第69回電気科学技術奨励賞並びに電気科学技術奨励会会長賞を受賞

11月24日、第69回電気科学技術奨励賞(旧オーム技術賞)の贈呈式が行われ、パナソニックグループから1件が受賞しました。さらに、本テーマは受賞テーマの中で2番目に高い評価を得て、電気科学技術奨励会会長賞を受賞しました。

同賞は、電気科学技術に関する発明、研究・実用化、ソフトウェア開発、教育等で優れた業績を上げ、日本の諸産業の発展及び国民生活の向上に寄与し、今後も引き続き顕著な成果の期待できる人に対し、公益財団法人 電気科学技術奨励会より贈呈されるものです。

今回、当社の受賞者と業績は、以下のとおりです。

電気科学技術奨励賞並びに電気科学技術奨励会会長賞

『産業用インクジェットヘッド技術の開発と実用化』

受賞者

吉田 英博 :マニュファクチャリングイノベーション本部 部長
中谷 修平:マニュファクチャリングイノベーション本部 主幹技師
深田 和岐:マニュファクチャリングイノベーション本部 主幹技師

写真:左から深田さん、吉田さん、中谷さん

左から深田さん、吉田さん、中谷さん

開発の背景

近年、有機ELパネルの製造において、材料使用効率や省エネの観点から、従来の蒸着方式に代わる新たな製造手段としてインクジェット印刷方式が注目されています。しかし、従来のインクジェット印刷方式では、高精細印刷に伴うノズル詰まりや、圧電素子の駆動に伴う隣接ノズルへの影響(クロストーク)により吐出体積がばらつくという問題がありました。この度、インクジェット印刷方式を有機ELパネルの量産工程に適用するために高精細化に取り組みました。

開発技術の概要

インクジェット印刷方式において、①独自のノズル形状とノズル部でのインク循環技術、②高出力圧電素子と隣接ノズルへのクロストーク抑制技術、③複数のインクジェットヘッドの配列および吐出制御方法により、高精細印刷及び高粘度インク吐出に対応した新たなインクジェットヘッドを開発しました。これにより、世界初※の印刷型有機ELパネルを実現しました。

 (※2021/6/25 当社調べ)

(1)高精細パターン印刷を実現するインクジェットヘッド開発(図1)
高精細な有機ELパネルの製造において、インクジェットヘッドから吐出する液滴体積は微小量となり、ノズルも小径になります。ノズルの小径化に伴い、ノズル詰まりが発生しやすくなります。今回、インクが常時循環可能な新たなノズルを開発し、ノズルの小径化とノズル詰まり抑制を両立し、微小な液滴の吐出を実現しました。

図1.インクジェットヘッド

図1.インクジェットヘッド

(2)高粘度インク吐出を実現するインクジェットヘッド開発
有機ELパネルの製造には、高粘度なインクの印刷が求められています。新たに高出力圧電素子の開発により、高粘度のインクの吐出が可能になりました(図2)。一方、高出力圧電素子を用いると、隣接ノズルへの圧力伝播が増大し、吐出体積がばらつくため、流路絞りを内蔵したヘッド構造を開発しました。これにより、隣接ノズルへのクロストーク抑制と当該ノズルからの吐出液滴体積の安定化を両立させました。

図2.インクヘッド種と吐出特性

図2.インクヘッド種と吐出特性

(3)量産性を確保する長尺ラインヘッド開発
今回大判の有機ELパネルを一括印刷することを可能にする、長尺ラインヘッドを開発しました。これにより、印刷ムラを抑制でき、印刷品質と生産性の両立を実現しました(図3)。

図3.CES2013に出展したパネル

図3.CES2013に出展したパネル

開発技術の成果

新たに開発したインクジェットヘッドにより、印刷方式で世界初となる有機ELパネルの生産に貢献しました。開発したインクジェットヘッドは、インク循環によりノズル詰まりを抑制することができるため材料使用効率が非常に高く、従来の蒸着方式で必要となる真空環境が不要で大気中で稼働可能なため、環境に優しく、機種切替の容易なプロセスです。これにより、安価なモノづくりができ、画像品質に優れた有機ELパネルを安く提供することが可能となり、映像文化の発展に貢献すると共に、今後も大画面・高精細化に対応した技術開発を進めていきます。

受賞者コメント

写真:吉田 英博

吉田 英博

この度は大変名誉ある賞を頂き、誠に光栄に思っております。また、コロナ禍において、授賞式を開催して頂き、主催者の皆様に感謝申し上げます。この度、受賞いたしました産業用インクジェットの開発に際してご支援いただきました多くの関係者の皆様に改めて感謝申し上げます。今後は開発したインクジェットヘッド技術をディスプレイ分野に更なる展開をしていくとともに、他の様々なアプリケーションにも展開していきたいと考えております。

写真:中谷 修平

中谷 修平

この度は歴史と名誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。インクジェット技術は省エネ・省資源を実現する技術として注目されていますが、高精度・高信頼性が求められる産業用途への適用には大きな課題がありました。また、インクジェット技術はメカ、流体、材料、制御などの様々な技術から成り立ち、開発難易度の高い技術ですが、関係者のご尽力により有機ELパネル量産へ適用することができました。今後も、さらなる開発を進め、多くの分野に適用して、クリーンな社会実現を目指していきたいと思います。

写真:深田 和岐

深田 和岐

この度は大変名誉ある賞を頂きまして、誠にありがとうございます。本取組では、映像デバイス産業の発展を目指し、有機ELパネルの高画質と低コストを両立する産業用インクジェットヘッド技術を開発・実用化しました。今後は、本取組で開発した技術を応用展開することで、映像デバイス産業に留まらず、様々な産業の発展に貢献できるよう、開発を推進していきたいと思います。