5. 初めてもらった5銭白銅 1904年(明治37年)
宮田火鉢店では、毎月1日と15日に給金が出た。初めての給金として、幸之助は5銭白銅をもらった。和歌山での生活は貧乏で、1厘銭を母にもらい、近所の駄菓子屋でアメ玉2つを買うのが楽しみだったのが、初めての給金に、今まで手にしたことのない5銭白銅をもらったのである。うれしくて、母恋しさの“泣きみそ”も直ってしまった。
ところが、その大事な5銭のうち1銭を1度に使うという思わぬ出来事が起こった。当時、子どもたちの間で、バイという鉄製のコマを盆の中で回す遊びがはやっていた。
ある日、彼も主家の赤ちゃんを片手で背負い、遊びに熱中していた。彼が勢いよくバイを盆へ回し込んだはずみに、反り返ったため、背中の赤ちゃんの頭を地面に打ちつけてしまったのである。赤ちゃんが泣き出したのに驚いて夢中であやしたが泣きやまない。とっさに、そばの菓子屋に飛んで行って、饅頭を1つ買ってあてがった。幸い赤ちゃんは泣きやんだが、その饅頭の値段が大枚1銭もした。彼は3日分の給金を一遍に使ってしまったのである。