「福島県の児童養護施設の子どもの健康を考える会」
被曝モニタリング検査結果の整理方法をプロボノ支援
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パナソニックグループは従業員の仕事のスキルや経験を活かし、NPO/NGOの事業展開力の強化(情報発信や業務基盤構築)をチームで支援する「Panasonic NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」を2011年から展開してきました。
今回は5人の従業員がチームを組んで、「特定非営利活動法人 福島県の児童養護施設の子どもの健康を考える会」を支援しました。プロボノチームは2024年7月に、団体の問題意識や団体が実施した被曝モニタリング検査結果の保管状況についてヒアリングすることからスタートしました。その後、検査結果に関する問い合わせがあった際に、該当する子どもの検査結果を抽出しやすい整理方法を検討して中間報告を行いました。10月には、中間報告の内容をブラッシュアップし、検査結果の電子化および抽出手順を示した「検査結果データ整理フロー」を最終成果物として納品しました。
長期の健康管理支援に向けた検査結果の整理が課題に
「福島県の児童養護施設の子どもの健康を考える会」は、児童養護施設以外に避難する場所がない子どもたちを健康被害から守るために活動している団体です。
その活動は、次のような経緯で始まりました。
2011年3月11日、東日本大震災と、それに続く東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島県内では8つの児童養護施設の子どもたち約450人と職員が被災しました。ところが、児童養護施設に措置(※)されている子どもたちの被曝防護対策にまでは職員の手が回らず、子どもたちの住民票を児童養護施設に移すことができなかったことから、公的な被曝モニタリング検査(甲状腺検査など)の案内を受ける対象から外れてしまいました。
このことを知った看護職の3人が、2012年から福島市内に事務所を設け、児童養護施設の子どもたちの健康状態の把握や被曝防護の事業を始めました。
※措置制度:子どもたちの命や育ちを最優先させるため、子ども自身や保護者の意向ではなく、自治体の判断によって児童養護施設等への入所を決めるもの。
震災から時間が経つにつれ、児童養護施設を卒園・退所していく若者の数も増えていきましたが、児童養護施設で育った人は退所後も不利益な状態に陥りやすく、声をあげられない状況に置かれやすいという課題があります。放射性物質による健康被害は長い時間を経てから生じる可能性がありますが、卒園・退所後は被曝モニタリング検査をはじめとする健康診断を受けづらい環境に置かれることが多い現状があります。
そこで、「福島県の児童養護施設の子どもの健康を考える会」では、児童養護施設から社会へ巣立っていく若者の健康管理のために、被曝モニタリング検査の結果を記録して1冊にまとめた「健康手帳」を、児童養護施設を通して卒園者・退所者に贈呈してきました。
さらに、卒園・退所後も継続して健康被害発生時の支援を行うために、2019年には「一般社団法人 すこやかの会ふくしま」を設立しました。
一方で、検査結果は施設で保管することを前提にしていたので、団体が行ってきた各種検査の結果は紙媒体や電子データなど、ばらばらの形式で保存されていて、本人から「福島県の児童養護施設の子どもの健康を考える会」に対し、検査結果の照会を求められた際に、すぐに提供できる体制が整備されていませんでした。
そこで、今回のプロジェクトでは、児童養護施設から社会へと巣立った若者の健康管理と健康被害の早期発見・早期治療の支援に向けた活動体制を確立するために、団体を取り巻く環境や動向、団体へのニーズを把握するとともに、保管している被曝モニタリング検査結果の整理方法を提案しました。
検査結果の保存状況と卒園生の現状をヒアリング
照会にも対応しやすい保管の方向性を提案
プロボノチームは、まずはオンラインで、「福島県の児童養護施設の子どもの健康を考える会」が活動を始めることになった経緯や対象としている人たち、事業内容について話を聞き、理解を深めました。
そして9月8日には活動現場を訪問し、保有している各種検査結果の保管状況を確認しました。さらに、今後の閲覧方法を検討するために、さまざまな質問にお答えいただき、児童養護施設の卒園生が置かれている状況についても、話を聞くことができました。
これらの情報をもとに、どのように整理すれば検索・閲覧しやすいか検討を重ね、紙媒体から電子化と多様な検査結果の取り扱いを手順化しました。
こうして迎えた10月26日の最終報告では、成果として「検査結果データ整理フロー」をご提案し、資料にまとめて納品しました。
「検査結果データ整理フロー」の冒頭では、紙媒体の検査結果をスキャンしてPDF化し、パソコンに接続する外付けSSDに個人識別フォルダを作成して格納する手順を示しました。
続いて、児童養護施設や本人から検査結果の照会を求められた際に、旧姓や入所施設歴などからでも該当する結果の検索ができる方法について解説しました。
これらの成果物と一緒に、団体の今後の活動に役立ててもらう参考資料も提出しました。厚生労働省が実施した令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「児童養護施設等への入所措置や里親委託等が解除された者の実態把握に関する全国調査」の中から、課題に感じた注目すべきデータを引用し、プロボノチームが読み解いて分析を加えた資料と、公的機関や他団体の活動の中でアウトリーチに関して参考になりそうな情報をまとめた「外部調査リサーチ」です。
最終提案を受けての感想
澤田 和美さん(福島県の児童養護施設の子どもの健康を考える会 代表理事)
皆さん、会社員として働きながら、このような時間をつくっていただき、ありがとうございました。今日のお話を聞いて、私たちの取り組みを今後も身近な問題として考えていただけるのではないかと期待しています。卒園生は児童養護施設にいたことを声に出して周囲に言いませんし、本当は人に甘えたり、頼ったりしたくても、小さい頃に、そういうことを学んでこなかったせいで、それができません。卒園生で大変な思いをしている子たちが、皆さんの案外すぐそばにもいるかもしれません。私たちの社会が生み出した子どもたちとして、温かく見守り、力になっていただければと思っています。
プロボノチームの感想
- 島村 繁範さん
ボランティア活動は今回が初めてでしたが、私にも何かできることがあるのではないかとの思いで参加しました。初めて触れる世界で、知らないことが多く、あまりお役に立てなかったのではないかというのが正直な感想です。逆に、いろいろと学ばせていただいた上に、たくさんの刺激を受け、会の活動にもとても感銘を受けました。今まで、ボランティア活動や社会的養護といった分野に目を向けてこなかったことを反省し、もっと目を凝らして、自分の活動の幅を広げていきたいと考えています。 - 黒田 甲子郎さん
短い期間でしたが、ありがとうございました。お力になれる部分が少なかったことが反省点ではありますが、福島のことや児童養護施設のこと、そこで子どもたちが、どのような状況に置かれているかということを勉強させていただき、非常に大きなものを得ることができました。このような状況に置かれた皆様がいるという中で、自分たちに何ができるのか考えながら、日々の生活を送っていきたいと思っています。このような機会をいただき、ありがとうございました。 - 川村 健太さん
2011年に起きた東日本大震災の災害ボランティアに参加して以来、東北とは何かと関わりがあり、去年も福島のNPO団体さんのプロボノに参加させていただきました。もともと病院で働いていたので、社会保障関連には関わってきましたが、社会的養護の分野には初めて関わったので、いろいろと勉強になりました。このプロジェクトが終わったからと言って、ここで終わりにしてしまうのはもったいないので、今回学んだことを、たとえば、アドボカシーを行っている別の団体さんなどにも活かしていきたいと思っています。 - 鈴木 惠子さん
このたびはお忙しい中、現地にも訪問させていただいたおかげで、状況も把握でき、大変ありがたく思っています。今回関わらせていただいて、今まで社会的養護や福島というところに、あまりアンテナが立っていなかったことを痛感しました。大学の頃と社会人になってから、児童養護施設で幼児と遊ぶボランティアをしたことがありますが、スタッフの方からは、「この子たちは甘える場所がないので、とにかく甘やかしてください」と言われました。そういうことを知った上で、プロボノに参加したのですが、当時とは状況が大きく変わっていることを改めて感じました。この機会に、児童養護施設や社会的養護について勉強し直し、新たな行動に移していけたらと思っています。 - 小林 正樹さん
お忙しい中、ご対応いただいていることが十分に理解できましたし、代表理事の澤田さんとの会話を通して、初めて気づかされたことがたくさんありました。この活動に参加できて、本当によかったと思っています。これからも、私たちにできること、考えられる限りのことをやっていきたいと思っていますので、くれぐれも体調にお気をつけて、活動を続けていかれますよう願っています。
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NPO法人 福島県の児童養護施設の子どもの健康を考える会
福島県内の児童養護施設に措置されている子どもを対象に、低線量被曝の最小限化と健康状況の把握を行い、健康被害の早期発見および早期治療を行うことで、包括的な健康管理事業を行うことを目的に活動を行っている。また子どもを養育する職員の健康管理を行い、さらに広く市民に対して児童養護施設の子どもの健康に関する啓発活動も行うことも目的としている。
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