108. 「所得倍増の二日酔い」を発表 1961年(昭和36年)
岩戸景気と呼ばれる好況の中で、繁栄を謳歌する日本経済も、昭和36年末には陰りが見え始めた。1月の社長退任のあいさつに先立つ、経営方針発表会で、「膨張しては引き締めてやっていくところに堅実な発展が約束される」と指摘した会長は、この変化に、強い懸念を抱くようになった。
池田内閣は、昭和35年12月に閣議で「国民所得倍増計画」を決定、相変わらず高度成長路線を歩んでいた。一般社会にも高度成長に慣れ、何ら不安を感じないという風潮が広がっていた。
そこで、会長は、「文芸春秋」誌12月号で「所得倍増の二日酔い」という1文を発表し、「日本経済が戦後16年間でこれだけの発展をして来たのは、他力によるものである。それを自力でやってきたかのように錯覚したために、今日の経済の行き詰まりが急速に起こってきたと思う。所得倍増もいいが、その言葉に酔って甘い考えをもってはならない。1つのことを行うに当たっては、その基礎には国民の精神を高める呼びかけがなければならない」と警告した。
この文は第21回文芸春秋読者賞を受賞した。