グループCEO 楠見 雄規が語る パナソニックの決意

猛烈な熱波。大規模な干ばつや森林火災。水害の多発。今、気候変動の影響といわれる自然災害が増えています。皆様も、猛暑や豪雨などの気候変動に不安を感じることが多くなったのではないでしょうか?​

このような状況を放っておけば、私たちの将来、さらには子どもや孫、その先の世代に、この美しい地球上で暮らし続けることができなくなってしまうのではないか? 私たちはもっと危機感を持つべきだと思うのです。

「物心一如の繁栄」という使命を果たせているか?

当社の創業者 松下幸之助は創業から14年後の1932年に「人間の幸福は、物心両面の豊かさによって維持され向上が続けられる。精神的な安定と、物資の供給が相まって、初めて人生の幸福が安定する」と考え、その実現が当社の真の使命であると確信しました。そして、物と心が共に豊かな理想の社会、すなわち「物心一如の繁栄」を、250年かけて実現する「250年計画」を宣言したのです。

当社は、この使命を果たすために、今日に至るまで製品(物)をお届けすることを中心に人々の幸せや豊かさを追求してきました。先進国では物が満ち溢れ、不便らしい不便を感じることは少なくなりましたが、果たして「物心一如の繁栄」に近づくことはできたでしょうか。資源の枯渇や、子や孫の世代まで豊かな地球環境が持続できるのか不安を感じずにはいられません。

当社は2022年に、「パナソニックの事業を通じて地球環境に、社会に、ポジティブな“インパクト”を与え、それを実際に“アクト”していく」という願いを込めて、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を策定しました。「250年計画」における今から約160年後の未来を見据えた時に、「気候変動」と「資源枯渇」が、現時点の喫緊かつ最重要な社会課題と認識したためです。

写真:パナソニック社屋の入口

パナソニックの責務―カーボンニュートラル

当社は、工場で製品を生産する過程などの事業活動を通じて年間約220万トンものCO2を排出しています。さらに、当社の製品は、世界で約10億人以上のお客様にご愛用いただいており、製品使用時の消費電力によるCO2排出量は年間約8,600万トンと試算されます。これは工場から排出されるCO2のおよそ40倍にもあたります。それらを含めた自社バリューチェーン全体で排出されるCO2はおよそ1.1億トン※1もの膨大な量です。

当社はこの現実に真摯に向き合い、まずは2030年までに全事業会社のCO2排出量を実質ゼロにします。近年、CO2排出量実質ゼロの工場で生産した製品でないとお取り引きいただけないお客様も増えています。各国の規制も強化される中、この「ネットゼロ」と呼ばれるモノづくりは、事業継続の必須条件になると予測しています。簡単ではありませんが真っ先に取り組み、より効率的に実現することが当社の競争力にもなると考えています。

また、自社バリューチェーン全体のCO2排出をゼロにするには、一つひとつの製品を徹底的に省エネ化することに加えて、社会全体でエネルギー供給源を化石燃料から再生可能エネルギー由来のものへ移行していかなければなりません。さらに、一般の生活者の方々に負担を強いることなく、今まで通りやそれ以上の豊かなくらしを送りながら社会のCO2削減につながる製品やソリューションを提供していくことも欠かせません。

当社は、車載用円筒形リチウムイオン電池やヒートポンプ式温水暖房機によって、化石燃料から再生可能エネルギー由来の電気への転換を推進するほか、ビルの窓ガラスや壁面など様々な場所に設置できる「ペロブスカイト太陽電池」、高純度の水素と空気中の酸素との化学反応で発電する「純水素型燃料電池」など、製品・技術を活用した社会のエネルギー変革へインパクトを与える取り組みを通じて、2050年に向けて3億トン以上※2の削減インパクトを目指します。

※1. 2020年度実績値
※2. CO2排出係数は2020年基準

写真:パナソニック エコテクノロジーセンターの俯瞰

社会全体で取り組むための「削減貢献量」

優れた再エネ技術や省エネ製品が、これまで使用されていた製品やサービスを代替することによって回避されるCO2排出量を「削減貢献量」と呼びます。例えば10年前に購入したエアコンを、新しい消費電力の少ないエアコンに買い替えることで削減されるCO2排出量を「削減貢献量」として表します。

すべての企業は、自社のCO2排出量実質ゼロを目指す必要がありますが、同時に社会のCO2削減に貢献できる技術や製品を持つ企業は、それを普及させる責務があると考えています。「削減貢献量」は、企業が気候変動問題の解決にどれだけ貢献したかを測る指標であり、測り方に関する共通のルールを定めることで、取り組みの効果を比較することもできます。そこに公正な評価と競争の原理が生まれ、社会のエネルギー変革を加速させる原動力となることを期待しています。

COP28で伝えたかったこと

今、電機業界では「削減貢献量」の国際標準化に向けて、多くの企業が当社と同じ思いを持って活動しています。今後は、社会のCO2削減を加速していくために、電機業界だけでなく、さまざまな業界とともに世界中で削減貢献に取り組まなければなりません。特に、エネルギー供給時の電力の再エネ化などは社会のインフラの問題であり、日本のみならず世界中で取り組み、社会全体でエネルギー変革を進めることが必要です。

これを提言するために当社はCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)に参加しました。会期中、私自身が「業界全体で削減貢献に取り組み、他の企業や政府機関などにもインパクトを与えていきたい」という思いで“アクト”し、経済産業省が主催するセミナーへの登壇、政府や他の企業の方々、投資家の方々と対話しました。その“アクト”を通じて「削減貢献量」が持つ重要性への理解を深めていただけたのではないかと感じています。気候変動の抑止には、国や企業だけでなく、社会に身を置く私たち一人ひとりの意識変容や行動が大切です。当社は、これからも自社の責務に向き合うとともに、社会の皆様にインパクトを拡げ、皆様が地球環境への“アクト”を起こすきっかけづくりを推進していきます。

もう一つの取り組み―サーキュラーエコノミー

私たちの生活は、地球上のさまざまな資源を使って成り立っています。資源が枯渇すると製品を作れなくなり、生活が不便になるだけでなく、生態系への悪影響や、国際的な紛争の激化など、社会全体にさまざまな影響を及ぼします。だからこそ、今使っているものを再生して資源を循環させることが大切です。しかし、現在、資源の再生には新しい原材料を使う以上にコストがかかる課題があるため、再生材を安価に作る新たな技術を確立することが非常に重要です。

当社は、資源効率の向上が脱炭素化にも寄与することを認識し、資源の生み出す価値を高め、環境負荷低減につながるサーキュラーエコノミー(循環経済)の取り組みを加速し、お役立ちを果たしてまいります。

写真:廃家電から取り出されたリサイクル素材

パナソニックの決意

当社は、喫緊の課題である「気候変動」と「資源枯渇」に最優先で取り組み、社会全体の目標を1年でも2年でも前倒しで達成できるよう最善を尽くしていきます。この取り組みは、3億トン以上の削減インパクト創出を達成して終わりではありません。3億トンは当社にとっては非常に大きな目標ですが、世界の総CO2排出量※3で見ると約1%に過ぎません。一企業の取り組みでできることは限られています。だからこそ、皆で、社会全体で取り組んでいくことが必要です。より大きなインパクトを社会にもたらしていくために、当社だけで取り組むのではなく、同じような思いを持つ仲間とつながり、一企業だけではできないことを皆で力を合わせて実現できるように取り組んでいきます。
当社は、これからも本気で脱炭素社会に向けた取り組みを、「Panasonic GREEN IMPACT」の“アクト”を積み重ねていきます。

※3. 2020年エネルギー起源CO2排出量(出典:IEA)

パナソニックグループCEO 楠見 雄規