電動アシスト自転車の原型

電気自転車「Electric Cycle」

登録年:2022年
登録番号:00333
品番:DG-EC2
製作者:ナショナル自転車工業株式会社
製作年:1980年

登録基準:
1.-【イ】科学技術の発展の重要な側面及び段階を示すもの
2.-【ハ】社会、文化と科学技術の関わりにおいて重要な事象を示すもの

当社の電動アシスト自転車が、東京2020で自転車競技の先導車に採用され活躍

当社の創業者・松下幸之助は、少年時代に自転車店で丁稚奉公をして商売のノウハウを身に着けたため、自転車に対して強い思いを持っていたようです。この電気自転車の開発は、幸之助が1976年に「電気屋らしい自転車を作ろう」と呼びかけたことがきっかけとなってスタートしました。

開発・製造を担当するナショナル自転車工業の技術者と、松下電器産業や松下電池工業の技術者が連携、グループの総力を結集し、「電気屋」としての技術力とノウハウを生かして、画期的なフラットモータと高性能バッテリを開発。1978年には、幸之助自ら試乗車にまたがり、その性能を試しました。

1980年、日本で初めて量産化した電気自転車「Electric Cycle」が誕生。現在の電動アシスト自転車とは異なり、エンジンをモータに置き換えた原動機付自転車(原付)で、ペダルは付いていますが、人力走行とモータ走行は別駆動の、いわゆるモペッド(ペダル付のオートバイ)であるため、ナンバープレート台座が装備されています。また、バッテリは鉛電池を採用していました。

同年1月から大阪、奈良、和歌山で、その後5月から東京、名古屋で限定発売されると、大きなインパクトを与えましたが、モータによる自走が可能な原付扱いのため、ヘルメット着用が義務付けられたほか、運転免許や自賠責保険への加入も必要というように、数々の制約があり、また、鉛電池の性能や寿命に課題が見つかったことなどの理由により、一般販売を断念しました。しかし、業界初の製品化された電気自転車として、その後の電動アシスト自転車の先駆けになったという点で重要と評価されています。

サイクルショップでの電気自転車の試験販売(1980年)

開発者インタビュー

パナソニック
サイクルテック株式会社

元副社長
伊藤 政博
(現:同社 審議役)

1980年 ナショナル自転車工業入社

幸之助の発案で電気自転車の開発がスタート

私が入社した当時は、日本が世界の自転車の供給拠点でした。国内の自転車業界は活況を呈しており、当社も欧米向けのスポーツ車を大量に輸出していました。私は、その輸出用自転車の設計を担当したので、国内向けの電気自転車についてはあまり知らないのですが、当時、正門前の広場にこの自転車がズラっと並んでいて壮観だったことを記憶しています。

この世界初の電気自転車は、創業者の「電気屋らしい自転車を」という言葉が開発のきっかけになったと聞いています。当社は電機メーカーだから電気で走る製品を作りたいという思いからだと推測していますが、創業者のその発想が、それから40年以上経った現在、当社の主力商品である電動アシスト自転車の原点になっていることがとても興味深いところです。

ただ、この製品は電動機付自転車扱いだったため、運転免許証やナンバープレートの登録が必要など、自転車屋さんが販売するにはハードルが高く、500台限定の試験販売で一旦終了し、技術はお蔵入りとなりました。

電気自転車の試乗車に乗ろうとする松下幸之助(1979年)

電動アシスト自転車の原型となる

それから13年後の1993年にヤマハ発動機が電動アシストの概念を作り、免許証もナンバープレートも不要の電動アシスト自転車を世界で初めて発売します。当社も、「ヤマハさんに負けない製品を作ろう」という意気込みで開発を開始し、その3年後の1996年に、電動アシスト自転車の1号機「陽のあたる坂道」を発売しました。この開発には、1980年の電気自転車開発で培ったノウハウも生かされています。

当時、ヤマハ、ホンダ、スズキとオートバイメーカーが参入しており、デザインはオートバイと自転車の折衷のような形でした。そうした中、当社は「自転車のかたちをしっかり守っていこう」という思いで、1980年に発売した電気自転車の形態にこだわりました。現在発売されている製品をご覧になれば一目瞭然ですが、最終的に当社のかたちが主流になりました。今回、当社の電気自転車が「電動アシスト自転車の原型」と位置付けられたのは、この点だったのではないかと思います。

自転車への想いを語る伊藤さん

たくさんの人々に自転車愛を

その後、自転車業界全体の中で、電動アシスト自転車は急激に伸びていきます。当社は、一早く商品の主軸を一般自転車からシフトし、現在、電動アシスト自転車の国内シェアNo.1※1になっています。これが出来たのは私たちが「自転車屋」であり、かつ「電気屋」でもあるからではないかと思います。

お蔭様で当社は今年、自転車一筋で創業70周年を迎えました。当社には、自転車が大好きな社員がたくさんいます。ただ、好きなことを仕事にしていると逆に苦しいことも多い。私自身「もう自転車を見るのも嫌だ」と思った時期もありました。でも、がんばっていい製品を世の中に出せば、今回のように、後進の見本になる資料として、公的機関に認めてもらえるわけです。若い技術者の皆さんには、製品開発を通じて、愛する自転車の魅力をたくさんの人々に伝えていって欲しいと思います。

※1:当社推定

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