2021年7月12日から15日までの4日間、オンラインにて「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs 20周年記念 シンポジウム・ウィーク」を開催しました。
3日目の14日は環境分野の取り組みを紹介し、201人の参加申し込みをいただきました。この日は、非営利組織論を専門とする龍谷大学の深尾昌峰教授をお招きし、NPO/NGOへの社会からの期待と事業承継、ソーシャルな事業開発についてご講演いただきました。続いて3団体に、サポートファンドでの取り組みとその後の変化を発表していただき、全員でパネルディスカッションを行いました。

●開会の挨拶

環境保全活動として「サステナブル・シーフード」を社員食堂に導入

2001年に設立したサポートファンドは20周年を迎えました。今日の環境分野は2002年に立ち上げました。103年前に創業したパナソニックは、事業活動と企業市民活動を車の両輪のように進めてきました。その中で貧困の解消や環境保全、災害支援に取り組んでいます。環境保全の取り組みとしては、WWFジャパンと長年にわたり「海の豊かさを守る活動」を進める中で、東日本大震災で被災した南三陸のカキの養殖を支援。このカキが日本で初めて養殖水産物に対するエコラベルであるASC認証を取得したことから、社員の消費行動を変え、「サステナブル・シーフード」を広げるために、認証を取得した水産物を社員食堂に導入することにしました。また、プラスチックごみを削減するために、お客様には紙パック入りの水の提供を始めています。これからも、皆様と共に活動を進めてまいります。

パナソニック CSR・社会文化部
部長 福田 里香

●環境分野の振り返り

収益化が難しく、新規事業開発が課題の環境NPO

環境分野は2002年に始まり、2021年3月に助成事業をすべて終了しました。この20年は一緒に運営に取り組んだ、私たち「地球と未来の環境基金」の成長の歴史でもありました。
第1ステージ(2002~2005年)は「エコライフの推進」がテーマで、第2ステージ(2006~2010年)から環境分野全般に拡充しました。2008年には環境分野の取り組みが「第6回パートナーシップ大賞」のパートナーシップ賞を受賞。
第3ステージ(2011~2019年)から第三者の視点を採り入れました。助成団体は循環型社会形成や地球温暖化防止、森林保全・緑化に取り組む団体が多く、財政規模は1,000~5,000万円が5割を占めます。組織基盤強化の内容は、第1ステージは初歩的な広報基盤強化が多く、第2ステージから中期計画・戦略の策定、ミッション・ビジョンの見直し、第2・3ステージでは新規事業開発が増えました。対人サービスがベースの子ども分野と違って、取り組む対象が自然であるため、活動の収益化が難しいのが環境NPOの特徴と言えます。

●基調講演

持続可能な組織運営を目指したNPO/NGOの次世代への承継と事業開発

龍谷大学 政策学部 教授
株式会社PLUS SOCIAL 代表取締役
深尾 昌峰 氏

写真

大学院在学中に「きょうとNPOセンター」を設立後、コミュニティ財団や会社をつくり、市民社会の可能性を探求する研究をしてきました。人口の減少など、私たちの社会は大きな過渡期にあります。社会には当事者が抱えざるを得ない課題がたくさんあり、NPO/NGOには、こうした課題に取り組む市民性や先駆性が不可欠です。

非営利組織の運営の困難さ

①顧客の二重性に起因する問題
受益者と資金・資源提供者という二重顧客の満足度を高めつつ、課題解決との折り合いをつける難しさがあります。
役割は時代で変わるもの。成果やインパクトの検証が必要です。

②そもそも運動性を帯びている存在ということ
当事者の叫びや声なき声を届けるのも重要な活動。継承に意味をもたない組織もあり、多様な立ち位置を認め合うことが大事です。

③社会の求める規範とどう向き合うか
カリスマ性のあるリーダーが立ち上げた組織も、一定規模になれば規範を求められます。リーダーは組織の分裂を恐れず、時にはスピンアウトしながら継承していく技術も必要です。

社会に根差す存在になるために必要なこと

①コミュニケーション・参加性を高める
チームを前提としたインナーコミュニケーションが大事です。
支援者との関係は善意ベースになりがちなので、やり甲斐搾取にならないようにしましょう。

②自己評価と信頼される基盤をつくる
それぞれの正義が、目指している社会をつくることにつながっているか、前向きにチェックする体制が必要です。多様なKPIを設定し、共有しましょう。

③資金調達の多様性
インパクト投資がグローバルな潮流になりつつあります。協働事業を通して、NPO/NGOがもつ価値を取り込みたいと考える企業が増えており、その価値に気づくことが大事です。これからも自由闊達に議論しながら、さまざまな手法を開発できればと思っています。

●事例報告①

地域経済の拠点となり、委託事業への依存から脱却

1989年から、高知県黒潮町の長さ4kmの砂浜を美術館に見立て、シーサイドギャラリーや観光振興などの活動をしています。2003年に、背景の異なる4団体が統合する形でNPO法人化。代表者の交代、委託事業への依存、人材管理などの課題が浮上し、2011年から3年間助成を受けました。
第三者のコンサルタントによる研修や内部環境分析、町議会議員全員へのヒアリングを実施し、優先課題を整理。解決策として、ウェブショップ「すなびてんぽ」を開設しました。地域の民間業者と、砂浜を活用したスポーツツーリズムなども商品化することで、地域経済の拠点となり、町民の見る目も変わってきました。2011年に約1億円だった事業規模は2019年に2億円を超え、自主事業の割合は23%から49%に。労働条件を改善したことでスタッフの満足度も向上し、新スタッフも加わりました。「組織基盤強化」が実感を伴う言葉になり、この10年の経験を次の10年に活かそうと思えるようになりました。

●事例報告②

ガバナンスが整い、承継と事業開発が相互に好影響

島根と鳥取にまたがる宍道湖・中海で、住民・企業・行政・専門家が連携して自然再生の活動をしています。事業は急成長したものの、組織になれていないことに課題を感じ、2015年と2016年に助成を受けました。第三者による組織診断後、理事にアンケートで「理事会に求められているもの」を尋ねたところ、中期的な方針や資金調達など、同じ課題が挙がりました。23人いた役員を8人まで減らし、半数を女性に。中期目標を考える中で、定款の目的を調査・研究から包括的自然再生中心にしたことで、ビジョンが100~1,000年単位の視点に広がりました。
ガバナンスが整ったことで、理事長も安心して交代できました。2018年には700万円の赤字が出ましたが、自主事業開発と次世代の人材育成に力を入れ、もともとあったオゴノリの活用事業を女性や子どもも参加できる形にしたところ、自然・もの・お金・人の循環が生まれ、会員も増加。今年4月には事務局長も交代しました。承継と事業開発は影響し合っているようです。

●事例報告③

脆弱な組織基盤を立て直し、横断型キャンペーンが成功

1993年に設立し、国際フェアトレードラベル機構の日本メンバーとして、認証ラベルの許可を出しています。リソース不足の中で、フェアトレードの市場をどう拡大するか悩み、2010年と2012年に助成を受けました。
第三者のテクニカルアシスタントから脆弱な組織基盤を指摘され、初めて理事会と事務局が真剣に向き合い、組織の方向性と必要な人材を議論。理事会のメンバーが交代しました。外部環境分析から、フェアトレードの価値をわかりやすく伝えるツールをつくり、顧客管理システムを導入しました。その結果、2010年に37億円だったフェアトレードの国内市場規模は、2021年に3.5倍の131億円まで拡大。今では10代の8割がフェアトレードのことを知っています。2018年には認定NPO法人となり、今年4月に事務局長も交代。5月には、企業や行政を横断的につなぐキャンペーンで119万アクションを達成しました。今後は、フェアトレードをビジネスのルールに盛り込む活動にも取り組んでいきます。

●パネルディスカッション

事業開発の強みと弱み、そしてこれからの環境NPO

  • モデレーター
    地球と未来の環境基金 古瀬 繁範 氏
  • 登壇者
    龍谷大学/株式会社PLUS SOCIAL 深尾 昌峰 氏
    NPO砂浜美術館 村上 健太郎 氏
    自然再生センター 小倉 加代子 氏
    フェアトレード・ラベル・ジャパン 中島 佳織 氏

古瀬氏 私自身、環境分野に30年関わってきました。1990年代のエコロジーブームに代わってSDGsブームが到来し、環境NPOへの期待が高まっています。この20年で、環境NPOの基盤は強化されてきたのでしょうか?

村上氏 黒潮町に移住して20年経ちます。当初は地域の人に、そもそもNPOとは何かを説明する場面が多かったのが、一つの目的を達成することが本業なのだと認知されてきました。砂浜美術館の考え方をどう使うかで、いろいろな事業を展開できる一方で、軸がぼやけないように、どこへ向かうのか定期的に考えるようにしています。

中島氏 私たちは国際機関のメンバーなので、ミッションも事業収益モデルも明確ですが、「かわいそうな人のために、品質の悪い商品を高いお金で買う」といった誤解もあり、フェアトレードの市場が海外ほど伸びていません。価格を無視してサステナビリティはあり得ないというメッセージを発信し続けたいと思っています。

深尾氏 環境NPOはマイノリティな問題に目配せしながらも、雇用セクターになって社会変革を実現し、インパクトを生み出さないと、脱炭素社会を牽引していけません。企業の社会性を引き出し、問題の本質に迫らないと、消費者は選択してくれない。地域の経済・福祉政策とも接続して活動を広げていく、ここからの10年は非常に大事だと思います。

小倉氏 地方には見えるお金とは別に、見えないお金があります。さまざまな視点をもつ住民が参加する活動を行政や企業と一緒に循環させ、今までになかった新しい価値を創出する。そのためには生業も大事ですが、プロセスが大事で、それをできるのが私たちNPOの強みだと考えています。

パネルディスカッションの様子