28. 税金に悩んで悟ったこと 1921年(大正10年)

当時、税金の査定期になると、近くのお寺に税務署員が出張して来るので、個人経営の町工場や店の主人は、そこで申告し、査定を受けた。いつも申告通りですむので、所主も毎年ありのままに申告していた。ところが、松下電気器具製作所の収益が年々増えていくのに驚いたのか、大正10年ごろになって、「ずいぶんもうけているなあ。1度調査に行こう」と言われた。

所主は正直に申告していたので、何ら動じることなく調査に臨んだ。ところが、見解の相違があって、申告以上に利益が上がっていると言う。そうなると所主は心配になった。2晩ほど眠れぬままに思案しているうちに、ふと「自分の金だと思うから、悩みも起きるのだ」と悟った。翌日、3日目の調査の時に、所主はすっきりした気持ちで「よく考えてみると、このお金は全部国家のものです。必要なだけ取って下さい」と申し出た。すると、「そんなにまでしなくても」ということになり、調査は簡単にすんでしまった。

以後、税金に対してガラス張りで臨んだが、この体験で、所主は1つの企業観を得た。