組織基盤強化に取り組んだ2年間の格闘の軌跡
「特定非営利活動法人パノラマ」が成果報告会を開催

「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」では、SDGsの大きな目標である「貧困の解消」に向けて取り組んでいるNPO/NGOを対象に、組織課題を明らかにする組織診断や具体的な組織課題の解決、組織基盤の強化などを応援しています。
横浜市北部エリアで活動する特定非営利活動法人 パノラマは、2024年1月から2026年1月までサポートファンドの助成を受け、組織基盤強化に取り組みました。その2年間の格闘と組織に起きた変化を地域の方々と共有する成果報告会が2026年1月30日、パノラマの主催により横浜市の青葉台で開催されました。
パノラマからは事務局長や理事、副施設長、相談・居場所スタッフの5人が登壇し、あわせて伴走支援した認定NPO法人 アカツキからも2人が聞き手として登壇しました。

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事業拡大に組織体制が追いつかずコミュニケーションのプチ不調に陥る


特定非営利活動法人パノラマは、「社会的包摂」をパノラマ写真に見立て、子どもや若者をはじめとする、すべての人が取り残されることなく暮らせる社会を目指して、2015年に設立されました。
卒業後も見据えたソーシャルワークの足がかりをつくる「高校内居場所カフェ」から始まった活動は、「よこはま北部ユースプラザ(以下、北プラ)」などの若年者自立支援事業、小中学生の放課後の居場所をつくる子ども事業などに拡大しました。
事務局長の谷口 真梨子さんは、「11人だった職員が20人以上に増えましたが、組織体制の強化が追いつかず、コミュニケーションのプチ不調みたいなものを感じていました。職員の離職が相次ぎ人材育成の強化が急務でした。加えて、寄付金や事業収益の脆弱さなど、財務にも問題を抱えていました。そこで、より多くの子どもや若者のニーズに応えられるような強固で持続可能な組織体制を構築するために、サポートファンドに応募しました」と、振り返ります。
成果報告会では、まず事務局長の谷口さんが、2年間の取り組みについて説明しました。

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特定非営利活動法人 パノラマ
事務局長 谷口 真梨子 氏

ヒアリングとワークショップから導き出された「北プラコンセプト」


NPOのコンサルティングを行う認定NPO法人アカツキ代表理事兼職員の鳥居 亜佑美さんと、理事兼職員の永田 賢介さんの伴走で、助成1年目は人材の育成やマネジメント体制の強化に向けて実施計画の設計を行いました。ここでは、「最短最速の結果を求めず、スタッフ一人ひとりと対等な関係を築くこと」を大事にしました。続いて、アカツキの二人が理事7名とスタッフ21名全員に対し、個別とグループでヒアリングを実施。スタッフのモチベーションのポイントや課題認識が明らかになり、組織課題を構造的に整理できました。その報告書をもとに、現場スタッフ全員参加の報告会を開催しました。
次にヒアリング結果をもとに提示された26の施策について、若年者自立支援事業部と子ども事業部で検討会を実施しましたが、各事業部の違いが浮き彫りになり、部署同一の施策を廃止することにしました。
助成2年目は、「組織へのエンゲージメントの向上を図るヒアリング」を検討していましたが、「対話が成り立ち、やりたいことを実現できる場をつくるためのワークショップ」に計画変更しました。

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認定NPO法人 アカツキ
理事兼職員 永田 賢介 氏(左)
代表理事兼職員 鳥居 亜佑美 氏(右)

ワークショップには、計画段階から「北プラ」の施設長や副施設長も加わって、当初は、現状課題から「北プラ」の行動指針を決める予定でしたが、「私たちが若者に対して大事にしてきたこと」を付箋に書き出していき、「北プラコンセプト」としてまとめることになりました。その結果、導き出されたのが「曖昧さを引き受けたい」「Love myself」というワードでした。

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●組織基盤強化の過程で感じたこと


ここからは、アカツキの二人がパノラマのメンバーに、組織基盤強化の2年間に感じてきたことを質問しました。

Q 1年目の施策検討のワークショップでは、私たちから26の施策を提案し、重みづけをしていきましたが、このことに抵抗は感じませんでしたか?

谷口 真梨子さん(事務局長)
これを行ったことで、それぞれの施策に対する向き合い方が、事業部によって全然違うことが浮き彫りになりました。26の施策を通じてメタ認知が深まり、法人の現状に対する解像度が高まりました。抵抗よりも、このプロセスを通じて得られるもののほうが大きかったです。

Q 計画を変更し、新たなワークショップのテーマを考えた際に難しかったことは何でしょうか?

今田 千明さん(副施設長)
北プラを代表して、すごく大きなものを取り扱わなければならないことが初めは重かったのですが、アカツキのお二人が私たちのもやもやを言語化することに何度もつき合ってくれたおかげで、自分たちがどうしたいのか、自然に出せるようになりました。私と施設長だけで、ここを立て直すとなると、たぶん煮詰まって、私たちのメッセージが現場にゆがんだ形で伝わっていたと思います。

Q 2年目のワークショップで、北プラがどんなところか付箋に書き出し、コンセプトに落とし込んでいく中で、どんなことを感じましたか?

角 亮典さん(相談・居場所スタッフ)
北プラは若者の総合相談と居場所という、ふわっとしたものを抱えている場所で、不登校の高校生や大学生もいれば、そのまま30代になって、どうしたらいいのかわからない若者もいます。スタッフの関わり方もいろいろある中で、「曖昧」というワードをみんなで確認できたのは、北プラが次のステップに進んだと言ってもいいくらい、とても大きなことだったのではないかと思っています。

●会場の参加者との質疑応答


続く質疑応答の時間には、会場の参加者から寄せられた質問に、パノラマのメンバーが答えました。

Q 組織基盤強化は日常に、どのような影響を及ぼしましたか?

角 亮典さん(相談・居場所スタッフ)
組織基盤強化に取り組む少し前から、日中の居場所の来所人数が少なくなっていました。その頃は、担当者が一人で頑張って受け持つプログラムが多かったのですが、「北プラコンセプト」に向けて、何が大事か話していく中で、トランプ交流会や料理クラブのような複数人で連携できるプログラムを増やしていくことができました。

今田 千明さん(副施設長)
私は相談を担うことが多かったので、居場所に入りたくても入れませんでしたが、常勤とか非常勤とか関係なく、みんなで引き受けていこうという流れになって、一緒にプログラムや話し合いの時間をもてるようになりました。そのおかげで、どうすれば新規の若者に居場所っていいなと思ってもらえるか、前向きに話せるようになりました。

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Q 組織基盤強化について、理事としてはどのような影響があったと考えますか?

梅山 哲矢さん(理事)
そうですね。僕はケースワーカーだったので居場所の専門性はなくて。専門が違うので、高校内居場所にお手伝いにいったときは本当に役に立ちませんでした。その居場所の専門性がある代表なら居場所運営をする組織もうまくやってくれるのだろうと心のどこかで思っていましたが、代表がどれほどすごい人でも、魔法を使って組織を一瞬でつくれるものでもなく、土を耕し、栄養を与えないと組織は育たない、コンサルを入れたから解決するというものでもないという当たり前のことに気づけました。

Q 業務が忙しい中、基盤強化事業をすることについて、どのようにして現場スタッフのモチベーションを高めたのでしょうか?

谷口 真梨子さん(事務局長)
初めは、できる限り私がたたき台をつくって、手間をかけずにやろうとしていたのですが、やはり事務局だけで決めてしまうのはよくないと思うようになりました。北プラに関しては、北プラが何なのかということさえ、うまく言葉にできていなくて、現場スタッフの間にも、言葉数は多いのに交わらないもどかしさや閉塞感があったので、組織基盤強化の必要性をわかってもらえたのだと思います。

Q 今回、パノラマにできた事務局機能の中でも、特に大切にしたい機能は何ですか?

鈴木 晶子さん(理事)
手弁当の地域の寄り合いみたいな任意団体から始まったパノラマですが、事務局が会計や労務や人事の仕事、その他諸々をすき間産業のように細かい部分まで引き取り、現場がいい支援・居場所作りができるようにサポートするというスタンスをとってくれたおかげで、スタッフは現場の仕事に集中し、子どもや若者たちに思いを傾けることができるようになりました。

●2年間の格闘を振り返っての感想


最後に、2年間の取り組みを振り返っての感想をパノラマのメンバーに聞きました。

谷口 真梨子さん(事務局長)

2年前、サポートファンドに応募するにあたって現場を回った時には、見逃せないようなこともあったし、スタッフの限界も感じていました。子どもや若者に良い支援をするには、スタッフが健全で、組織の中が安定していないといけません。やらないという選択肢もあったかもしれないけれど、スタッフにいろいろなことを言われながらも、本当にやってよかったというのが今の素直な気持ちです。


鈴木 晶子さん(理事)

ユースプラザの事業を構想した人も、寄り添い型生活支援事業ができたプロセスもよく知っていて、いろいろな人の思いがこもった事業をパノラマでお引き受けしている社会的責任をいつも感じています。現場を置きっぱなしにして、組織がどんどん大きくなっても、目指すところには近づけません。この2年間の取り組みは、難しい部分も含めて、やらなければならないことだったのだと今、感じています。


梅山 哲矢さん(理事)

普段は川崎市の職員で、係長をしていますが、自分の職場で、何を大事にしていくかといった価値観を話し合うことはなかなかできていません。これを愚直にやっていくには時間も労力も必要ですが、その時間が持てたら職場の心理的安全性が高まり、安心してコミュニケーションできるようになることは間違いないように思います。タイパとかコスパとか言われる時代であっても、コストや時間をかけなければできないことは絶対にあると感じました。


今田 千明さん(副施設長)

これまでは一人ひとりが北プラの中で、自分が何とかせねばと抱え込んでいましたが、困った時には、お互いに協力し合うようになって、いい影響が出始めています。私自身、管理職を任されて間もなくて、プレッシャーがありました。アカツキのお二人のように、一緒に考えてくださる方がいたことも、そのための時間を取れたことも、非常に大きな収穫でした。


角 亮典さん(相談・居場所スタッフ)

普段は博士課程の大学院生で、若者支援や居場所について考えています。みんなで共有したり、一つにまとめたりするのは、こんなに難しいことなのかと改めて強く感じました。現場のことが魔法のように、すべて解決するわけではないし、まだ触れられていない課題もありますが、一歩一歩こうして分かち合えてよかったと思います。

2年間の取り組みを振りかえり、また自分達だけに閉じるのではなく公開形式で他の子ども・若者支援団体にも共有いただいた今回の成果報告会。伴走支援に携わったアカツキのお二人から当時の想いについて問いかけられることで、改めて組織基盤強化に取り組んだ2年間を皆で振り返ることができました。それぞれが言語化することで、より組織基盤強化の取り組みの成果が強固なものになり、今後に繋がる場となりました。