個人寄付拡大に向けたコミュニケーション方法の確立で「特定非営利活動法人あきた結いネット」を支援

パナソニックグループは、従業員が仕事で培ったスキルや経験を活かし、NPO/NGOの事業展開力の強化にチームで取り組む「Panasonic NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」を2011年4月から展開してきました。
今回は4人がチームを組んで、「特定非営利活動法人あきた結いネット」をプロボノで支援しました。あきた結いネットは「誰でも働きたい時に働ける場所」の開設を計画中で、その実現に向けて、プロボノチームは2024年7月から、団体スタッフへの内部ヒアリングや寄付者へのアンケートを実施し、10月に中間提案を行いました。11月には団体を訪問し、約3時間半にわたるワークショップを開催。どのような人を巻き込んで、寄付を増やしていきたいか、アイデアを出してもらいました。これらをもとに、具体的なコミュニケーション方法などを提示した業務ツールや業務フロー図、年間計画などを作成し、2025年1月18日に最終報告を行いました。
「誰でも働きたい時に働ける場所」の新設
組織の資金基盤の脆弱さが課題に
あきた結いネットは「秋田県で困っている人をなくす」を使命として掲げ、ホームレス状態の人や生活困窮者、刑を終えて出所した人、障がいのある人、身寄りのない人など、あらゆる困難を抱える人の相談に乗り、生活支援を行ってきました。
2013年の団体設立当初から、秋田県初のホームレス支援団体として、衣食住の支援を中心に活動を続けてきましたが、新たに生活困窮者の就労支援事業を立ち上げることを目標に、2019年から2021年の3年間にわたって「Panasonic NPO/NGOサポートファンドfor SDGs」の助成を受け、組織診断を行い、組織基盤を強化しました。
そして2024年からは、「誰でも働きたい時に働ける場所」を新設するために、さまざまな就労メニューの開発に取り組み始めました。
ところが、あきた結いネットには収益性の高い事業が少なく、資金の余裕がありませんでした。ファンドレイジングには着手したばかりで、まだノウハウがなく、継続的な寄付を通じた地域の方々とのつながりも希薄でした。
そこでプロボノチームは、あきた結いネットの拠点がある地域の方々の団体や寄付に対する意識を知ることで、潜在的寄付者の現状やニーズを把握し、個人寄付者を増やすためのコミュニケーション計画書を作成して、組織の資金基盤を強化することにしました。
内部・外部ヒアリングで寄付の現状を把握
コミュニケーション向上の業務フロー図を作成
プロボノチームはまず、あきた結いネットの寄付やイベント、外部とのコミュニケーションの現状を把握するために、スタッフを対象とした内部ヒアリングを実施しました。そこから、団体のアピールポイントや強化すべきポイント、実際にやってみたいことなどを導き出しました。
続いて、他のNPO団体に、寄付者を獲得する手段や、そのためのコミュニケーション方法などについてヒアリングを実施。あきた結いネットの既存の寄付者にも、団体を知ったきっかけや寄付をする理由などについて、アンケートで尋ねました。
さらに、プロボノメンバー3人が団体を訪問して行ったワークショップでは、「全員でもっと寄付を集める活動をするには?」と題して、思いついたアイデアを付箋に書き出していきました。

さらに、「寄付をするきっかけ」や「寄付をする人のペルソナ」について考え、実際に「やってみたい企画」や「団体の活動をアピールできそうな企画」を発表しました。その中から選んだ企画の5W2Hをみんなで考え、「実行計画」を立てて、最後に、寄付を募る行動を継続するための「コミュニケーション計画書」を作成しました。
こうして迎えた2025年1月18日、プロボノチームはオンラインで最終報告を行いました。
冒頭の「調査報告」では、内部ヒアリングや寄付者アンケートの結果をまとめたほか、NTTドコモモバイル社会研究所のレポートや日本ファンドレイジング協会の『寄付白書』のデータなどを分析し、年齢層ごとのメディア利用の傾向や寄付を取り巻く環境を明らかにしました。
そのうえで、今後、継続的な個人寄付者を増やしていくには、今いる寄付者に、画像や動画、QRコードを効果的に使い、共感を得られるストーリーを組み込んだ団体の最新情報を定期的に発信し、団体を理解し、評判を広めてくれるインフルエンサーを増やしていくことが重要であると強調しました。
続いて、継続的な寄付者を増やすためのコミュニケーション向上を図るステップとして、「対策検討」「効果検証(経験の積み重ね)」「次なる効果的な活動」の3つを図で示しました。中でも重要な経験を積み重ねていくステップのフォーマットとして、イベントの年間計画を立てるための「イベント計画テンプレート」や、SNSでイベントの内容を情報発信したり、寄付者に礼状を送ったりする際の例文をまとめた「報告書テンプレート」を作成。
それぞれを実行するにあたっての流れを「情報発信フロー図」「寄付フロー図」「イベント計画~実行フロー図」によって、ひと目でわかるようにしました。このような手順を踏んで配信した情報の効果は「目標管理台帳」で測定することを提案しました。
そして最後に、今後、寄付者を増やすための施策を検討する際に「寄付者向けアンケート」を行うことを想定し、アンケートの設計・実施・結果のサマリー・分析の方法をまとめた「アンケートの作成手順」を納品しました。
最終報告を受けての感想
坂下 美渉さん(あきた結いネット理事長)
サポートファンドの助成でコンサルタントに入ってもらったことはありますが、プロボノは初めてです。プロジェクトの途中で事務局長や総務の担当者が変わり、安定的に得られていた事業収益が揺らいだ時期でもありました。今回、皆さんにつくっていただいたものを活用できる段階まで組織を立て直すには、少し時間がかかるかもしれません。ただ、課題の分析や、さまざまなツールを使って効果的に情報を発信することの必要性については、今日参加した管理者も十分に学べたと思います。皆さんが、お休みの時に一生懸命頑張ってつくってくださったことが、すごく伝わってきました。これを活用して、あきた結いネットが1,000万円の寄付を集めた際には、ぜひ皆さんにご連絡したいと思っています。

理事長 坂下 美渉さん
藤木 泰寛さん(あきた結いネット事務局長)
今回まとめていただいたものをどう活用し、寄付者を獲得していくかというところで、あきた結いネットは部門もそれぞれ分かれているので、しっかり役割分担したいと思います。日々の業務に追われてできなくなると意味がないので、誰が発信し、どのように情報を集めるのか、内部で話し合って仕組みを整える必要があります。必要に応じて、インターンなども検討していきたいと思います。広報誌を見て寄付品をよくくださる会員さんや、インフルエンサーのような支援者の方もいるので、そういう方が外にも発信しやすくなるように、今回まとめていただいたことをしっかり活かして、取り組んでいきたいと考えています。

事務局長 藤木 泰寛さん
髙橋 志子さん(就労継続支援B型事業所管理者)
丁寧にご説明いただき、ありがとうございます。実際にお越しいただいて実施したワークショップでは、ペルソナを設定し、企画の具体的な内容を固めていく段階で、この部分が抽象的になってしまうと、それなりの結果しか出せないことがわかりました。私自身、これで本当に寄付が集まるのかと疑問に思ってしまうような計画しか立ててこなかったことを反省しています。今回のプロポノで教えていただいたことを寄付につなげるために、みんなで具体的な内容をちゃんと煮詰めて、考えていきたいと感じたところです。

就労継続支援B型事業所
管理者 髙橋 志子さん
鍬﨑 恵雅さん(グループホーム管理者)
お話がわかりやすくて、とてもよかったと思います。私自身もイベントに参加してきたので、こういうやり方もあったのかと気づかされました。やはり、目標をどう立てるかが大事なのだと思いました。実際にやってみて振り返るという繰り返しは、普段の支援にも通じるところですが、どのようにして寄付をいただくかは、支援とはまた別の問題なので、つながりのある方にどう伝えていくかが今後の課題でもあると感じました。

グループホーム管理者 鍬﨑 恵雅 さん
所 圭さん(住居部門管理者)
普段は、サービス管理責任者として利用者様の個別支援計画を立てていますが、まずは利用者様のニーズを聞いてアセスメントを行い、計画を立てて実施し、どうだったか振り返り、再アセスメントして……というPDCAサイクルを繰り返しています。今回教わった寄付者に向けたコミュニケーション計画とかなりリンクしているので、こういう形にすれば、こういう目標を達成できるという考え方が、よくわかりました。今後、実際に計画を立てて、何かを企画し、寄付者を集められたらいいなと、わくわくしているところです。

住居部門管理者 所 圭さん
伊藤 久美子さん(クリエイト部門管理者)
とてもわかりやすい説明でした。最近、もう一人のパートの方とSNSの発信をするようになったので、時系列や年間で報告していくといった、今日のお話を参考にさせていただきます。今は商品に関することを中心に発信していますが、グループホームや就労支援のほうでも、いろいろな活動をしているので、もう少し上手に工夫をしながら、持ち回りで発信していったほうがいいのかもしれないと思いました。

クリエイト部門管理者 伊藤 久美子さん
プロボノチームの感想
- 上原 佳子さん
自分としては、もう少しああできたのに、こうできたのにと思うところがあって、悔しい部分も多いのですが、坂下さんを始めとする皆さん、本当にありがとうございました。プロジェクトとしては終わりますが、何かお手伝いできることがあれば、ぜひ継続してお手伝いさせていただき、何らかの形でサポートしていければと思っています。 - 寺本 英夫さん
秋田には何のゆかりもなかったのですが、実際に訪問させていただいて、寄付というものについても、今回非常によく勉強させていただいて、本当にありがたく思っています。あきた結いネットさんが発展されることを切に願っております。そして今後とも、末永くお付き合いできればと思っています。 - 今泉 賢さん
このたびは貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。いろいろと不完全なところもあるし、わかりにくいところもあったとは思いますが、せっかくできたご縁ですので、何かありましたら、ぜひ遠慮なく聞いていただければと思っています。 - 小林 智さん
秋田は、このプロボノで関わるまでは縁もゆかりもない土地でした。他の団体に多少の寄付をした経験はありますが、寄付についても、わからないことがたくさんありました。メンバーの中で自分が一番若いこともあって、プロジェクトの進め方など、いろいろなことを先輩方から学ばせてもらう機会にもなりました。遠く離れた広島県に住んでいて、現地に行くことはかなわなかったのですが、あきた結いネットの皆さんの熱意や、もっとよくしたいという気持ちが、パソコンの画面越しであっても十分に伝わってきました。

NPO法人 あきた結いネット
「秋田県で困っている人をなくそう!」をスローガンに、身寄りのない方、生活困窮者、罪を犯してしまった方、障がい者など様々な方達へ、既存の制度ではサポートできない隙間の部分を埋めるための活動を行う。過去の出来事や病気、障がい、年齢などで『今生きている時間』が左右されないように、誰もが望む人生を歩めるようにサポートに取り組んでいる。
