まち全体でより良いくらしを提供する「サスティナブル・スマートタウン」
(本記事は2021年9月時点のものです)
神奈川県藤沢市に、100年先の未来を見据えたサスティナブルな街「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」があります。約19ヘクタールの広大な敷地には、1,000世帯の住宅、健康・福祉・教育施設、商業施設、集会所などが完成時に立ち並ぶことになり、住民一人ひとりの暮らしを起点にして考えられた「エネルギー」「セキュリティ」「モビリティ」「ウェルネス」「コミュニティ」の5つのスマートサービスが街を支えています。パナソニックの技術や総合力を活かしたソリューションと、パートナー企業や自治体との協働によって、エコでスマートなより良いくらしが実現しています。
貢献する主なSDGs(持続可能な開発目標)
目標11:住み続けられるまちづくりを
100年先も『生きるエネルギー』が生まれる街を目指し、「くらし起点」の発想とプロセスでサスティナブルに進化するまちづくりを進めています。
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
パートナー企業や藤沢市、大学、地域住民との協働によって、地域の課題解決につながる取り組みを創出し続けています。
はじまりは、工場跡地の活用から。
サスティナブルなまちづくりで、地域貢献と事業拡大を
サスティナブル・スマートタウン(SST)構想の始まりは、10年以上前に遡ります。生産の多くを海外に移転する流れの中で、全国の工場跡地の活用が課題になっていました。工場跡地を単に売却するのではなく、地域や事業の発展につながるような活用方法はないか。そんな思いから立ち上がった若手メンバーの勉強会での議論が、工場閉鎖が決まった後の藤沢市に対するまちづくりの提案につながり、プロジェクトがスタートしたのです。
背景には、事業活動を通じて、社会の発展や地域活性化に貢献すべきと考えてきた創業者の理念に基づいて、当社として工場は続けられなくても、長年工場としてお世話になってきた地域に対して別の形で貢献していきたいという思いがありました。特にまちづくりは、当社の技術や総合力を活かした新たなソリューションに挑戦するフィールドになり、その実績やノウハウを社会に提示していくことができます。そして、様々なパートナーとの共創の場にもなると考えました。
実証実験で終わらないまちづくりを実現するために、当社はサスティナビリティを重視し、そこにスマートな技術や仕組みを導入する「サスティナブル・スマートタウン」を目指すことにしたのです。
パナソニックならではの「くらし起点」のまちづくり。
住民参加型で、長く住み続けられる街に
従来のスマートシティは、まずスマートなインフラを起点に、そこから空間や街をつくっていったため、多くが持続可能ではありませんでした。当社は家電メーカーとして、くらしの価値から家電を生み出してきた背景があります。この「くらし起点」の発想で、10年後、20年後、100年後のスマートライフがどうなっていくかをまず想定した上で、それを実現するための場所やインフラ、サービスを考えています。持続可能性を重視した、当社ならではの「くらし起点のまちづくり」です。
また、長く住み続けられる街にするには、住民を巻き込みながら、コミュニティを醸成する必要があります。さらにはそこに先進的な取り組みを進めるパートナー企業も参画することで、産官学と住民共創によるイノベーションが生まれていきます。たとえばFujisawa SSTの「まち親プロジェクト」では、18の企業や大学、自治体、住民による自治組織が連携しています。新しいサービスや技術の実証に際しては、住民のモニタリング参加やタウンミーティングでの意見交換なども行い、多様なパートナーが連携しながら、まちづくりを進めています。
5つのスマートサービスが支える、エコでスマートなくらし
2011年にプロジェクトが立ち上がり、まず取り組んだのが、街全体として目指す数値目標とガイドラインの策定でした。CO2排出量の70%削減や生活用水の30%削減、再生可能エネルギーの利用率30%以上といった環境・エネルギーに関する目標だけでなく、災害時のライフラインの3日間確保という安心・安全に関する目標を設定しました。
こうしたまちづくりを支えているのが、パナソニックが提供する「エネルギー」「セキュリティ」「モビリティ」「ウェルネス」「コミュニティ」の5つのスマートサービスです。Fujisawa SSTでは、これらのスマートサービスを通じて地域の課題解決につながる様々な取り組みが生まれています。
エネルギー:
全ての戸建住宅に、太陽光発電システムと蓄電池を備え、エネルギーを効率的に管理するシステムを導入。エネルギーを自産自消することで、災害時にもライフラインを3日間確保できる体制になっています。
セキュリティ:
非常時の防災や平常時の防犯にも、自分たちで対応できる「自立互助の街」を目指して、安心・安全目標とガイドラインを策定。スマートテレビを活用して、住民に防災情報をプッシュ型で発信する仕組みも導入しています。
モビリティ:
これからの社会は「所有」から「利用」に移行することや、互助を支えるシェアエコノミーの広がりを踏まえ、EVや電動サイクルなどのシェアリングサービスを導入しています。当社は家電メーカーでありながら、住宅や車も戦略事業として展開しているので、モビリティを重視したまちづくりでも強みを発揮できます。
また、国内初のタウン内二次配送サービスも展開しています。届いた運輸各社の荷物を、ヤマト運輸様がまとめて配送するほか、当社のIT技術を活かして、スマホやスマートテレビから配達日時や場所の指定ができたり、着荷通知が届いたりします。これにより、運輸会社にとっては再配達削減、コスト削減、CO2排出量削減、そして人手不足の解消につながるなど、社会課題を解決しています。
ウェルネス:
特別養護老人ホームやサービス付き高齢者住宅、保育所、学童保育、学習塾などを、すべて一つの施設内で展開しています。これにより多世代交流が生まれ、子どもたちの情操教育にもつながっています。
また介護施設には、当社の技術を活かしたスマートエアコンサービスを導入。人の動きを感知する電波センサーによって、温度や湿度の管理だけでなく、就寝などの生活リズムも把握できるため、安心・安全な介護サービスを提供できます。
働き手不足の高齢者施設の現場で、活躍の場がない元気な高齢者層が就労できるようなマッチングの仕組みづくりも進めています。
コミュニティ:
街と住民をつなぐポータルサイトを運用しています。スマホやスマートテレビを通じて、町内や地域のイベント情報、防災情報、各家庭のエネルギー使用状況、モビリティシェアリングの予約など、あらゆる情報を配信します。この仕組みを通じて、住民は意見を発信したり、まちづくりに参加したりすることもできます。
注目が集まるサスティナブル・スマートタウン。
地域や企業にもたらす効果とは
Fujisawa SSTは、2014年のオープン以来、国内外から大きな注目を集めています。ビジネス関係者向けの見学ツアーには、すでに2万5,000人の方々が参加し、最近では海外からのお客様も4分の1を占めています。背景には、サスティナブルなまちづくりや「持続可能な開発目標(SDGs)」への関心が高まっていることがあります。当社は、SDGsよりも先行して、サスティナブルなまちづくりに取り組んできましたが、結果としてSDGsが掲げる17の目標のうち、8つの目標の達成に貢献するプロジェクトになっています。特に、目標11の住み続けられるまちづくりや、目標17の様々なパートナーシップを通じてSDGsを達成することは、まさに当社が実践しているものです。Fujisawa SSTの取り組みが高く評価されたこともあって、2018年に神奈川県が、内閣府が公募の「SDGs未来都市」(計29自治体)と、そのうち特に先導的な取り組みである「自治体SDGsモデル事業」(計10件)の両方に選定されました。
またFujisawa SSTは、住宅や設備、B2Bソリューションなど、当社の幅広い技術や取り組みの実践ケースになっています。街の要素に欠かせない「住空間」と「モビリティ」を戦略事業として持っていること、幅広い事業領域でB2B共創を展開することで「くらし」にとどまらない技術と発想があること、そして柱として創業者の強い理念があることで、多くの企業や自治体からご相談いただき、協業のチャンスにつながっています。
次なる未来に向けて。
サスティナブル・スマートタウンを、全国そして世界へ
Fujisawa SSTは、現在7割が稼働し、2022年に完成予定です。今後を考える上での一つの重要な要素は、2030年を見据え、バックキャストでまちづくりを考えていくことです。そのためには、街の人口動態の予測とバランスがポイントとなります。多世代が暮らし、街の中で住み替えが行われるのが望ましいのですが、定住者だけにしてしまうと人口動態が固定化されてしまいます。若い世代もまちに住み、働き、また訪れるようなシェア型住宅、交流施設など、多様なスタイルの空間機能をつくることも検討しています。当社では、街にあるデータから人口動態マップをつくっており、未来の街の人口分布を予測しながら、サービスを生み出していきます。こうしたデータやノウハウを活かして、まちづくりに取り組んでいくことで、魅力的な事業が広がるのではないかと思います。
SDGsは誰一人取り残さない、全員参加の取り組みだと思います。一人ひとりが、SDGsを「単なるゴール」「先の未来の話」「どこか遠くの国の問題」と捉えるのではなく、「自分が何をすべきか考え、できることから行動していく」という意識を持つこと。このことが非常に重要だと、このプロジェクトを通じて実感しています。
SST第2弾として横浜市・綱島で運営しており、第3弾として大阪でもまちづくりを予定しています。工場跡地や遊休地の課題を抱えるのは、当社だけではありません。多くの企業や自治体からのご相談も増えており、当社の実績やノウハウを活かした提案も動き始めています。サスティナビリティやSDGsを意識しながら、さまざまなパートナーとともに、未来のくらしを起点にしたまちづくりを、日本だけでなく世界でも取り組んでいきたいですね。
10年以上前に小さな勉強会から始まったSSTプロジェクトは、当時の想いが今そのまま形になっています。私に続くメンバーの想いも積み重ね、持続可能なプロジェクトとして、SSTがSDGs達成に向けて継続的に貢献してほしいと思っています。