「商品から商品へ」資源循環の取り組み

2001年の「家電リサイクル法」施行以前、多くの家電は埋め立て処分されていました。現在は家電リサイクル法対象製品について、そのほとんどが回収され、リサイクル処理されています。当社では「商品から商品へ」をコンセプトに、使い終わった商品から取り出した資源を活用する取り組みの拡大を進めています。樹脂では、使用済み家電製品(洗濯機・冷蔵庫・エアコン・テレビ)から取り出した樹脂の自社製品への再利用を進めています。

貢献する主なSDGs(持続可能な開発目標)

目標12:つくる責任 つかう責任

特に12.2 天然資源の持続可能な管理および効率的な利用、12.5 廃棄物の削減に貢献しています。

12 つくる責任 つかう責任

循環型モノづくりに向けて「樹脂循環プロジェクト」を推進

家電に使用されている樹脂は成型・加工が容易で量産性も高く、モノづくりに欠かせない便利な材料です。反面、商品から商品への循環を実現するためには、高純度・高効率での選別や再生樹脂の使いこなしに高度な技術が必要です。パナソニックでは、2010年に発表した環境行動計画「グリーンプラン2018」において循環型モノづくりの追求を宣言し、2014年度から2018年度の
5年間で再生樹脂利用量4万5千トン以上の目標を掲げて、樹脂循環プロジェクトを推進してきました。

家電製品に使用されている鉄や銅、アルミなどの金属は、熱などで溶解・製錬することで、高い品質を維持したまま再生ができます。一方、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、ABSといった樹脂は、混ぜて溶融すると特性を維持できなくなるため、高純度で選別する必要があります。当社は樹脂を使用するメーカーであり、樹脂を作り込む技術を持っています。そこで、高い純度で選別・リサイクルを行い、再生樹脂を製品の部品として使用することで、バージン材の使用を抑制し、資源の効率的な利用を通じて社会に貢献できると考え、樹脂循環プロジェクトを進めてきました。

井上雅篤 環境推進部 部長

樹脂循環の流れ

使用済み家電製品 → PETEC(プラスチックを取り出す) → 高純度プラスチック → 加東樹脂循環工場(洗浄、強度・寿命回復) → 異物除去後、強度・寿命を回復させたプラスチック → 当社工場(商品に活用) → エアコンのフィルター枠、冷蔵庫のカバーダクトなど再生樹脂を活用した部材

商品から商品へ。それを可能にするプロセスとは

2001年に施行された「家電リサイクル法」により、エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機の4品目に関して、小売業者は「排出者からの引き取りと製造業者等への引き渡し」、製造業者等は「引き取りとリサイクル(再商品化等)」といった役割を分担し、リサイクルを推進することが義務付けられました。

パナソニックは、法律の施行に先行して家電リサイクル工場を立ち上げ対応を進めていたのですが、回収した樹脂の品質チェックを行ったところ、家電製品から回収された樹脂は、問題なく使える可能性があることがわかりました。私たちは家電メーカーですから、どのような樹脂が使用されているのか、樹脂にどのような処理を施しているのかわかるため、再生のプロセスを構築しやすいという強みがあります。パートナーとの協力体制を組むことで、商品から商品への樹脂循環を実現する可能性が見えてきました。

3種の樹脂を同時に選別できる
近赤外線樹脂選別機

製品には多くの種類の樹脂が使用されています。その再生過程において、種類ごとに樹脂を選別することが重要です。

課題になったのは、いかに高い純度で効率よく大量の樹脂の選別・回収を行うかでした。純度にこだわると回収効率が低くなり、また回収効率にこだわると純度が低くなってしまいます。そこで回収効率と純度を両立させる最適なプログラムを構築し、破砕した使用済み家電製品に近赤外線を照射して、一度でPP、PS、ABSを判別・回収する装置を開発・導入しました。以前は、それぞれの素材別に判別を行う工程が必要でしたが、これにより回収効率が大幅に向上しました。

もう1つの課題は、再生樹脂の利用用途を拡大していくことです。耐熱性や難燃性向上のための高機能化や、外観品位の向上、再生樹脂の特性の見極めといった使いこなし技術の開発に注力することで、冷蔵庫の庫内部品や洗濯機の台枠などへと利用範囲は拡大しました。

こういった一連の取り組みが評価され、パナソニックの取り組みは一般社団法人 産業環境管理協会が主催する「平成27年度 資源循環技術・システム表彰」において、経済産業大臣賞を受賞しています。また2017年には、再生樹脂利用量4万5千トン以上の目標を、1年前倒しで達成することができました。

持続可能な社会に向けた新しい樹脂材料への取り組み

再生樹脂の利用拡大を推進すると共に、持続可能な社会に向けた新しい樹脂材料への取り組みにも挑戦しています。
2017年度に発売したコードレススティック掃除機の本体部に採用された当社独自開発の軽量素材「セルロースファイバー樹脂」は、植物の主成分であるセルロースから抽出した繊維による軽さと強さを兼ね備えたハニカム構造で、ハイパワーモーターを格納しながら軽量化を実現しました。
セルロースは木材などから採れる天然由来の「グリーン材料」で、化石燃料とは異なり、計画的に植林などを行うことで再生産でき、枯渇の心配がありません。広く普及すれば、資源枯渇の緩和につながることが期待できます。

写真:コードレススティック掃除機

再生樹脂が当たり前になる社会を実現したい

再生樹脂の利用拡大には、3つの課題があると考えています。第1の課題はコストです。使用済み家電製品から回収された資源は、その時点では非常に安価です。しかし、リサイクルして商品に再利用するには技術開発や設備投資が必要になります。再生樹脂の利用拡大には、こういったコストも含めて、バージン材よりも価格を安価にしていく必要があります。

第2の課題は、再生樹脂の使用を前提にした製品設計です。モノづくりの面だけを考えると、バージン材を使用する方が手間もコストも抑えることができます。一方、資源枯渇に目を向けると、将来的にバージン材が使用できなくなるリスクも想定されます。このリスクをチャンスに変え、商品から商品への循環を実現していくためには、リサイクルや再生樹脂の使用を前提としたモノづくりへとシフトしていく必要があります。設計部門との意識共有を進めてきたことから、リサイクルを考慮したモノづくりが、ようやく本格化しようとしています。

第3の課題として、私たちメーカーや小売店、国や自治体、お客様などステークホルダーの皆様とともに、社会全体の意識改革を図っていく必要性があると考えています。家電製品の特性は、例えばテレビは美しい映像を映し出すことであったり、エアコンであれば空調の制御ができることだったりします。樹脂などのマテリアルは、お客様に対する価値を現状では生んではいません。SDGsが社会に浸透することによって、プラスチック資源を無駄にしない再生樹脂を使用することが良いことだと、お客様に評価され選ばれるようになることが持続的に事業を継続していくためには必要です。また、樹脂循環の仕組みをグローバルに展開していくことを考えると、途上国などでは回収インフラの構築も重要になります。

再生樹脂活用拡大による社会へのお役立ち

私たちは、家電業界で使った樹脂をクローズドリサイクルし、家電業界の中で半永久的に再利用できる仕組みを構築したいと考えています。一方、当社創業者の松下幸之助の考えにあるように「利益は社会へのお役立ち料」であることから、適正な利益を追求することも大切です。樹脂循環プロジェクトでは、課題解決への貢献と利益の追求を両立するモデルを確立し、社会に広げていきたいと考えています。