104. 突如、社長退任を発表 1961年(昭和36年)
昭和36年1月の経営方針発表会で、発表を終え、壇を降りた社長は、まだ拍手の鳴りやまないうちに、再び登壇した。
社長は、年令的に1つの節を迎えたと述懐し、「昨年は、皆さんのご協力を得て5ヵ年計画も無事に終了し、私もちょうど満65歳のいっぱいを勤めることができました。私はかねてから適当な時期に社長を退かねばならないと思い、数え年50歳の時に陽洲という号を用意して引退しようと考えましたが、時あたかも戦時中で実行できず、戦後困難な時期にも責任上引退できないままに、昭和26年から再建に取りかかりました。それから10年、今日この盛況を見ることができたのは、まことにうれしい限りです。そこで、いろいろ考えた末に、この際社長を退き、会長として後方から経営を見守っていきたいと思います。私が引退しても、経営は十分にやっていけると思います。これを転機に、新たな構想のもとに活動していってください」と述べた。
全く予期せぬ社長退任の弁である。会場は一瞬どよめき、そして静かになった。この突然の発表は、全員に大きな転機を自覚させ、新たな決意を促すものとなった。
この時、新社長に松下正治副社長が就任、松下電器は新しい飛躍の時代へと踏み出したのである。