オリンピックの開会式は、大会を印象付ける趣向を凝らした演出や華やかなセレモニーが繰り広げられ、スタジアムの観衆だけでなく世界中の人々が期待を膨らませて待ちわびる。この開会式の演出に、いまや大画面のアストロビジョンは欠かせない。カウントダウンで花火を上げたアストロビジョンが、また美しい映像を映し出したのを確かめて、パナソニックのスタッフたちはいっとき胸をなでおろした。たった一週間前には、まだこの画面は組み立て作業にかかったばかりだったからだ。
失敗が許されない緊張感に満ちた設営現場
アテネでアストロビジョンの設置を担当するのは、ヨーロッパを拠点にイベントやスポーツ大会での設営をおこなう精鋭のスタッフたち。世界の様々な国から集まった技術者集団に日本からのスタッフも加わったワールド・チームには、限られた人数で、いくつもの会場の大画面を一気に組み上げるという課題が突きつけられた。イベント会場での大画面は、すべての人々の視線が集まる場所。決して失敗は許されない。そのことを誰よりも知っているのは、アストロビジョンのスタッフを統括するリーダーのヘルナン・ポブリートだ。

「アストロビジョンは、大勢の観客のいちばん目に付くところに置かれるものです。私たちの仕事は裏方なのですが、最前列に立っているともいえる。それだけ責任は大きいんですよ」
アテネの開会式ではアストロビジョンにからんだ演出のサプライズが用意されていた。責任はさらに重大だ。トップシークレットである聖火台への点火に関わる演出は、リハーサルさえ非公開で稼動確認をおこなうのである。タイトなスケジュールのなか、"絶対"を要求される作業に、アストロビジョンのスタッフは取り組んだ。

スタジアムを感動で包んだ幻想的な演出
開会式では、古代と近代、それぞれのオリンピックが数千年の時を越えて、ここ、アテネで溶け合うという演出ではじまった。やがてアストロビジョンの中の古代競技場から放たれた火が、スタジアムの水面に落ちて、炎で五輪のマークを描く。セレモニーの始まりだ。やがて日付も変わった頃、イベントはクライマックス、聖火台への点灯へ。オリンピックの歴史で初めて、世界の5大陸をリレーしてきた炎が再びこの地に戻って聖火台に灯る。ゆっくりと頭をもたげた聖火がアテネの夜空に輝き、アストロビジョンが再び会場の映像を映し出すとき、パナソニックのスタッフにもやっと安堵と感動の思いが湧き上がった。
