[MOPTIMO始動]ハリウッド型チームビルディングでサステナビリティと事業を融合させたモビリティサービスを実現 [MOPTIMO始動]ハリウッド型チームビルディングでサステナビリティと事業を融合させたモビリティサービスを実現

PROJECT

人やモノの移動量をオプティマイゼーション(最適化)し、人やコミュニティ、地球を元気にするプロジェクト。移動型無人販売ロボットの導入において、販売戦略の立案や商品企画、戦略に基づく購入体験やロボットの企画など、地域や導入事業者それぞれの個別最適と、開発・製造の全体最適をつなぎ、市場醸成とサービスの早期実現を目指す。

プロジェクトを推進してきたモビリティ事業戦略室の改發壮。
自動車部品、自動車といったメーカーやモビリティサービスのスタートアップと渡り歩き、ハード・ソフトを問わずクリエイターとして研鑽を積んできた。転機となったのは前職で会社一丸となって成し遂げた自動運転バスの定常運行の実現だ。ハンドルやアクセルペダルなどがない、自動運転レベル4を前提として開発されたバスを公道で社会実装させた。改發は車両インテリアや遠隔監視するソフトウェアなどのデザイン、ブランドコミュニケーションの統括だけでなく企画部長として経営企画にも携わった。

プロジェクトオーナー/マネージャー 改發 壮

2022年にパナソニック ホールディングス株式会社 モビリティ事業戦略室に入社した改發は、移動に関する新事業を考えていた。当初、移動量を増やすことに注力していた改發だったが、移動量が多くなりすぎても満員電車や行列という不快が起こる。移動量と幸福は比例しないのではないかと思い直し、移動量を最適にするという一つ上のレイヤーから発想することにした。そして、地方自治体や都市開発企業、観光事業者と会話を重ねる中、例えば、買い物をするにしても人がその場に行くのではなく、商品を販売する棚が移動できれば、移動量の最適化と多くのニーズに応えられると気づいた。パナソニックグループでは移動型ロボットに関する取り組み実績や販売関連機器の開発実績も数多くあり、その知見も大いに活用できる。

地域や場所によっても課題はさまざまだと知った。国民公園、国立公園などの観光地であれば急増するインバウンドへの対応、都市部は人流を合理化する店舗計画、地方では高齢者の買い物難民化など。そこで改發が出した答えは、一つ一つの地域や事業者にフォーカスした“個別”の最適化だった。
今回、実証実験を行う新宿御苑で活用するのは遠隔操縦ロボット。販売の運用形態が常時移動するものではなかったため、あえて自動運転を外した。それは自身の過去の経験にこだわらず、顧客目線で最適な仕様を選定した結果だ。使用シーンだけでなく事業者の運用シーンの体験も徹底的にサポートすることにした。UXデザインも専門としてきたクリエイターである改發ならではのアプローチだった。

一方、改發と同じく2022年にパナソニック コネクトに入社した森川修は、B to Bマーケティングを手掛けたいと考えていた。森川がグループ内に送付しつづけていたマーケティングレポートがモビリティ事業戦略室のメンバーの目に留まり、改發との出会いにつながった。森川は改發のオファーに即答で快諾。こうして改發ともう一人のキーマン・森川がプロジェクトに加わった。

森川には、玩具やその周辺事業を手掛ける会社で市場を切り開いてきた実績がある。「マーケティングとは、ターゲットとなるエリアや購入者に対して、サービスや商品をアジャストさせる仕事。KPIやKGIに掲げた数値達成に終始するのではなく、数字はあくまで目標を実現するための手段だと考えています。私はステークホルダーの利害を把握し、事業にどのような貢献ができるのかを見定めたプランを立案する。そのために、重視するのがストーリー性」と話す。
購入者の体験価値や満足感を想起し、拡散したくなる仕掛けをつくる。マーケティング視点で商品開発やプロデュースを担う森川の加入が、MOPTIMOに欠かせない武器になると改發は感じていた。意気投合した2人は早速MOPTIMOのコンセプトを提案資料にまとめた。

マーケディング担当 森川 修

明治39年に皇室の庭園として開苑した新宿御苑は昭和24年より国民公園として一般公開されて以来、約1億人の来園者が利用しており、近年では訪日旅行者の増加に伴い、令和5年度には過去最多の約250万人超の来園者数を記録した。今後も来園者が増える見込みのなか、サービスの質を維持しながら、より一層来園者の満足度を高めことに取り組んでいた。

新宿御苑では、過去にパナソニックグループと「Smart Town Walkerサービス」という見どころ案内サービスのモニターツアーを実施していたこともあり、MOPTIMOプロジェクトとの出会いにつながった。

改發、森川と新宿御苑は、移動型無人販売ロボットの価値について何度も話し合う中、新宿御苑では四季折々の表情を持つ美しい自然や庭園、御苑の歴史や文化を伝えるミュージアムなどが点在し、時期によって物品や飲食の購入ニーズの生じる場所が変動することから、移動可能なロボットが大いに役立つと気づいた。そして、園内に購入時の体験価値を向上させる移動販売ロボットを導入することで、さらなる来園者の増加や満足度の向上が期待できる、との考えに至った。

また、新宿御苑では、障がいを抱える方々が来園する際の利便性を上げるためのユニバーサルデザインに取り組んでいた。一方、社会課題の解決と事業性を両立させるCSVに対して強い関心があった改發と森川は、MOPTIMOに福祉的就労を組み込むことを早い段階で決めていた。新宿御苑とMOPTIMOは両者で目標をすり合わせていく中で、福祉施設と連携してロボットを遠隔操縦する「働く視点でのユニバーサルデザイン」というコンセプトを導き出した。

これを受け、改發と森川はすぐに社会課題解決型の事業構想を得意としている株式会社マッシュアップに連絡を取った。そこで紹介されたのが、DX分野も手掛ける熊本県の就労移行支援事業所アス・トライだった。

ロボットの駆動部品が海外で開発されると、早速、森川は遠隔操縦のレクチャーのため熊本へ赴いた。日本と海外でタイムラグを生じながらの操縦となったが「担当者の習得が早くて驚きました。最後は遅延を考慮した動かし方まで会得する上達ぶり。教えに行ったはずの私でしたが、すぐに追い越されていました」と森川は苦笑する。

遠隔操縦をレクチャーする森川(右)

移動型の販売ロボットは自動販売機と同じで、人のいないビジネス。新宿御苑が期待する“購入体験を高めるロボット”をカタチにするため、2人は広告領域の企画やストーリー設計に定評のある株式会社電通・株式会社電通デジタル・株式会社電通プロモーションプラス・株式会社gray park 、自動車関係の試作品を多数手がける株式会社アペックス、ロボットの駆動部品を扱うピクセルインテリジェンス株式会社の協力を仰いだ。 新宿御苑からも、来場者を知り尽くした視点からさまざまなアイデアをもらい、内容に落とし込んでいく。

近年増え続けている訪日旅行者――。空港にカプセルトイ販売機を設置し、劇的に市場を拡大してきた実績を持つ森川が口を開く。
「日本のカルチャーを体感できるコミュニケーションはどうだろう」。
その発想を起点に、メンバー間で意見のやりとりを重ねた。そして、たどり着いた答えは、ゲーム機を想起させる十字キーの決定ボタンだった。日本といえばファミコンを生み出した国。無駄の美学かもしれないが、購入時の楽しさを感じてくれる人が必ず存在するだろう。

その他にも、自動販売機で購入する際の「選んだ商品が本当に出てくるのか?」という不安を払拭するため、食品サンプルを展示できるようにした。かつて空港でのカプセルトイ販売の時に、14カ国の言語を表記して見事にはまった成功体験に基づき、森川が多言語表記を盛り込んでいく。共創しながらサービスをアップデートする、このプロジェクトの特徴が遺憾なく発揮された。

販売ロボットの仕様が固まっていく中、森川はマーケティング視点を生かした販売商品の企画も進めていた。
時間に捉われない商品にしたいという販売者の意向を受け、軽食にすることは決まっていた。しかし、それだけでは物足りない。何かないか…。
森川は、販売商品のプロデュースやデザイン、ブランディングでMOPTIMOをサポートする株式会社電通や株式会社電通プロモーションプラス・株式会社gray park の専門家たちと検討を重ねる。行き着いた答えは、日本のおやつ文化に着想を得た、ジャパニーズリアルカルチャー「おやつの時間」だった。

御苑のOYATSUのパッケージイメージ

「おやつと言えば、おまけでしょ?」と森川は子どもっぽく笑う。とはいえ、このアイデアはただの思い付きではない。彼の頭の中には、街中のちょっとしたバザーで購入した商品の方が、お土産として喜ばれたという実体験があった。外国人観光客が希望する日本での楽しみ方に“日本人のリアルな生活を体験したい”が上位にランクインしているデータの裏付けも存在する。

おまけには新宿御苑と親和性の高い木工コースターが選ばれた。

さらに「ここでも働く視点でのユニバーサルデザインを盛り込みたい」との想いから株式会社マッシュアップ主導のもと体制を構築。木工コースターの制作は宮城県の復興支援工場、袋詰めは都内の福祉就労支援施設に決まった。

無人移動販売車両で販売する御苑のOYATSU 無人移動販売車両で販売する御苑のOYATSU
御苑のOYATSU

こうして、新宿御苑はもとより多くのパートナーと共に、CSVの要素も組み込みながら、遠隔操作型小型車を用いた移動型無人販売サービス「PIMTO(ピムト)」を完成させることができた。

ロゴ:PIMTO

高度な専門スキル集団が集まりプロジェクトを進めていくMOPTIMO。個性的かつクリエイティブな集団を一つの目的でまとめあげたのが改發と森川だ。パートナーとの間で福祉的就労と事業活動の両立に対する賛同がベースにあったことも大きかった。2人はこの手法をハリウッド型チームビルディングだと話す。

ハリウッド型チームビルディングとは、言葉の通り監督・脚本家・プロデューサー・俳優などの専門パートの人々が、決められた予算と期間に一つの映画作品を作り上げていく組織形態。リーダーが明確なビジョンを立ち上げ、プロジェクトの遂行にふさわしい人選を行う。そして、情報を共有しやすいフラットな環境の元、各人が専門性を生かしながら一致団結するため、創造性の高い成果が生まれやすいというメリットがある。

ハリウッド型組織のメリット

多様な視点によるアイデア:異なるバックグラウンドを持つ人材が、それぞれの視点から問題解決に向けた斬新なアイデアを出せる、高いモチベーション:自分の役割が全体の成功に大きく貢献していることを実感し、高いモチベーションを維持できる、高い創造性:おのおのが専門性を生かしながら協力することで、革新的な成果を生み出せる

グループウェアなどの普及によって、迅速な情報共有が可能になったことから、従来のピラミッド型に変わる組織の形として採用する企業もあるのだという。ただし、ハリウッド型チームビルディングでは、多様な意見が飛び交うため、意思決定が遅延する可能性があるという指摘もある。

では、2人はこのようなチームをどうまとめてきたのか――。
改發は「ありがたいことに、私はこれまでハードとソフト、デザインと技術、事業企画と商品企画、メーカーとサービサーなど、プロジェクト推進に必要な多種多様な分野に関わらせていただきました。おかげで、プロダクト開発やサービス構築のために必要なモノ・コトに関するあるべき要求仕様を自ら整理することができます。各分野を跨ぐトレードオフがあってもその場ですぐにメリットやデメリットを想定し、チームメンバーに合理的な理由を示したうえでの意思決定を心掛けてきました」と胸を張る。その上で、移動量のオプティマイゼーション(最適化)において、地域や事業者が抱える個別の課題や期待に応えるには、グループ内外を問わず高度なスキルを持つ人材を集めるハリウッド型チームビルディングの手法が最適だと判断した。

これまでの取り組みを振り返り、森川は「私は顧客やクリエイターと打ち合わせをするとき、いつも『どうやれば皆さんと楽しい活動ができるだろうか』という“妄想”を投げかけます。MOPTIMOにおいても、私の妄想に対してアクションを返してくれる人、妄想の上をいく人が現われて、妄想が具体化していきました」と森川はアイデアをブラッシュアップさせていくプロセスを語る。

例えば、ある会議で森川がエンタメ要素を持った丸い販売車を提案した。すると車両の専門家が「それだと商品の積載量が減ってしまう」「でも、キャビンをリフトアップできるようにすれば、エンタメ要素は演出できるかもしれない」などの意見が飛び交った。

ロボットデザインの場面では、メンバーの意見を聞き、デザイナーがスケッチを何度も描く。「カーメーカーやロボットメーカーでの実績を持つデザイナーが、私たちの意見を元にスケッチしてくれました。ものすごい数のロボットを描いてもらい感謝です。その後、技術・製造・法規要件を加味し、われわれがプロダクトデザインをすることによって機能的にも造形美的にも満足できる車両が生まれた」と改發は話す。

景観と調和するカラー・マテリアルのデザイン
運用者の体験価値を高める運用システムのデザイン

個別最適された多種多様な販売ロボットを世界中に走らせる!

MOPTIMOのチーム内で出た意見を元に描かれたスケッチの数々
スケッチワーク(石橋大城)

傍からは、子どもたちが遊びの中で独自のルールをつくり、ゲームを楽しんでいるような光景にも見える。異なるは、集まったメンバーが高度な専門性を有していることだ。フラットな関係性が自由闊達な意見交換を促し、アイデアが磨き上げられていく。

また、改發はMOPTIMOのチームビルディングについて「ハリウッド型ではあるが、アジャイルでもある」とも強調する。「ハリウッド型と聞くと大規模な組織を想像されるかもしれませんが、MOPTIMOは必要な時に必要な人材を集めるコンパクトな運営を心がけています」。だからこそ、MOPTIMOは状況の変化に対応できる柔軟さとスピード感を持つのだと言う。
ハリウッド型チームビルディングで価値を生み出しながらもアジャイル。独自の進化を遂げたチームでMOPTIMOは進んでいく。

移動量の適正化による社会課題の解決は、持続可能な暮らし、人やコミュニティの元気につながっていく。特にMOPTIMOは、ビジネスとしての継続的な成長も期待でき、サステナビリティと事業を融合させたモビリティサービスの実現を目指している。
改發は、サービスの導入先として、観光地のほか都市部や地方も見据えている。

改發は「イノベーションとは誰も思いつかなかった1と1を組み合わせることで生まれると考えています。そして、MOPTIMOが導入しようとしているサービスはイノベーションのベースとなる1だと思っています。だからまず、最初の1を軽く、早く実現することが重要で、そのあとにさまざまなニーズやアイデアが紐づけば、新たな価値や大きな市場が誕生する。それがイノベーション」と語る。

11月から実証実験がスタートする。MOPTIMOは目指す世界へ最適なルートで駆け抜けていこうとしている。
最初の一つ。この指止まれと言わんばかりに手を挙げて改發が言う。
「準備は整いました。共に走り出しましょう」。

MOPTIMO プロジェクトページ