第72回電気科学技術奨励賞を受賞

2024年11月22日、第72回電気科学技術奨励賞(旧オーム技術賞)の贈呈式が行われ、パナソニック インダストリー株式会社から1件の電気科学技術奨励賞を受賞しました。

電気科学技術奨励賞は、電気科学技術に関する発明、研究・実用化、ソフトウェア開発、教育等で優れた業績を上げ、日本の諸産業の発展及び国民生活の向上に寄与し、今後も引き続き顕著な成果の期待できる人に対し、公益財団法人 電気科学技術奨励会より贈呈されるものです。

今回、当グループの受賞者と業績は、以下のとおりです。

電気科学技術奨励賞

『透明導電フィルム「FineX」の開発』

受賞者

左から長島さん、山田さん、永吉さん

左から 長島さん、山田さん、永吉さん

写真提供:(公財)電気科学技術奨励会

開発の背景

ディスプレイの高画質化・大画面化とともに、タッチセンサの搭載が一般的になっています。それに伴いタッチセンサに用いられる透明導電フィルムには、ディスプレイの画質を損なわない「高透過性」と、高精度にタッチ操作できる「低抵抗」の両立が求められるようになってきました。従来は透明酸化物導電体である酸化インジウムスズ (ITO) や、銅や銀といった低抵抗な金属を4~6μm幅の配線に加工した「メタルメッシュ」が用いられてきましたが、高透過性と低抵抗の両立には限界がありました。

図1 開発品 透明導電フィルム FineX🄬

図1 開発品 透明導電フィルム FineX🄬

開発技術の概要

【透明導電フィルムの課題】

従来から透明導電体として用いられてきたITO は、高透明な一方でセラミックスであるため低抵抗化には限界がありました。そこで更なる低抵抗化を目指し、銅や銀などの金属を導体とするメタルメッシュタイプの透明導電フィルムが開発されてきました。メタルメッシュの最も一般的な製造法はエッチング工法 (図2) で、基材表面に形成した金属膜をフォトマスクでパターニングした後、エッチングで細線化する手法です。大サイズ・低抵抗のメタルメッシュの製造には向いていますが、金属の均一な細線化が難しく、量産可能な線幅は最小でも4μm程度であるため配線を視認でき (図3)、配線断面のアスペクト比 (高さ÷幅) も小さく (図4-a)、細線化と低抵抗の両立に課題がありました。

図2 従来のエッチング工法

図2 従来のエッチング工法

図3 配線の幅と視認可否

図3 配線の幅と視認可否

【独自の配線埋め込み構造】

上述の課題解決のため、半導体の配線構造を応用展開し、フィルム表面に形成した微細な溝内に金属材料を埋め込むことで、これまでにない構造のメタルメッシュを開発しました (図1, 図4-b)。この埋め込み構造では配線幅の均一化が容易で、従来の半分以下の幅である視認困難な2μmの細線も安定形成できます (図3)。細く深い溝を形成することで、従来の3倍のアスペクト比の細く厚い配線を形成することができ、「高透過性」と「低抵抗」を高レベルで両立することが可能となりました。

図4 配線断面形状の比較

図4 配線断面形状の比較

【Roll to Roll工法の開発】

この配線の埋め込み構造は、半導体の配線構造がヒントとなっています。一般的に半導体の工法では、硬いウエハを1枚ずつ加工する枚葉方式で、そのウエハサイズも12インチ (300mm) 程度です。
しかし、一般的な透明導電フィルムは、コストや生産性の観点から500mm幅前後の大面積のフィルムへRoll to Roll方式で生産されています。半導体と同じ枚葉方式で透明導電フィルムを作製しようとすると、コスト・生産性・サイズの観点で課題がありました。

図5 当社独自のRoll to Roll工法

図5 当社独自のRoll to Roll工法

今回我々は、埋め込み構造を大面積のフィルム上へRoll to Roll方式で量産可能な業界初の独自工法の開発に成功しました。この方式は、図5に示す通り、溝や微細配線の形成をそれぞれ連続処理することが可能となり、生産性を大幅に向上させることができます。また、上下面の精密な位置合わせを行いながらフィルムの両面に一括で溝を形成するため、タッチセンサで求められる両面のセンサどうしの高い位置精度を実現し、タッチ精度や光学特性の向上、使用材料の削減、モジュールの薄型化に貢献しています。 現在、幅580mm×長さ700mmまでの製品サイズに対応し、1ロット数百mの連続生産を実現しています。

開発技術の成果

FineXは、「高透過性」と「低抵抗」を高レベルで両立することから、安全・利便性・意匠性・省エネといった多様な価値を提供することが可能となります。 例えば車載分野では、透明ヒーターとしての活用が期待されています。近年、自動運転用のセンシングデバイスの搭載 (図6) が進んでいますが、表面の曇りや氷結による誤動作・動作停止が課題となっています。低抵抗で昇温特性に優れるFineX🄬を透明ヒーターとして用いることで、短時間で曇りや氷結を除去することができ (図7)、直接昇温するため熱効率もよく、省エネになります。更に、可視光~赤外光の幅広い範囲で高い透過性を有するため、赤外線レーザーを使用するLiDARのセンシングを阻害しないという特徴もあわせもっています。
5G/6G高速通信分野では、透明アンテナが注目されています。高周波帯の電波は減衰が大きく、送受信の損失を抑制することが重要になります。FineX🄬では、高精細なディスプレイ表面にも設置可能な高透過性と、同じ面積のベタ金属のアンテナと同等の効率を有する透明アンテナを実現することができます。
以上のように、FineX🄬は安全・利便性・省エネ・意匠性といった多様な機能と価値を、今後成長が期待される新たな分野に幅広く提供し、人々の生活に大きく貢献していきます (図8)。

図6 フロントガラスの内側に装備されたカメラ

図6 フロントガラスの内側に
装備されたカメラ

図7 透明ヒーターの昇温特性

図7 透明ヒーターの昇温特性

図8 FineX🄬の応用先

図8 FineX🄬の応用先

※FineXおよびFineX Pronounced Fine Cross ロゴは、パナソニック ホールディングス株式会社の商標または登録商標です。

【関連リンク】

受賞者コメント

山田 博文

山田 博文

この度は大変名誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。これまでご支援いただきました皆様に、改めて深く感謝申し上げます。
この「FineX🄬」は、独自のRoll to Rollプロセスとデバイス構造を特徴とする、「高透過性」と「低抵抗」をこれまでにない高いレベルで両立させた透明導電フィルムです。安定した量産の実現には様々な高いハードルがありましたが、実用化に辿り着くことができました。本技術を通して様々な分野で貢献できるよう、引き続き邁進してまいります。

長島 奨

長島 奨

この度は大変栄誉ある賞を頂き、誠にありがとうございます。また、これまで共に開発・量産化に尽力頂いた皆様に深く感謝申し上げます。本開発品は、これまでなかった大面積で「高透過率」と「低抵抗」の両立を実現した透明導電フィルムです。本フィルムを使用することにより、これまで実現出来なかった新しい価値を持った商品が生まれてくると考えております。今後も実社会に貢献出来るような技術開発を推進してまいります。

永吉 竜治

永吉 竜治

この度は大変名誉ある賞をいただき、誠に光栄に思っております。受賞技術は高難易度のプロセス技術の確立に加え、タッチセンサ、透明ヒーター、透明アンテナなど、幅広い領域で社会貢献できる点を評価いただけたと考えております。本製品に支援くださいました関係者皆様に改めて感謝申し上げます。今後も引き続き、様々な分野で貢献できる材料プロセス開発を推進してまいります。