story9
DJたちの楽器になった、D.D.伝説

Technics SL-1200MK2

1979

1970年(昭和45)、テクニクスは世界で初めてダイレクトドライブ(以後、D.D.と記載)のターンテーブルSP-10を発売した。その2年後、D.D.方式のレコードプレーヤーSL-1200を発売。同機は、従来のオーディオファン以外の、思いもよらない需要を生み出していった。
1970年代初めにアメリカで流行しはじめたディスコクラブのDJの間でSL-1200が人気を集めていた。彼らは、再生中のレコードを指先で自在に操ることで音楽を「演奏」していたのだ。この状況を丹念にリサーチしたテクニクスの開発陣は、SL-1200に「ディスコクラブにおけるDJユース」という新市場をターゲットにした改良を加えることにした。そして1979(昭和54)年、これまでのHi-Fiユースに加えて、世界で初めてDJユースもコンセプトにした「SL-1200MK2」が誕生する。

定速まで0.7秒というD.D.方式ならではの素早い立ち上がりが「スクラッチ」などのテクニックを可能にしたのはもちろん、オーディオマニアが見れば卒倒するような荒っぽいパフォーマンスにもビクともしない堅牢ぶりも、DJたちの絶大な支持につながった。初代に採用されていた、速度を調整するためのピッチコントローラは、クォーツ方式の採用によりオーディオ機器には不要になっていたが、DJたちの「BPM/ピッチを調整する」という使用法に応えるために敢えて残され、形状もツマミ式からDJたちが使いやすい大型の縦フェーダー式に改良された。またディスコ内では通常のオーディオルームではありえないような大音量に晒され空気振動が影響するため、キャビネットは、上部がアルミダイカスト製、下部は重量級特殊ゴムの一体成型というこれまで類を見ない構造で、不要な振動は徹底して追放された。こうして生まれたSL-1200MK2は、DJたちから熱狂的に迎えられ、世界中のディスコやクラブにおける定番機材の座を勝ち取ることになった。

SL-1200MK2で採用された基本設計は、ほとんどそのまま変わることなく2008(平成20)年発売のSL-1200MK6まで継承される。ターンテーブルを楽器のように演奏するDJたちは、SL-1200MK2のあらゆるディテールや操作感が、そっくりそのまま継承されることを願ったからだ。こうしてDJ・ヒップホップの文化を生み、育ててきたSL1200シリーズだったが、オーディオのデジタル化に伴い2010(平成22)年、生産終了となった。

しかし、その後も復活を望むファンの声は途絶えることはなかった。2014(平成26)年、テクニクス・ブランドが復活を遂げると、SL-1200シリーズ復活を望む声はいよいよ高まり、2016(平成28)年、ついに新たな技術を注ぎ込んで開発されたSL-1200G/GAEが誕生した。そして2019(平成31)年に、SL-1200MK2の血統を受け継ぎDJ向けの機能をアップデートした「SL-1200MK7」がついに帰ってきたのだった。

ニューヨークのラジオ局でSL-1200で音楽を奏でるDJ(1975年)

関連リンク

パナソニック ミュージアム