29. 第1次本店・工場を建設 1922年(大正11年)
売り上げは年々増え、注文に応じるために作業場を工夫したり、設備を増設したりして、その場をしのいでいたが、ついに追いつかなくなった。そこで、所主は同じ大開町1丁目にあった100坪余りの貸地を借り、新工場を建設することにした。
ところが、手元資金が4,500円しかない。見積りによれば、建設費は7,000円余りである。所主は本店を後にし、取りあえず工場のみを建設することにした。
その旨、建築業者に言うと「割安になるから、ぜひ一緒に建ててほしい」と言う。所主は、あくまでも自分の力の範囲で事をなしたいとの信念から不足分2,500円について、月賦にしてほしいと提案した。それも建物を支払いの担保にしないとの条件をつけてのことだったので、業者をあきれさせたが、結局その条件を承諾してくれた。
所主も、これには感激した。しかし、「それはありがたい。しかし、僕は恩に着ないよ。君も商売上の便宜のために、僕に賛成してくれたんだから」とクギをさし、逆に業者を感心させたのである。大正11年7月、この本店・工場は完成、気分も新たに作業を開始した時は、従業員も30名を越す企業に発展していた。