一つの出会いが、次の出会いへ連鎖する。
NPOと関わることで見つけた、自分と社会の新たな一面
従業員プロボノ参加者 内藤茂樹さん
社外のプロジェクトも含め、これまで計3回プロボノを経験した内藤さん。2021年には、社外のプロボノであるNPO法人フェリスモンテ(以下、フェリスモンテ)への支援プロジェクトに参加し、「それまではボランティアや福祉分野との接点は全然なかった」と振り返る。プロボノで福祉の世界に飛び込んだ後の自身の変化を聞いた。
社会課題に触れる経験を仕事に繋げたい
プロボノに参加するきっかけの一つとなったのが、2020年のコロナ禍でした。当時は、感染拡大の影響で日常生活や業務が思うように進まず、良くも悪くも時間に余裕が生まれていました。それまでは趣味のバスケットボールを楽しんだり、家族と休日を過ごしたりしていましたが、子どもたちの成長に伴い、自分のために使える時間が増えてきたこともあり、「何かできることはないか」と探していた中で出会ったのがプロボノでした。
普段は企画の仕事をしていることもあり、日頃から新しいアイデアにつながるインプットの機会を求めていたことも、参加のきっかけになっています。私が所属するイノベーション部門は、目の前の事業に直結することだけでなく、何年か先の未来を見据えてどんなことを仕掛けていくかを考える仕事なので、社会課題に関するテーマもどこかできっと繋がるだろうと感じていました。
内藤 茂樹さん
それまではボランティアなどにも参加したこともなく、自分の中に選択肢としても持っていませんでしたが、企画職は「人と会ってなんぼ」な職業なので、何かを掴めたらという気持ちで飛び込みました。
はじめて出会う人たちとのチーム活動で再認識した、自分の特性と強み
これまで3つのプロボノに参加しました。特に印象的だったのは2021年に参加したフェリスモンテのプロジェクトです。この団体は、地域の高齢者、子育て世代、障がい者をまるごと支えるためにさまざまなサービスやイベントを行っており、彼らの活動はボランティアのサポートも必要としています。一方で、ボランティアを希望する人に伝える事業内容の説明が複雑であることや、登録者数に比べて実際にボランティアとして活動している人の割合が高くないことに課題を感じていました。そこで、プロボノプロジェクトでは、彼らの想いや事業内容を分かりやすく伝え、ボランティアの活動者を増やすためのチラシ作りを行いました。
ヒアリングの様子
チラシを作るために、既にボランティアとして活動している人にヒアリングするプロセスで、自分は人の話を聞くことが好きなんだと再確認しました。チームには、企画を生業にする人、イラストレーターの人、営業職の人など、それぞれ異なるスキルを持った人が集まっており、私はマーケッターという役割で関係者へのヒアリングを中心に担当しました。人の話を聞いてまとめるという作業は普段の仕事でも行っていますが、会社と関係ない場所でも自分のスキルが通用したことで「今までやってきたことは間違ってなかった」と思え、普段の業務でも自分の強みとして意識するようになったと感じます。
同じ会社の人ではなく全く異なる文脈で集まった人たちと活動したことも、自分自身を客観視できた理由の一つだと思います。例えば、同じ「話を聞く」でも人によってアプローチが違い、私は話を聞く相手に焦点をグッと当てて質問を投げかけていくことが多いのですが、ある女性のメンバーは話を聞く相手だけではなく、その場の雰囲気も大切にしながら話を聞く点が印象的でした。仕事の進め方も人それぞれなので、フェリスモンテのプロジェクトでは、はじめにプロボノメンバー同士で足並みを揃えることに苦労した場面もありました。同時に、社内のプロボノは部署や地域が違うとはいえあくまでも同じ会社の人と取り組むので、仕事の進め方やチーム作りのあり方に一定の共通認識を持った状態で活動できていたのだなと、今振り返ると感じます。はじめましての人たちとのチームで活動することで、自分は思ったことをすぐ口にしてしまうクセがあるだとか、せっかちな性格だとか、自分自身の特性も客観視できました。
福祉にもっと携わるために、手話部の活動へ参加
プロボノで生活支援の活動現場を見学したり、区の社会福祉協議会にヒアリングに行ったりと、様々な形で福祉の世界に触れたことで、この分野との心の距離はかなり縮まったように感じます。それまでは両親が祖父母の介護をしている場面を見ていた程度で、あまり福祉の分野には関心が持てていなかったのですが、プロボノに参加してからはニュースや日常会話で関係する話題が出てくると反応するようになりました。他にも、同僚が推進している福祉関連のテーマにも興味が湧き、試作サンプルの使用性評価の評価者として参加したり、交流のある社外識者との意見交換の場を設けてみたり、自身が担当するプロジェクトやテーマと福祉分野の接点を探すようになったりと、仕事を取り組む姿勢にも変化がありました。
様々な変化があった一方で、プロボノ終了後も心のどこかで福祉に携わりたい気持ちがあり、2024年からはパナソニックのエレクトリックワークス社が主催している「手話部」に所属して現在も活動しています。
自分から直接NPOや団体と連絡をとって活動できる場所を探すようにもなり、「手話部」以外にも兵庫県にあるNPOの活動に関わっていた時期もありました。プロボノは約3~4ヶ月と限られた期間の活動なので、終わった後に「自分はもっと現場にどっぷり浸かって長期間活動してみたい」と思うようになっていました。こうした気づきを経て新しい活動ができるようになったのは、間違いなくプロボノのおかげです。
一つ扉を叩くと、いろいろな扉を叩けるようになる
「塞翁が馬」という言葉の通り、プロボノに参加して、自分の人生はまだまだ予測ができないものだと感じました。それまで、自分自身で無意識に可能性を狭めていたように思います。けれども、プロボノを通じて初めて福祉の世界への扉が開き、一つ新しい扉を叩いたことで、別の世界への扉を叩くハードルも下がったと実感しています。
知らない分野の第一線で活動する人たちと近い距離で学べる点は、プロボノの大きな魅力です。NPOやボランティア団体との接点がまったくない人でも、社会課題に触れ、学び、そして行動を起こすきっかけを得ることができます。福祉の分野にも、まだまだ知らない世界が広がっているので、手話部の活動を通じて、これからも継続的に学んでいきたいと思います。
年齢を重ねるほど、それまで歩んできた道から外れることへのハードルは高くなる。一方で、プロボノは今の自分が持つ知識やスキルを活かして取り組めるため、内藤さんのように未知の分野への扉も開きやすくなります。自分の新たな一面を掘り起こしたい人にことプロボノをおすすめしたい。
内藤さんが参加した社内のプロジェクト
福岡県黒木町で棚田と山林を守ってきた「山村塾」伸び悩むサポーターを増やすための「マーケティング基礎調査」に東京・大阪・福岡のパナソニック従業員9名で構成するプロボノチームがコロナ禍 の中オンラインで取り組んだ。