【国連人口基金 特別対談】
支援のあかりが照らす、女性と子ども達の未来への道

写真左から:堂本晃代(パナソニック)、成田詠子さん(UNFPA)


国連人口基金(United Nations Population Fund、以下UNFPA)はすべての妊娠が望まれ、すべての出産が安全に行われ、すべての若者の可能性が満たされるために活動する国連機関です。パナソニックは2022年からUNFPAと協働し、アフリカやアジアの国々の無電化地域に、ソーラーランタンを寄贈しています。今、その活動はどのような成果をもたらしているのでしょうか。
UNFPAの成田詠子さんとパナソニックの堂本晃代の対談を実施。ランタンが照らす“あかり”の先を探りました。

国連人口基金(UNFPA)
駐日事務所 所長
成田詠子 Eiko Narita

写真:成田詠子

パナソニック ホールディングス株式会社
企業市民活動担当室 室長
堂本晃代 Akiyo doumoto

写真:堂本晃代

大きく変わる現代の世界情勢
山積する課題の解消へ、強力な支援が急務

――UNFPAさまの活動は多岐にわたっていることと思います。現状の課題について教えてください。

成田:私たちUNFPAにとって課題は非常に多く、一つ一つを挙げるのは難しいのですが、中でもこの3〜5年で特に大きな課題となっているのが、さまざまな国の政権交代などにより、世界情勢が大きく変わりつつあることです。そのため、人道支援の立場から見ても、複数の国で基金の拠出が難しくなってきました。金額だけの問題ではなく、大国の支援離れは、他国へ対するインパクトが強く、支援を控える国が増えていくのではないかという不安があります。
その一方で、支援を必要とする国は、ますます増えつつあります。妊産婦死亡率が高まり、ジェンダーの平等性の悪化も見られます。このような状況に耐えられず、故郷から他国へ移動する人々も多く、このような人々が難民となり、人々の取り巻く状況が悪化するなど、悪循環も大きな懸念となっています。


――そのような中でUNFPAさまは「Don't let the lights go out」というスローガンを掲げた新たな活動を始めています。

成田:「Don't let the lights go out」とは「希望の灯(ともしび)を消さないで」という意味を込めたものです。現在は、支援が極度に不足している10カ国(カメルーン、チャド、コンゴ民主共和国、ハイチ、モザンビーク、ミャンマー、ソマリア、南スーダン、スーダン、ベネズエラ)に対し、支援を促しています。
世界中で起こっている情勢不安や紛争について世界中のメディアが集中して報道する一方で、先ほどの10カ国に対する支援については注目度が低くなっています。もちろん現在拡大する紛争に対する懸念は大切ですが、私たちは、地道な支援の重要さも忘れないでほしい——そんな強い思いを広く発していきたいと考えました。
パナソニックさんも長年にわたり「LIGHT UP THE FUTURE」と名付けた無電化地域へソーラーランタンを寄贈するプロジェクトを進めていました。今回「Don't let the lights go out」というキャンペーンが立ち上がったことで、両者の活動に、偶然にも「あかり」というキーワードが重なり合い、これまでのご支援がより一層強いつながりとなりました。

堂本:「LIGHT UP THE FUTURE」は「世界から貧困をなくすことは企業の使命である」というパナソニックの創業者、松下幸之助の考えの下、2013年からNPOやNGO、国際機関などと協働させていただき、無電化地域へソーラーランタンをお届けしてきました。私たちはこの活動の中で、「無電化」であることで夜間の医療活動、仕事や作業、子どもたちの勉強が制限されてしまうこと、女性や子どもたちにとって夜道の移動が危険であることなど、より多くの、そして深刻なリスクがあることに気付かされました。
私たちには、ソーラーランタンを寄贈する活動が、現地でより多くの手助けになってほしいという強い思いがあります。
しかし、家電メーカーとしてランタンを届けることはできますが、それがより多くの方への手助けなど成果につながってほしいという点については、一企業にできることとして、大きな壁を感じることがあります。

成田:私が国連の仕事を始めたころ、さまざまな国へ派遣され、その地で支援活動をしていました。ある国に派遣されていた時のことでした。首都に近い地域の民家に滞在しているにもかかわらず、夜は何度も停電し、周囲は暗闇に包まれます。すると、どこかの家から、女性に暴力を振るっているであろう衝撃音と怒声が響き渡ってきました。それは私が滞在している間、停電になると決まって繰り返されました。当時は怖い思いでいっぱいでしたが、あかりさえあれば、こんなことは起こらなかったかもしれない、と強く思いました。
私たちにとっては、夜、電灯で周囲を明るく照らすのは当たり前のことですが、そうではない地域が世界中にはたくさんあります。あかりがあることで救える女性や子どもは多いはずです。パナソニックさんが提供してくださっているソーラーランタンは、そうした地域の人々にとって大きな意味があります。


堂本:私たちの活動が現地の支援につながっているというお話を伺うこと、私たちの支援活動に対し、現地にもたらされた変化をレポートしていただけることは、私たちがUNFPAさんと協働することで得る大きな価値となっています。大変ありがたいです。


あかりは足元を照らす、そして前へ

今回の協働で、パナソニックは南スーダン、ケニア、アフガニスタンにソーラーランタンを届けました。
南スーダンのジュバにある国内避難民キャンプでは、あかりが不足しており、夜間、女性がトイレに行くことや外出することも危険な状況でした。
ケニアでは少女たちが夜間でも勉強を続けられるよう、環境改善に期待がよせられました。女性が継続して教育を受けられることは、早婚、児童婚、そして望まない妊娠を防ぎ、少女たちの健康の保護にもつながります。
アフガニスタンはファミリー・ヘルス・ハウス(Family Health House=保健クリニック)を支援しています。夜間でも女性が安心して診療を受けたり出産したりすることができるようになります。

南スーダンにソーラーランタンが届けられました。
写真提供: UNFPA南スーダン事務所


ケニアはソーラーランタンのあかりで、夜でも仕事が続けられるようになりました。作られた民芸品を販売することで、収益の向上になります。
写真提供: UNFPAケニア事務所


写真提供: UNFPAアフガニスタン事務所
アフガニスタンのファミリー・ヘルス・ハウスでは、あかりの元で、安心して夜間出産することができるようになりました。


UNFPAケニア事務所(写真左)及び南スーダン事務所(写真右)から提出された報告書


UNFPAでは、現地の女性の暮らしと自立の向上、少年少女たちの教育・健康に対するレポートも作成。パナソニックの「LIGHT UP THE FUTURE」Projectの成果が、詳細に記されています。その一部をご紹介します。

2022年にケニアのウエストポコット群及びサンブル群に計2,045台のソーラーランタンを寄贈すると、双方の地域で思春期の少年少女たちが、質の高い、公平でインクルーシブルな教育を受けられるようになりました。また、女性たちによる高品質のビーズ作品の生産量、販売額が向上しました。

2024年にはケニアのウエストポコット群およびトゥルカナ群に計1,000台のソーラーランタンを寄贈。するとGBV(ジェンダーに基づく暴力)の軽減、思春期の少女と若い女性および少年の安全性について良い変化が報告されました。
パナソニックの「LIGHT UP THE FUTURE」はUNFPAと協働することで、現地で様々な効果に繋がっていることが分かります。

成田:世界では、児童婚などの問題が根強く残っています。また、暗闇の中、外を歩くことは、地形的な危険はもちろん、弱い立場の女性や子どもが誘拐や暴力に遭う危険もあります。病気になっても、医療機関まで数百キロも離れていることなど珍しくありません。治療のためとはいえ、夜間に移動することは危険極まりない。このような地域にあかりを届けることは、日々のくらしにおいて非常に大きな助けになっています。
あかりがあれば、仕事をする時間も延び、得たお金は子どもの教育にも充てられる。金銭を得るために幼い娘を嫁ぎ先へ出すようなことも減ってくると思います。

堂本:UNFPAさんとの協働は、UNFPAさんの管理の下に確実に履行されていくという点において、非常に心強く思っています。近年、ソーラーランタンも部材の高騰がいわれています。ランタンも高価になりつつありますが、無駄なく、確実に届け、現地の皆さまにとってさまざまなリスクの軽減につながっていくことを強く願っています。


暗闇の中に届け続ける“希望”のあかり

成田:パナソニックさんに関わっていただけることは、現地では、特別なことなんです。それは私たちの想像をはるかに超えているものです。私たちが支援する難民キャンプで、日本企業からソーラーランタンが支援されることを現地の人々に伝えると、一様に表情が明るくなります。「先進国の製品、パナソニックという日本企業からの支援がここに来る!」と。
それは現地の人々にとっての大きな勇気、誇り、そしてモチベーションにつながります。その力は、本当に強くて大きいことを私たちは何度も目にしました。
このようなあかりを発端に、支援の重要さについて多くの国々に伝えられるのではないかと思っています。
パナソニックさんの「LIGHT UP THE FUTURE」プロジェクトは、私たちが目指す「Don't let the lights go out」にマッチして、支援を必要とする地域の人々の足元をしっかり明るく照らしています。このあかりは、多くの女性や子どもたちの未来へつながると信じています。

堂本:私たちはこの活動の中で、より多くのことを学び、その学びを生かしながら、現地の人々に寄り添った効果的な支援をしていきたいという思いが強くなりました。反対に勇気を与えられた気持ちです。ありがとうございます。


LIGHT UP THE FUTURE 関連活動