令和4年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰
若手科学者賞

令和4年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞が決定し、「生体特性を利用したロボット制御と医療福祉応用に関する研究」の業績でパナソニック ホールディングス(株)マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室の安藤健さんが受賞し、4月20日(水)文部科学省にて表彰式が開催されました。

科学技術分野の文部科学大臣表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績をたたえることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって我が国の科学技術水準の向上に寄与することを目的としています。その中で、若手科学者賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者個人をたたえる賞です。

今回の受賞者と業績は以下のとおりです。

『生体特性を利用したロボット制御と医療福祉応用に関する研究』

受賞者

安藤 健
パナソニック ホールディングス(株)マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 室長

開発の背景

超高齢社会において、高齢者・障がい者などを含めあらゆる人がいつまでも自分の能力・感性を活かし、自分らしく暮らすことができるようにすることを目的として取り組んでいます。この目的を達成するために、人の生体としての特性を理解することで、人とロボットが共存する環境において、人の身体能力や感性を最大限に引き出すためのロボット制御技術の開発が必要になります。この開発技術を実際のユーザによる実証実験において開発技術の有効性を検証することに加え、社会実装・産業応用のために取り組むことが重要です。また、ロボットが活躍する場を人共存環境へ広げるには、安全性に加え、人がロボットをストレスなく利用でき、さらには人の意図をくみ取り、感性も含めた人の能力を最大化する必要があります。

具体的な研究内容

人の意図をロボットが正確に理解し、ロボットの動作を人に正しく伝えるという循環により、人が身体能力・感性を自律的に最大限に引き出すという独自コンセプトを、高齢者などを対象に研究し、社会実装を実現しています。

  1. 正確な動作意図推定による「人からロボットへ」の伝達
    医療福祉ロボットの利用者は、動作意図を表現しにくく、意図推定に使われる生体からの信号も、高齢者などの場合は、微弱になり、不随意運動が混ざるなどでSN比が著しく悪くなります。そのような状況下で、随意・不随意運動の中にある異なる周波数特性を見出し、独自の混合型ニューラルネットワークを開発することで、高精度・高速に意図推定できることを確認しました。更に、同技術を時間領域から周波数領域へ変換することで、より汎用性が高くなることを実証しました。
  2. 感覚・感性最大活用する負荷学習型の制御法による「ロボットから人へ」の伝達
    推定された動作意図に基づきロボットを動かすだけではなく、利用者にとってロボット動作が、違和感なく快適であり、人側が更にヤル気になるものが望ましいです。人の生理学特性やスキル習得の学習特性に基づき、身体的・認知的な負荷を考慮したロボット制御を行うと同時に、人側に負荷・感性状況をフィードバックすることで、人側の感覚・感性を自律的に最大活用する独自のロボット制御法を構築しました。

開発技術の成果

本研究成果は、医療福祉ロボットとして社内外での活用が進められ、当社においても移動支援パーソナルモビリティとしての実用化につながっています。これらを発端にして、超高齢社会において高齢者・障がい者などあらゆる人の能力を活かし、多様性と包摂性にあふれたより良い社会の実現に更に大きく貢献すると期待されています。

写真:自動隊列走行を実現したロボティックモビリティ
自動隊列走行を実現したロボティックモビリティ
写真:PiiMo(ピーモ)
PiiMo(ピーモ)

受賞者コメント

写真:安藤 健
安藤 健

この度は大変名誉ある賞を頂き、誠にありがとうございます。企業人でありながら、科学者賞という表彰を頂けたこと、大変有難く思っております。本研究開発の実施にあたり、これまで数えきれないほど多くのご支援を頂いた社内外の皆様に心より感謝申し上げます。本取組は、ロボットが人と共存した環境の中で、親和性高く動くための人とロボットのインタラクションに関する研究であり、ロボット工学に生体工学や医療福祉工学など人の心身の理解を深める研究を融合することで、共に場を共有し、時に協調する関係にもなる人とロボットがお互いの能力を最大限発揮できるようにすることを目指した研究となっています。今後はこれまでの研究成果も活用しながら、広義のロボティクスを事業に結び付けていくことで、くらしやしごとのWell-beingの実現に寄与して参ります。