8-4. 親しき偉人

昭和が終わりを告げた春、風邪をひいた幸之助はそのまま気管支肺炎を起こし、94年5ヶ月にわたる生涯を閉じた。平成元年4月27日午前10時6分。波乱に富んだ人生とは対照的な、安らかな顔で迎えた最期であった。国内外のマスコミが大きく報じ、訃報は世界を駆け巡った。密葬に1万2千人、松下グルーブ各社の合同葬には約2万人が参列。アメリカ合衆国大統領をはじめ、世界中から多数の弔電が寄せられた。

まだ電灯さえ普及の途にあった明治の終わりに電気の世界に身を投じ、マルチメディア時代を目前にした昭和の終わりに幕を引いた幸之助の生涯は、日本の電化時代を象徴する立志伝であった。世界の繁栄という大きな願いを、あくまで追い求める高邁な精神と同時に、常に世間の人々と同じ立場に立つ庶民性を併せ持つ不思議な魅力。そして、火鉢屋の丁椎を振り出しに、幾多の困難を強い信念で乗り越え、自らの「道」を切り拓き続けた生き方は、今もなお、多くの人の心に生き続けている。

心を定め 希望をもって歩むならば 必ず道はひらけてくる