2017年 Panasonic NPOサポート ファンド事業評価レポート
評価結果サマリー
- 2015年に助成期間を終了した回答団体(以下、団体)の72.7%が、組織基盤強化事業の取り組みにより、助成前に抱えていた課題が解決した
- 組織運営力は、11団体の平均で助成前の53.58ポイントから61.32ポイントに、約1.14倍上昇した
- 11団体中10団体(90.9%)で、主要事業のアウトカムが増大した
上記の結果より、Panasonic NPOサポート ファンドでの助成事業の有効性が確認できた。

公益財団法人 パブリックリソース財団
事務局長 田口由紀絵
本評価の目的
本評価は、Panasonic NPOサポート ファンドの成果を検証することを目的としている。組織基盤強化に対する助成は、プログラム助成とは異なり助成の成果が見えにくい。そのため本ファンドでは、助成先団体への追跡調査等をもとに弊財団が毎年事業評価を行ってきた。
今回は2015年に助成期間を終了した12団体を対象に、本事業による資金提供及び非資金的取組みが、助成対象団体の組織基盤の強化や、活動の充実による社会課題の解決の促進に与えた影響について評価を行った。
評価方法
2015年に助成期間を終了した12団体(図表1)を対象に以下の調査を行い、評価を行った。
- 応募用紙、完了報告書、組織診断報告書の分析
- アンケート調査
- 診断シートを指標群として活用した、助成の前と後の組織運営力の比較
団体名 | 分野 | 助成期間 |
---|---|---|
特定非営利活動法人 太陽光発電所ネットワーク | 環境 | 2015年1月~2015年12月 |
特定非営利活動法人 北海道ツーリズム協会 | 環境 | 2015年1月~2015年12月 |
公益財団法人 日本自然保護協会 | 環境 | 2015年1月~2015年12月 |
認定特定非営利活動法人 フードバンク山梨 | 環境 | 2014年1月~2015年12月 |
特定非営利活動法人 A SEED JAPAN | 環境 | 2014年1月~2015年12月 |
認定特定非営利活動法人 スペースふう | 環境 | 2012年11月~2015年6月 |
認定特定非営利活動法人 花の森こども園 | 子ども | 2015年1月~2015年12月 |
特定非営利活動法人 ピープウ・ラボ | 子ども | 2015年1月~2015年12月 |
特定非営利活動法人 人身取引被害者サポートセンター ライトハウス | 子ども | 2015年1月~2015年12月 |
特定非営利活動法人 エイズ孤児支援NGO・PLAS | 子ども | 2014年1月~2015年12月 |
特定非営利活動法人 市川子ども文化ステーション | 子ども | 2012年11月~2012年5月 |
認定特定非営利活動法人 エンパワメントかながわ | 子ども | 2012年11月~2015年6月 |
〈図表1〉
12団体は、助成期間と内容によって図表2のように3つに区分される。
区分 | 団体数 | 今回調査対象とした助成期間 |
---|---|---|
Ⅰ:組織診断と2年間の組織基盤強化 | 3団体 | 2012年~2015年 |
Ⅱ:組織診断と1年間の組織基盤強化 | 3団体 | 2014年~2015年 |
Ⅲ:組織診断と組織基盤強化(合計で1年間) | 6団体 | 2015年 |
〈図表2〉
評価の視点
- 団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いなどの定量的評価
収入額の変化、財源の多様化、自主財源比率の変化、会員数、スタッフ数、助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題がどのくらい解決されたか、組織診断の効果等 - 助成先団体の組織能力の定量的評価(事前・事後の比較)
- 助成先団体における事業アウトカムの検証
評価結果
アンケートおよび診断シートに回答があった11団体を対象に、「評価の視点」に沿って評価を行った。
1)団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いなどの定量的評価
助成団体の組織基盤がどのくらい強化されたかを測るために、団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いなどの定量的評価を行った。アンケートの回答によれば、2015年に助成期間を終えた団体の72.7%で組織運営上の課題が解決し、財政の安定化・多様化がはかられ、スタッフ数が拡大した。また、組織診断は組織基盤強化を行う上で有効にはたらいた。
【助成前に抱えていた課題が7割の団体で解決】
組織運営上の課題の解決の度合いを自己評価で聞いたところ11団体中2団体で「目標どおり(目標の100%)」、6団体で「ほぼ解決された(目標の80%)」。全体で72.7%の団体が、組織運営上の課題の解決がはかられたとしている。
【総収入額の増加はわずかだが、寄付金収入が増加した】
助成実施前の総収入に対する助成最終年及び最新の決算での各団体の総収入の増加率の平均は、助成最終年は0.6%、現在は0.9%であった。現在にわたって伸びが大きかった「寄付」の増加率は91.1%で、11団体中7団体で助成前に比べて寄付が増加した。また、財政が「ある程度安定した」と答えたのは、11団体中9団体であった。
助成最終年 | 現在 | ||||
---|---|---|---|---|---|
増加率 | n | 増加率 | n | ||
総収入額 | 0.6% | 11 | 0.9% | 11 | |
内訳 | 会費 | -5.6% | 9 | 10.3% | 9 |
寄付 | 68.6% | 11 | 91.1% | 11 | |
助成金・補助金等 | 104.6% | 11 | 67.3% | 9 | |
事業収入(委託費) | 10.9% | 6 | 31.9% | 5 | |
事業収入(自主事業) | -38.6% | 10 | -26.8% | 10 | |
総支出額 | 10.7% | 11 | 8.6% | 11 |
〈図表3〉
【財源が多様化した】
財源の多様化については、11団体中8団体、72.7%の団体が、「大いに多様化した」「ある程度多様化した」と回答した。4団体が「大いに多様化した」、6団体が「ある程度多様化した」と回答した。
大いに多様化した | ある程度多様化した | 全く変わらなかった | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 2 | 18.2% | 6 | 54.5% | 3 | 27.3% |
環境分野 | 2 | 33.3% | 2 | 33.3% | 2 | 33.3% |
子ども分野 | 0 | 0.0% | 4 | 80.0% | 1 | 20.0% |
〈図表4〉
【スタッフ数が拡大した】
助成実施前に対する現在の各団体の有給、無給を合わせたスタッフ数の増加率の平均は15.3%となっている。有給スタッフについては、常勤2.1%、非常勤14.1%であった。
増加率 | n | |
---|---|---|
有給・常勤スタッフ | 2.1% | 10 |
有給・非常勤スタッフ(パートタイマーなど) | 11.0% | 8 |
有給計 | 14.1% | 11 |
無給・常勤スタッフ | - | 0 |
無給・非常勤スタッフ | -11.2% | 2 |
無給計 | -11.2% | 2 |
スタッフ計 | 15.3% | 11 |
上記以外のボランティア | 44.1% | 8 |
〈図表5〉
【組織診断が有効にはたらいた】
アンケート調査に回答した11団体のうち4団体(36.4%)が、組織診断を行うことにより取り組むべき課題が当初と「かなり変わった」、7 団体(63.6%)が「一部変わった」と回答した。また、組織診断に取り組むことが、組織基盤の強化に役立った。
理事会の組織運営に対するコミットメントの高まりに関しては、全体で5団体(54.5%)が「非常に役立った」と回答している。事務局スタッフにおけるビジョンの共有については、全体で5 団体が「非常に役立った」(45.5%)、6団体が「多少は役立った」(54.5%)と回答しており、11団体すべてで役立っていた。
①理事会の組織運営に対するコミットメントの高まり
非常に役立った | 多少は役立った | 特に影響はなかった | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 5 | 45.5% | 3 | 27.3% | 3 | 27.3% |
環境分野 | 2 | 33.3% | 2 | 33.3% | 2 | 33.3% |
子ども分野 | 3 | 60.0% | 1 | 20.0% | 1 | 20.0% |
〈図表6〉
②事務局スタッフにおけるビジョンの共有
非常に役立った | 多少は役立った | 特に影響はなかった | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 5 | 45.5% | 6 | 54.5% | 0 | 0.0% |
環境分野 | 2 | 33.3% | 4 | 66.7% | 0 | 0.0% |
子ども分野 | 3 | 60.0% | 2 | 40.0% | 0 | 0.0% |
〈図表7〉
2)助成先団体の組織能力の定量的評価(事前・事後の比較)
助成先団体の組織運営力がどのように強化されたかを把握するために、診断シートを用いて、助成の前と後(現在)との、組織運営力を定量的に比較した。回答のあった11団体の組織運営力は、平均して53.58点から61.32点へと、約1.14倍上昇した。

〈図表8〉
変化が最も顕著だった団体(⑥)は、助成前が24.54点であったのに対し、現在は45.52点と、約1.8倍上昇した。
なお、診断シートの組織能力の分類と主な指標は、図表9にあるとおりである。
組織能力の分類 | 主な指標 | |
---|---|---|
1 | マネジメント | ミッション、社会的ニーズ把握、意思決定、リーダーシップ、ガバナンス、説明責任、リスクマネジメント |
2 | 人材 | スタッフの能力、スタッフマネジメント、リクルーティング、人材育成、ボランティア参加、福利厚生 |
3 | 財務 | 財務管理、資金調達、資金繰り、安定性、収益性 |
4 | プログラム | 事業の強みと弱みの理解、事業の効果、事業計画 |
5 | 事業開発・マーケティング | 事業の目標設定、社会的背景調査の実施、コンピタンス分析、ターゲット受益者の設定、サービス・商品設計、採算性分析 |
〈図表9〉
3)助成団体におけるアウトカム・インパクトがどのように拡大したか
組織基盤の強化に取り組んだ結果、主要事業のアウトカムがどれくらい増大したかについて、 (ア)受益者の拡大、(イ)社会的課題の解決への影響、(ウ)社会の意識の変化に与えた影響、(エ)政策への影響、(オ)他団体や企業への影響、の5つの指標を用いて確認した。11団体中10団体(90.9%)が、少なくとも1つ以上の項目について改善・向上がはかられたと回答した。以下に、主なポイントを挙げる。
【受益対象者が拡大した】
11団体中8団体で、助成後に受益対象が拡大し、受益者数は助成前に比べて平均2.87倍となった。エイズ孤児支援NGO・PLASでは、エイズ孤児を抱えるシングルマザー家庭の数が9.9倍、エイズ孤児の数が6.5倍となっている。子どもや親を直接の受益者とする事業に取り組む子ども分野の団体で受益者の大幅な拡大が見られる。
【政策に影響を与えた】
政策への影響としては、スペースふうが、地元の町と協働して条例の制定に取り組んだと回答している。また複数の団体が行政のモデル事業としての採用や事業の受託・共同実施に言及している。
まとめと今後の課題
本助成事業への取り組みにより組織課題が解決したとする団体が7割を超え、組織運営能力が助成前と比べて1.14倍に増大するなど、本ファンドの組織基盤強化への有効性が明らかになった。
一方で、助成実施前と比べた助成後の総収入の伸びは平均して0.9%にとどまり、事業のアウトカムについては「組織内部の意識はかなり変わったと思うが、外部に対しての変化までは至っていない」とのコメントが団体から寄せられた。
今回は助成期間終了後1年~2年未満が経過した団体を調査対象としたが、10年間を振り返って行った過去の本ファンドの事業評価においては、助成先団体は高い成長を続けていたことが明らかになっている。
助成後の組織規模の拡大や事業アウトカムの増大への影響については、長いスパンで検証することが求められるだろう。
これから取り組む団体へのメッセージ
最後に、これから助成事業に取り組む団体へのメッセージとして記されたコメントも、本プログラムの有効性を語っている。以下に一部を紹介する。
- 本助成金は、組織の改善を助け、社会課題解決のための本質基的なインパクト・成果につなげることのできる貴重な機会だと思います。多くの団体に取り組んでほしいと思います
- NPOやNGOの内部の組織課題に取り組む助成事業は、他にほとんど例がない。それまで気づかなかった視点やアイデアをいただける貴重な場なので、この機会をぜひ生かして、積極的に取り組んでいただきたいと思います。
- 2年間の助成を受けたことにより、組織基盤が飛躍的に向上し、体制を整え、活動を更に拡大することができました。ぜひ、チャレンジしていただきたいと思います。
- 「自分たちの団体のことを自分たちはわかっていない」ことに気づくことが、NPO法人の活動を継続していく第一歩だと実感した。また、自信のない部分にこそメスを入れるという勇気が必要な時があるとわかった。
- 組織が変化していくために、第三者の視点は必須であると思います。自分たちだけではできないところを、このサポートファンドの力を借りることで、一歩二歩と進む事ができます。必ず変わることができると信じて、取り組んでみてください!