39. 住友銀行と取引を開始 1927年(昭和2年)
当時、松下が主に取引していたのは十五銀行であった。ところが、大正14年9月に、近所に住友銀行西野田支店が開設されて、たびたび勧誘を受けるようになった。そのつど断るが、また勧誘に来る。1年ほどして、その熱心さに、所主は「2万円まで当方の必要に応じて貸付けをしてくれるなら、取引を始めてもよい」と応じた。この前例のない申し入れに、担当者は困惑して引き上げたが、数日後やはり取引を先にしてほしいと言ってきた。所主は、これは住友が松下を真に信用しているか否かの問題であると考え、初めの主張を繰り返した。
この件は支店長に引き継がれたが、支店長の竹田氏は、所主の真意を汲み取り、熱心に奔走してくれた。その結果、異例の約束で、取引が始まったのである。
それから2ヵ月後、金融恐慌が突発し、十五銀行は閉鎖された。困って、住友銀行に2万円の件を問い合わせると、約束通り履行すると言う。所主は、住友精神の真髄に触れる思いがし、強い感銘を受けた。