37. 力石で運を試す 1926年(大正15年)
所主が1万円を出したことを、山本店主は意外に思ったらしく、両者の話し合いは円満に解決した。このとき、山本店主は「1万円の金を僕がもうけたことになるから、君を招待しよう」と申し出て、所主を高野山に招待した。当時、山本店主の顧問役として、話の場にいつも立ち会っていた加藤大観師も一緒である。所主は、初めての高野山であったが、建ち並んだ堂塔伽藍、生い茂った老樹など、その壮厳さに胸を打たれた。
奥の院に行くと、弘法大師が唐から持ち帰ったという運試しの石を納めた祠(ほこら)があり、それには石を棚に上げた人は運が強いといういわれがあった。さっそく試しみてようということになった。しかし、ほかの2人は持ち上がらない。ところが、一番力の弱そうな所主がやると、意外にも簡単に持ち上がった。この不思議な出来事に、所主は1万円のことも忘れて、ひそかに期していた角型ランプの売り出しは成功疑いなしとの信念がわいてきた。