79. 経営再建に取り組む 1945年(昭和20年)
昭和20年8月15日正午、幹部社員は本社講堂に集まった。ラジオから「終戦の詔勅」が流れてくると、おえつが起こり、広がった。
この瞬間、全員が暗澹とした気持ちに襲われた。敗戦という事実を前にして、ただぼう然とうなだれ、言い知れぬ虚脱感に打ちひしがれていた。
社主は、この姿を眼の当たりにして、胸中深く期すものがあった。その夜、眠れないままに、「今こそ明確なる方針のもとに、全員が一致団結し、復興に努めなければならない」と決心した。
明けて16日、社主は幹部を講堂に集めて、直ちに民需産業に復帰するとの方針を明示した。続いて8月20日、「松下電器全従業員諸君に告ぐ」との通達を出し、その中で「生産こそ復興の基盤である。伝統の松下精神を振起し、国家再建と文化宣揚に尽くそう」と訴えた。
深い悲しみの中から、いち早く立ち上がり、陣頭指揮に当たる社主のこの気迫に、従業員の不安と動揺は静められ、生産準備は迅速に進んだ。だが、その後、事態は急変し、松下電器は、5年間、苦難の道をたどることになった。