の人たちと何度も壁打ちを重ねました。そんな壁打ちを通じて感じたことは、第三者が関わるからこそ気が付けることもあるということでした。支援先の人たちが日頃行っている業務はもはや彼らにとって当たり前のものなので、それが価値ある知識やスキルであると認識していないケースもあります。また、支援先団体の関係組織や利用者にもヒアリングをしてみると、支援先の人には直接言ったことがない意見やコメントをくださることもあったんです。支援先団体が持つ魅力は何か、どんなことを期待しているか、直接言いにくいことでもプロボノチームを挟むと引き出された言葉があったように感じました。これはプロボノならではの良さだと思います。
“未知の世界”だった災害支援の実情に触れる
プロボノに参加して自分に起きた一番の変化は、社会課題と自分の距離が縮まったことです。中でも、災害支援に対するイメージは大きく変わりました。以前から、ニュースや新聞をみて世の中にある社会課題についてはなんとなく把握していましたが、どんな人が社会課題に取り組んでいて、現場にはどんな苦労があるのかなど、その中身はほとんど“未知の世界”であったことを痛感したんです。
例えば、社内で参加した2つのプロボノはいずれも「中間支援組織」と呼ばれる団体への支援プロジェクトでしたが、中間支援組織というものがあること自体あまり知りませんでした。さらに、災害支援に向き合う中間支援組織と一口で括っても、抱えている課題は全く違います。『全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)』は全国規模の組織なので、災害時に迅速に稼働できるよう日頃から人間関係のネットワークを構築しておくことが重要です。
つながりが強い地域もあれば、そうでない地域もあったため、災害が起こる前にできるだけ連携を盤石にしておきたいと考えていました。そして、災害時には現地で稼働する地元団体との連携は欠かせません。地元の人たちが「中間支援組織って一体何なの?」と不安な気持ちを抱かないよう、組織の活動目的や持っているスキルを明確に伝えるための資料が必要でした。一方で、『ふくしま連携復興センター』が抱えていた課題は人材や資金の確保でした。福島県の助成金は年々減少する一方で、被災地支援は終わったわけではなく、今後も引き続き必要です。支援の手を止めないために、企業から資金面で協力してもらったり、ボランティアスタッフを派遣してもらったりするための営業資料が必要でした。このように、似たように見える団体でも抱えている課題は大きく異なっていました。
どこかで災害が起きると「被災地の支援がなかなか進みません」といった内容のニュースが流れてくることがあります。そんな報道を見て「早く支援を進めてよ!」と、もどかしい気持ちを抱くこともあると思います。しかし、現地では被災した建物が悲惨な状況でなかなか片付かなかったり食料が十分に届かなかったりしている中で、支援スタッフたちがかなりの時間と労力をかけて動いています。そんな光景を目の当たりにすると、災害支援はそんなに容易い話ではないことがよく分かりました。当たり前ではありますが、誰かがスーパーマンのようにやってきて問題を一気に解決してくれるなんてことは不可能です。もし自分が被災したらどんな生活が待っているのか、支援側にまわれる時にはどのように協力できるのかなど、生きる上で知っておくべき重要なことを学びました。
社会課題は、いつ自分の身に降りかかってもおかしくない
もう一つの大きな変化は、地元京都の国際交流センターの災害支援者登録をしたことです。災害時に、外国人の方向けに英語等で避難や避難所での生活をサポートする役割を担います。海外の方にとって、馴染みのない異国での被災時には避難支援が欠かせませんし、文化や慣習の違いもあるので避難所の設備の使い方を説明することも大切です。また、福島県のプロジェクトに参加後、商品の売り上げが東日本大震災の被災地支援に活用されるお土産を購入しました。関西と関東では距離も離れていますが、福島県で活動している人と出会いお話ししたこともあって、心理的な距離がグッと縮まりました。些細な出来事ですが、そんな行動の変化もありました。
社内プロボノでは災害支援に関するプロジェクトに参加しましたが、DV、食糧難、移民問題、ジェンダーの問題など、世の中には多くの社会課題があります。そして、それらはいつ自分の身に降りかかるか分かりません。プロボノでは、そうした社会課題の第一線で活動している人の話を聞けるので、自分自身が生きていくための糧になると感じました。災害分野に関わったことで他の分野にも関心が湧いてきたので、今後もプロボノを通じて様々な社会課題に触れたいです。
英語のニュースレターのボランティア活動をきっかけに、最終的には地元京都の災害支援者登録をするまでに変化があった西木さん。今は社会課題に関心が持てないという人でも、何か一つプロジェクトに参加してみると自然といろんな分野に興味が湧いてくるかもしれません。
西木さんが参加した社内のプロボノプロジェクト
福島県内外の支援団体と連携し、被災者を支援してきた中間支援組織「ふくしま連携復興センター」。震災から12年を経て、なお必要とされる支援継続のための新たなネットワークづくりに向けた営業資料をパナソニック従業員によるプロボノチームが作成。
東日本大震災での経験を踏まえて災害時の被災者支援活動が効果的に行われるよう、地域、分野、セクターを超えた関係者同士の「連携の促進」及び「支援環境の整備」を図り、活動を通じて将来の災害に対する脆弱性の軽減に取り組む認定NPO法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)の営業資料を従業員プロボノチームが作成。