27. 電話を初めて架設 1920年(大正9年)

深刻な不景気にもかかわらず、盛んに発展を続ける松下電気器具製作所の経営ぶりは、取引先の目を見張らせた。しかし、工場にはまだ電話さえ引けていないありさまで、一人前の工場というにはまだほど遠いものがあった。

当時、電話を架設するには1,000円以上もしたから、創業間もない企業としては、必要に迫られながらも、架設できなかったのである。しかし、電話の有無は、その商店や工場の信用の尺度にもなっていた時代であり、所主はかねてから急設電話の申し込みをしていた。幸い、その抽選に当たり待望の電話が架設されたのは、大正9年6月のことであった。

各取引先に、電話開設を知らせる広告葉書の発送もすみ、日ならずしてからのこと、電話のベルが鳴り、初めての電話注文が入った。電話を受けた所主は、周りの夫人や店員たちに「おい、えらいこっちゃぞ。電話で注文がきたぞ」と感激して話した。そのとき、「ついに一人前の工場になった」という喜びが、全員の胸に広がった。