国内助成 2023年募集事業 選考委員長総評

はじめに

3年に及ぶ新型コロナウイルスのパンデミックを経て、ようやく日常生活が戻ってきました。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻に加えて、イスラエルとパレスチナの紛争で大量の死傷者が出て、どちらも終息の兆しの見えない深刻な状況が続いています。その影響は世界中に広がり、各国で食料やエネルギー資源の価格急騰が続き、国民のくらしを不安に陥れています。国内では、わずかばかりの賃金上昇も物価高騰の煽りを受けて、人々の購買行動は上向いてはいません。
このような状況は、低所得層に深刻なダメージを与えています。国内で支援活動をしている民間団体の多くが、コロナ禍のなかで一時は活動を縮小せざるをえない事態に陥りましたが、2023年に入ってようやく本格的に活動を再開しています。これらの活動を通して、コロナ禍の爪痕の実態が明らかにされるとともに、世界の戦争や紛争の影響がどのように国内に影響を及ぼしているのかについても、応募団体から生々しい実態が伝わってきます。

応募状況と選考のプロセス

2023年募集は、33件の応募がありました(新規26件、継続7件)。新規については約6割が組織診断からはじめるAコースでした。なお今回より組織診断からはじめるAコースは組織診断の実施を終えたあと組織基盤強化にも取り組むことができるよう内容を変更し、助成期間は8か月から1年に、応募金額の上限は100万円から150万円に改訂しました。

新規助成の選考は先ず、応募団体と応募内容について、事務局が応募要項に記載された応募要件のチェックを行い、「要件を満たしているもの」が22件、「要件を満たさないもの」が4件と判断されました。次に要件を満たしていると判断された22件すべてについて、選考委員長と選考委員4名が選考基準ごとに評価を行った上で、さらに総合評価を行い、評価した点や課題などのコメントをつけて事務局に提出しました。このうち1件については後日辞退でした。
継続助成の選考は、応募のあった7件すべてについて、選考委員長と選考委員4名が選考基準ごとに評価を行った上で、さらに総合評価を行い、評価した点や課題などのコメントをつけて事務局に提出しました。
9月28日に選考委員会を開催し、選考委員長と選考委員が参加して、新規助成と継続助成について事前に提出した評価結果をもとに審議を行いました。その結果、新規助成に関しては少なくとも選考委員1名以上の推薦が付いた案件が16件ありましたが、審議の結果、7件(うち2件は補欠)が選考ヒアリングの対象になりました。審議の際に選考委員が重視した点は、本助成事業の趣旨に合致していること、地域の他機関・団体との連携体制があること、事業内容が具体的で団体の実情が理解可能であること、貧困問題の解消等の目的やミッションが明確で社会的にも意味があること、課題解決の見通しがあることなどでした。

その後、事務局が団体のヒアリングを行い、その結果を受けて11月8日に新規助成の助成対象5件(組織診断からはじめるAコース3件、組織基盤強化からはじめるBコース2件)、助成総額716万円を決定しました。
継続助成は相対的に評価が高かった助成対象4件(内訳は組織診断からはじめるAコースの継続2年目が2件、同じくAコースの継続3年目が1件、組織基盤強化からはじめるBコースの継続2年目が1件)、助成総額784万円を決定しました。
以上の結果から、2023年募集の新規助成と継続助成を合わせた助成件数は9件、助成総額は1,500万円となりました。
なお採択に至らなかった団体は、組織の課題とその解決の方向性について、団体の関係者と更なる検証や共有を深めながら解決に向けて取り組んで欲しいと思います。

選考結果からわかったこと

応募団体の設立後の年数をみると、もっとも多いのが5年以上10年未満(46%)、つぎに多いのが10年以上15年未満(21%)、続いて20年以上(18%)です。ある程度の実績を積み上げてきた団体が一度立ち止まり、今抱えている課題の解決に向けて活動の棚卸をし、つぎの段階に進もうとしている傾向は例年と変わりありません。応募団体が抱えている課題をみると、「ミッション・ビジョンの共有体制が弱くなっている」「職員の力量がニーズに応えられない」「助成金頼りで財政基盤が不安定」などが多く、これも例年と変わりないと言えるでしょう。その結果、応募事業の目標として、「中期ビジョン・中期計画の策定」「スタッフ強化」「財政基盤強化」「代表者個人の活動から組織の活動への転換」「組織全体で改革に取り組む」等が重要な柱となっています。現場の体制に比して、バックオフィスの体制が弱いという悩みをもつ団体が複数あり、基盤強化の課題の一つとなっています。コンサルタントの位置づけに関しては、通常でいう「助言」あるいは事業の一部に限ったサポートと位置付ける団体が見られますが、サポートファンドの位置づけはそうではないことをご理解ください。

団体のミッションを完遂するためには、団体の実態を的確に把握し、めざしたい姿を明らかにし、組織基盤を強化することが不可欠です。この事業を進めるには、代表者だけでなく団体構成員の全員がこの取り組みの必要性と見通しを共有する必要があります。採択された団体の抱える問題意識は、持続性のある確実な力量をもって貧困対策に取り組むことができるように、組織診断・組織基盤強化を図ろうとする団体を支援しようとする本事業の目的に合致していると思います。なお、組織基盤強化を目指すための具体性がなく、見通しがない状態で応募している団体が見受けられましたが、まずは主体的に検討していただくことが欠かせないと思います。

採択された団体の組織診断・組織基盤強化のテーマを見ると、継続助成の4団体は、「自立に向けた生活困窮者支援事業を持続的に行うための組織基盤強化」「急拡大した組織の中期ビジョン・中期計画の策定及びスタッフ・財政基盤の強化」「不登校の子ども達の“関係の貧困”解消に向けてメンバーの多様性を生かすミッション・ビジョン・コアバリューの見直しと広報発信」「誰ひとり取り残さない支援の実現が可能な組織づくりに向けた具体的実践」がテーマとなっています。
新規助成の5団体は、「東日本大震災による貧困対策として行ってきた移動支援を、地域に根差した持続可能な形態に転換させる取り組み」「虐待などの背景で親を頼りづらい若者への持続可能なサポートのための組織診断」「ひきこもり・ニート(若年無業者)・不登校の子どもや若者および家族の自立支援を持続的に運営するための組織診断」「社会的養護施設の人材確保・定着支援活動の継続に向けた組織マネジメント体制の強化」「制度の隙間に溢れ落ちた子ども・若者に切れ目のない支援を届けるための持続可能な組織構築を目的とした組織基盤強化」がテーマとなっています。採択された団体をみると、多様な関係機関と連携および協力体制を築き、地域からの信頼も得ている団体と、地域に支援機関・団体が少ないために希少性が高い団体の2通りがあります。どちらも大切な地域資源です。このような団体がこれからも持続性のある活動を続けていくためには組織基盤を強化する取り組みが効果を発揮すると思います。

審査の過程では、サポートファンドで蓄積してきた審査の視点だけでなく、貧困に関する社会状況の変化にともなって顕在化した、貧困に限定されない子ども・若者の諸課題の広がりについても活発な意見交換が行われました。本助成事業の6年間だけでも、子どもや若者の状況が刻々と変化し、それを的確に捉えた取り組みが確実に進化していることを感じます。
生活困窮に歯止めをかけること、そして孤立・孤独の状態に置かれる人々を放置しないために、民間団体が果たす役割は大変大きいと思います。助成された団体がより一層力をつけて各地で活躍することを期待しています。

国内助成 選考委員長
宮本 みち子

<選考委員>

★選考委員長

宮本 みち子

放送大学 客員教授・名誉教授、千葉大学 名誉教授 

小河 光治

公益財団法人 あすのば 代表理事

立岡 学

特定非営利法人 ワンファミリー仙台 理事長

吉中 季子

神奈川県立保健福祉大学 准教授

東郷 琴子

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
企業市民活動推進部 ソーシャルアクション推進課 課長