第7回 中学校教員対象 キャリア教育オンラインセミナー
「これからの社会に求められる人材とは」実施報告

第7回キャリア教育オンラインセミナーは、経済産業省 経済産業政策局 産業人材課から松原ななみ氏を講師にお招きし、「これからの社会に求められる人材とは?」をテーマに、労働市場を取り巻く環境の変化と将来求められる人材像についてのお話を伺いました。

第7回 中学校教員対象キャリア教育オンラインセミナー これからの社会に求められる人材とは?-経済産業省職員に学ぶ授業のヒント- 2025年8月5日(火)14:00~15:00 主催:Panasonic 後援:全日本中学校長会、全国市町村教育委員会連合会、全国中学校進路指導・キャリア教育連絡協議会

講師:
経済産業省
経済産業政策局 産業人材課
松原 ななみ 氏

講師:経済産業省 経済産業政策局 産業人材課 松原 ななみ 氏

【講演概要】

はじめに

教育界と産業界は本来連携すべきであるものの、現在はまだ距離があると認識しており、今後、少子高齢化により労働供給が制約される社会においては、人材育成を共に進める必要があると考えています。
産業人材課では、経済産業省における人材政策の司令塔として、将来産業界が必要とする量・質の人材を育成するべく、各種施策に取り組んでおりますが、まさに教育段階からの戦略的な人材育成が不可欠と感じています。

1.今の中学生が大人になってから生きる世の中とは?

◇国内投資拡大・産業構造を踏まえた2040年の将来見通し

2040年は、現在中学生である15歳の子どもたちが30歳となり、社会の中核を担う働き盛りの世代となる時期です。だからこそ、これからの社会がどう変化し、そこではどのような人材が求められるのかを理解することは、次世代のキャリア形成にとって極めて重要です。

経済産業省では、本年6月に公表した「経済産業政策新機軸部会第4次中間整理 ~成長投資が導く2040年の産業構造~」において、2040年の産業構造の将来像を、定量的なシミュレーションを通じて描いています。人口減少が続く中で経済成長を維持していくためには、国内投資を拡大し、産業構造を転換する必要があります。特に影響が大きいとされるのが、「GX(グリーントランスフォーメーション)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「経済安全保障」という3つの潮流です。

将来の産業構造転換に向けては、①製造業、②情報通信・サービス業、③アドバンスト・エッセンシャルサービス業が鍵となります。製造業は、GX・フロンティア技術による差別化や、デジタルを活用したサービス化等による高付加価値化をしていくことで、雇用を拡大し、賃上げも実現できる産業になっていきます。また、情報通信・サービス業は、フロンティア技術等により、製造業の高付加価値化やサービス業の省力化等が進む際に生まれる新需要を開拓することで、新たな付加価値を創出していきます。こうした変化で、他産業を上回る賃上げを実現する成長産業となります。一方で、医療・介護などのエッセンシャルサービス業も、省力化投資を使いこなし、賃上げを実現できる産業である「アドバンスト・エッセンシャルサービス業」に変化していきます。このように、2040年には産業構造が足下から大きく変化する見込みとなっています。

◇雇用コミュニティの変化

また、企業の採用のあり方も大きく変わってきています。これまでは、高度成長・人口増加に支えられた安定的な社会の中では、メンバーシップ型の雇用が主流でした。個人は、新卒一括採用で社会人となり、1つの組織の中から出ないまま、企業主導型のキャリア形成を進め、定年退職となる流れが一般的でした。他方で、足下、採用ルートが多様化し、兼業・副業・テレワーク等の柔軟な働き方が進んでいるほか、リスキリングによるキャリアアップや、年齢にとらわれない学び直し・活躍も当たり前の社会に変化しつつあります。このように、雇用の在り方が多様化・複線化する社会においては、「キャリア自律」が核となります。誰かに決めてもらうのではなく、自分自身で興味・関心や強みを見つけ、それに基づいて学び、将来の方向を主体的に選び取っていく力が求められているということです。

2.これからの社会で求められる人材とは?

◇将来求められるスキル・能力の予測

経済産業省では、「経済産業政策新機軸部会第4次中間整理 ~成長投資が導く2040年の産業構造~」でお示しした2040年の産業構造を実現するために、あるべき将来の就業構造についても推計を行いました。結果、少子高齢化による人口減少に伴って労働供給は減少するものの、AI・ロボット等の活用促進や、リスキリング等による労働の質向上により、大きな不足は生じない見込みとなりました。一方、現在の人材供給のトレンドが続いた場合、職種間、学歴間においてミスマッチが発生するリスクがあり、戦略的な人材育成や円滑な労働移動の推進が必要となります。
職種間のミスマッチを見てみると、生成AI、ロボット等の省力化に伴い、事務、販売、サービス等の従事者は約300万人の余剰が生じる可能性がある反面、多くの産業で研究者/技術者は不足傾向となります。とりわけ、各産業でAIやロボット等の活用を担う人材は合計で約300万人不足するリスクがあります。
学歴間のミスマッチでは、研究者や技術者等の専門職を中心に、大学・院卒の理系人材で100万人以上の不足が生じるリスクがあります。また、生産工程を中心に、短大・高専等、高卒の人材も100万人弱の不足が生じる可能性があります。一方、事務職で需要が減少する反面、現在供給が増加傾向にある大卒文系人材は約30万人の余剰が生じる可能性があります。

また、2022年に経済産業省がお示しした「未来人材ビジョン」においては、「将来求められるスキル・能力」についての予測を行いました。現在は「注意深さ・ミスがないこと」や「責任感・まじめさ」に重きが置かれていますが、2050年は「問題発見力」、「的確な予測」、「革新性」がより一層求められるようになります。
このように不確実性が高まる社会では、新たな未来を牽引する人材が求められます。それは、好きなことにのめり込んで豊かな発想や専門性を身に付け、多様な他者と協働しながら、新たな価値やビジョンを創造し、社会課題や生活課題に「新しい解」を生み出せる人材です。こうした人材を育てるためには、早期から興味関心を自由に発展させ「探究力」を身に付け、その中で必要な知識を体得するという「自ら育つ」自律性が非常に重要となります。こうした自律性を、教育段階の早期から身に付ける機会を与えることが重要です。

◇探究的な学習の重要性

こうした人材は、固定化された教育システムや産業システム、人材育成の枠組みに乗っかるだけではなく、自分が目指すべき姿を持ち、学びたいことを特定し、知識を習得して探究していくというサイクルを繰り返すことが重要です。こうした行動特性は、教育の早期段階で育むことが、将来に向けた人材育成にとって非常に重要だと考えています。

理数系人材を例にあげると、日本の子どもは、数学的リテラシー・科学的リテラシーは世界トップレベルであり、高いポテンシャルを持っているにも関わらず、それが進路選択や職業選択に結びついていません。他方で、先ほどの就業構造推計の結果が示す通り、将来的には理系人材が大きく不足する見込みとなっています。産業界では、すでに多くの産業分野において理系人材不足が叫ばれており、理系人材の裾野自体を拡大することが必要です。

子どもたちが理系を志向するかどうかは、教育段階の早期において、理系に対する苦手意識なく、社会と結びついた学びができるかどうかが重要です。そのため、中学校の段階は、実は進路選択において非常に重要な時期と言えます。

中学3年生時点と、高校3年生時点における理系・文系の志向の変化を見てみると、中学校段階においては、理系・文系それぞれ1/3程度の比率であり、残りの1/3が「わからない」と回答しています。特に注目すべきは、中学校段階において「わからない」と感じている生徒の多くが、高校3年生の段階では文系志向に移行している点です。

その背景には、理数系科目の積み上げ型の学習特性があると考えられます。中学段階で「楽しくない」「つまずいた」と感じたままでは理系への興味を失いやすく、そのまま文系に流れてしまう傾向が見られます。一方で、もし早い段階から「理数系の知識やスキルは、将来どんな仕事でも必要とされる」「AIやデジタル社会で活躍するには、こうした素養が不可欠だ」といった社会のリアルな情報が届いていれば、生徒たちの進路選択の意識も大きく変わってくると思われます

実際、OECDの調査でも、日本の中高生は他国と比べて、探求的な理科学習が少なく、また理数系の科目を「楽しい」と感じる割合が低いという結果も出ています。つまり、学校で学ぶことと、社会で活用される場面が結びついていないことが、理数系の学びに対するモチベーションを下げているとも言えるのです。

私自身、学生時代苦手だった科目について、社会人として仕事を進める中で学び直す必要に迫られました。社会課題の解決という明確な目的があると、かつて苦手だった学びにも意欲的になれる。こうした経験からも、学びと社会との接続の重要性を強く感じています。

3.経済産業省の取組

経済産業省でも、「STEAMライブラリー」「EdTechライブラリー」など、「未来の教室」プロジェクトを通じて、探究的な学びを支援しています。ぜひご活用いただき、多様な学びが広がる環境づくりにご協力いただければと思います。
とはいえ、多様な学びを社会全体に広げていくには、教育現場での「公助」や家庭での「自助」だけでは限界があります。教育現場だけでなく、家庭、地域、企業など社会全体で学びを支える「共助」の構築が欠かせません。

特に、学校現場の先生方は多忙な日々の中、探究学習やキャリア教育に取り組まれていますが、制度的な支援がない中での取組は、個人の努力に大きく依存してしまっています。産業界側もまた、リソースを教育にどう活かすかのノウハウや接点を持たず、連携が難しいのが現状です。
だからこそ、学校と民間をつなぐコーディネーターやプラットフォームの存在が今後ますます重要になると考えています。今回の「私の発見プログラム」のように、デジタルコンテンツを通じて面的に展開する仕組みが、より多くの学びの機会を届けてくれるはずです。

今の中学生たち若い世代には、今後、進学選択や職業選択の場面で、自分が将来進みたい方向性に合ったスキルや学びが得られる環境を、多様な選択肢の中から選び取る姿勢が求められます。そして社会に出てからも、必要なスキル・能力を獲得するために、生涯を通じた学び直しが必要です。そのとき、自ら学び、変化に対応していける「自律性」が何よりも大切になります。その力を育むためにも、子どもたちにとっての学びが、早い段階から社会とつながり、多様で意味のあるものであることが求められているのです。

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講演後には、受講した先生からの質問に回答いただきました。

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講演後には、受講した先生からの質問に回答いただきました。

◆Q&A

Q. これからの社会に求められる「自ら育つ人材」とは?
まず自らの興味関心を持ち、そこから生まれたやりたいことと現状のギャップとなるスキル・能力を特定し、自ら学び直すことができる人材です。教育段階に限らず、社会人になっても生涯自ら学び直していくことが必要となります。

Q. 高校進学を「キャリアの第一歩」と捉えるには?
まずは、社会の動きを知り、自分がどのように関わりたいかを考えることが重要です。学び直しはいつでも可能ですが、教育段階での選択が、ある程度将来の方向性・専門性にも影響するため、中学・高校での進学選択が重要となります。
進路選択の際は、なかなかやりたいことが定まらない学生もいるかとは思いますが、少なくとも大きな方向性(理系/文系、スペシャリスト/ジェネラリストなど)を意識することが大切だと思っています。

Q. 理系・文系の枠を超えて求められる力とは?
今後は、テクノロジーの進展により、文理問わず、AIの活用や、DXの推進が必要となってきます。その際、デジタルリテラシーは万人にとって不可欠だと言えるでしょう。文系であっても、AIを用いれば簡単なコードは組めるようになっており、文理問わずさまざまな知識を越境して活用することが求められます。

Q. 学びが抱える課題や、理系に進む学生の少なさの問題は何が原因だとお考えですか?
理系を選ぶ上での最大の課題は、教育の早期段階にある「ハードルの高さ」です。社会との接続が見えづらい授業や、特に女子学生に対するアンコンシャスバイアスなど、生徒の理系離れにつながっています。産業界からも、理系を目指す層の裾野が狭いことが課題とされており、理系への第一歩のハードルを下げることが重要です。

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最後に、「私の行き方発見プログラム」活用校の先生方から寄せられた、
「キャリア教育の年間指導計画に『私の行き方発見プログラム』を組み込んでいる事例を知りたい」
「発展編の具体的な活用事例はありますか」
といった声に応える形で、参考になる情報を集めたWEBサイト「活用のヒント集」をご紹介しました。

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最後に、「私の行き方発見プログラム」活用校の先生方から寄せられた、
「キャリア教育の年間指導計画に『私の行き方発見プログラム』を組み込んでいる事例を知りたい」
「発展編の具体的な活用事例はありますか」
といった声に応える形で、参考になる情報を集めたWEBサイト「活用のヒント集」をご紹介しました。

◆受講した先生の感想

  • 経済産業省の方のお話を聞く機会はなかなかないため、良い機会となりました。今後の教育活動のベースとして心に留め、生徒たちに伝えていきたいと思いました
  • 中学生の段階でどのようなキャリア形成への刺激が必要かについて、経済産業省の視点から分かりやすく説明いただき、経済産業省と文部科学省の連携が求められる時代にあることは、大変にうれしく感じました。
  • 単なるアンケート結果の提示にとどまらず、将来的に社会で求められる人材やモノについて、具体的な視点からわかりやすくご説明いただきました。中学校での学習と将来の職業との関連性を生徒にわかりやすく伝えるとともに、企業の取り組みなども紹介していきたいと思いました
  • これからの社会がどのように変化していくのか、産業界の視点から学ぶことができました。どのような人材が求められているのか、より具体的にイメージすることができました