未来技術遺産とは

国立科学博物館の概要

国立科学博物館は1877年に設立された、日本で最も歴史のある博物館の一つです。2001年に独立行政法人化した後も名称に「国立」を冠し、自然史および科学技術史研究に関する中核的研究機関として、また我が国の主導的な博物館として活動しており、490万点を超える貴重なコレクションを保管しています。展示施設は、東京都台東区の上野恩賜公園内に所在する上野本館、東京都港区の附属自然教育園、茨城県つくば市に所在する筑波実験植物園(通称、つくば植物園)を有しています。

国立科学博物館 上野本館

「技術の歴史を未来に役立てる」~産業技術史資料情報センターの活動~

同館は、日本の産業技術発展の証(あかし)となる貴重な事物の所在を確認し、その保存と活用を図るために、2002年に「産業技術史資料情報センター」を立ち上げました。同センターでは、日本の産業技術について、以下の取り組みを行っています。

【調査】日本の産業技術の発展を示す資料の所在を確認 → 「所在調査」
【研究】技術発展と社会・文化・経済等の関わりを調査・研究 → 「技術の系統化研究」
【保存】失われつつある国民的財産の保存 → 「重要科学技術史資料(愛称・未来技術遺産)の登録」
【連携】全国の産業系博物館の資料情報の共有化 → 「HITNETの構築と活用」

重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)登録制度とは

この制度は、科学技術を担ってきた先人たちの経験を次世代に継承していくことを目的として、国立科学博物館の産業技術史資料情報センターが2008年度より実施している制度です。未来技術遺産はこの制度の愛称で、「過去の科学技術資料のうち、未来へ引き継ぐべき遺産」という意味で名付けられました。
2022年度新たに18件が加わり、これまでに343件の資料が登録されています。日本の全ての科学技術を対象とし、資料の保存と、その活用を図ることを目的としています。この活動は、同センターが発足以来推進してきた、産業技術史資料の所在調査や、科学技術史・産業技術史研究の成果を基盤にしています。さらに、登録資料については、国立科学博物館が定期的に資料の状況確認などのアフターケアを行っています。

「未来技術遺産」登録までの流れ

未来技術遺産の選定基準

1.科学技術(産業技術を含む。以下同じ。)の発達史上重要な成果を示し、次世代に継承していく上で重要な意義を持つもので、次の基準を満たすもの

【イ】科学技術の発展の重要な側面及び段階を示すもの
【ロ】国際的に見て日本の科学技術発展の独自性を示すもの
【ハ】新たな科学技術分野の創造に寄与したもの
【ニ】地域等の発展の観点から見て記念となるもの
【ホ】試行錯誤、失敗の事例など科学技術の継承を図る上で重要な教育的価値を有すもの

2.国民生活、経済、社会、文化の在り方に顕著な影響を与えたもので、次の基準を満たすもの

【イ】国民生活の発展、新たな生活様式の創出に顕著な役割を果たしたもの
【ロ】日本経済の発展と国際的地位の向上に一時代を画するような顕著な貢献のあったもの
【ハ】社会、文化と科学技術の関わりにおいて重要な事象を示すもの

産業技術史資料情報センター長インタビュー 歴史を未来に役立てるための情報収集と研究

国立科学博物館
産業技術史資料情報センター

センター長
前島 正裕 氏

重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)登録制度の狙いは大きく2点あります。まず1点目は、現在私たちが便利に使っているモノは、決して魔法で現れたのではなく、誰かが目的をもってそれを実現するために努力し、工夫を積み重ねた末に製品化されたモノであること。人々の意志と知恵と努力で出来たモノを、私たちは日常使っているのだということを、皆さんに感じてほしいということです。

もう1点は、先人たちが作ってきたモノを実際に見ることで、日本人が得意とするものや、日本の社会にとってどのようなものが好ましいのかということを発見し、モノづくりや将来の日本を考えることができます。先人たちの足跡を、未来を考える上での土台として活用していただきたいということです。

戦後の高度経済成長期に開発されたモノは、「今の僕らに作ることができるだろうか」と思うような凄いモノが多いのですが、当時の技術者たちは「そんなに大したものじゃないよ」と、自分たちの仕事をあまり評価していないのです。戦後、欧米から入ってきた技術を真似て国産化しただけという認識です。でもそれは大きな間違いで、現代の視点で見ると、さまざまな創意工夫がなされています。狭い国土の小さな家で使いやすい小回りの利く製品、安全で高品質、日本人の所作にあった使い勝手など、欧米では誕生し得なかったであろう、日本発の新しい付加価値を付けた製品がたくさん開発され、それが世界で認められ、広まっていきました。

このような日本のモノづくりの素晴らしさをしっかり吸い上げていくことが必要です。製品の実物や関連資料が残されていれば、知識に加えて、世の中にない新しいものを作った時のチャレンジ精神や、目的に向かって一歩一歩進めていった地道な努力なども、より具体的に伝えることができます。世の中を変えた製品を作ったのは、天才の閃きだけではなく、努力の積み重ねもあったと分かれば、「自分もやってみよう」という気持ちが湧いてくるでしょう。人々が、過去の製品などから多くを学び、未来のイノベーションを起こしてくれることを期待しています。

国立科学博物館にて

2021年までに「未来技術遺産」として登録されたパナソニックグループの製品をご紹介。

2022年に新たに登録された3点の製品と開発秘話をご紹介。

関連リンク

パナソニック ミュージアム