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Panasonic NPOサポート ファンド 子ども分野 成果報告会 ― 苦労点や成功事例を、お互いの学びに

2016年2月26日、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京にて「Panasonic NPOサポート ファンド子ども分野成果報告会」を開催しました。子ども分野の助成先11団体が参加し、2015年に「組織診断」や「組織基盤強化」に取り組んだ成果を発表。選考委員による講評や、活発な質疑応答が行われ、終了後には交流会も設けられました。

苦労点や成功事例を、お互いの学びに

ご挨拶

成果報告会の冒頭に、パナソニックCSR・社会文化部 部長の福田里香が挨拶を行いました。

「私たちパナソニックでは、創業者である松下幸之助の『ものをつくる前に、人をつくる』という理念に基づき、今回のような助成事業を通じて、NPO法人の皆さまとともに次代を担う子どもたちの支援ができればと考えております。本日は、1年間の助成事業を経ての苦労された点や成功事例を、お互いに共有しながら、ともに学ばせていただきたいと思っております。」

第1部 成果報告

子ども分野は、助成1年目の6団体を第1部、助成2、3年目を終えた5団体を第2部として、発表を行いました。

外部の視点から課題を洗い、アクションプランを策定

NPO法人 花の森こども園
発表者:副代表 大久保はるみさん

「幼児教育に関する事業を柱に活動していますが、『ようちえん』の運営は公的補助の対象ではないため、経済基盤が脆弱でした。今回の助成では、外部コンサルタントから、入園者数を増やすための広報の強化や自然保育事業としての補助金獲得、本部事務所および活動拠点の移転による地域との協力や事業を実現していく運営体制を作る等、さまざまな課題をいただき、これまでのボランティア的な活動から社会参加を進めるソーシャルビジネスへ、飛躍の一歩を歩むことができました。」

NPO法人 人身取引被害者サポートセンター ライトハウス
発表者:事務局長 坂本新さん

「2020年の東京五輪に向けて国内における人身取引禁止法制定の実現を目指していますが、代表1名での運営体制が長かったことから、スタッフ増員後も内部連携が弱く、今回の助成事業に取組むことにしました。外部コンサルタントの組織診断の結果、中期的な目標の明確化、それに合わせて事業領域の特化、助成金頼みからファンドレイジング機能の強化へ向けたアクションプランの作成などが課題としてあがりました。形骸化していた組織基盤を見直すことで、さらなる成果を出すための準備が整いました。」

支援者や他団体とともに課題を解消できる組織へ

NPO法人 ピープウ・ラボ
発表者:理事 安部里美さん、理事 小林郁さん

「音楽療法士やアート講師9名で、子育て支援を行っています。地域のニーズは高いのですが、組織としては事務局がなく、収支のアンバランスや人材不足など、運営面で多くの課題を抱えていました。コンサルタントによる組織診断や研修、運営相談を経て、優先課題であるミッションの作成及び共有、事務局の設置、収益事業と非収益事業の再確認に着手。組織図に業務分掌を加える過程で、役割分担が明確になり、会員や支援者、受益者を視野に入れた組織体制が見えてきました。」

認定NPO法人 長野サマライズ・センター
発表者:事務局長 小笠原恵美子さん

「聴覚障害を持つ子どもたちに、音声を文字へ通訳して提供する『パソコン文字通訳支援サービス』を行っています。2年前にこちらの組織基盤強化事業の成果を知って驚き、私たちのような小さな団体でも基盤強化で変われるのではないかと思い、応募しました。各自目指す方向がバラバラだったことや、音声認識システムのアプリなど外部の新技術にも目を向ける必要があること。また、事業展開していく上で、システムの導入や企業や他のNPOなどの団体との連携も必要だとわかりました。こうした基盤強化の機会を得られたことに感謝しています。」

組織の運営に立った視点へ、スタッフの意識が変わった

NPO法人 フリースクールみなも
発表者:理事長 今川将征さん

「不登校の子どもたちのサポート団体です。もともとフリースクールをやりたいスタッフの集まりで現場意識が高くスペシャリスト集団であるがゆえ、事務局機能は理事長が行っていたが、事業の広がりに伴って事務処理業務が追いつかない状態に。内部では気付かない問題をプロに診てもらう必要があると感じ、助成を受けました。結果、意思決定機関の明確化、労務管理やリスクマネジメント、規定の明文化が課題として浮き彫りになるとともに、法人のミッションを改めて明文化し共有することが大事だと気付きました。スタッフが各自の領域だけでなく、法人全体を発展させる視野に立てたことが大きな成果でした。」

NPO法人 ソルト・パヤタス
発表者:事務局長・理事 小川恵美子さん

「貧困地区の子どもたちの教育支援を20年間行い、2010年には困難な状況を乗り越えるための『ライフスキル教育』事業を展開しました。しかし、広報やマーケティング、財源に課題を感じ、今回の助成に応募。組織診断では、財源以前に中期計画の不在や、業務の整理、情報と決定権の偏りが洗い出され、早速、自分たちの事業に優先順位を付けて役割を整理する一方、業務量を分析し、会議の定例化やコミュニケーション量の増大を計るなど、その対策に取り組みました。基盤整備の重要性を理解した1年間でした。」

講評

発表後には質疑応答があり、選考委員の方々から各団体の皆さんへ、講評をいただきました。

NPO法人 子ども劇場東京都協議会 常任理事
NPO法人 子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事

森本真也子さん

花の森こども園さんの報告を聞き、この1年で着実に前進されていることがわかりました。団体の理念、つまり「花の森こども園らしさ」は何かを誰にでもわかる言葉で表すことに苦労されていましたが、これはどの団体にとっても大事なことで、それができればさらに次のステップに進めると思います。

認定NPO法人 ワールド・ビジョン・ジャパン
常務理事・事務局長 片山信彦さん

組織基盤強化とは「明確でブレない団体の目標設定」といえますが、それをクリアにすると同時に、組織と個人の目標を合致させていくのは大変な作業です。とくに創始者の思いを次の世代がどう受け止めるか。ライトスタッフさんはそういう意味で、この機に組織診断を受けられて良かったのではないでしょうか。ソルト・パヤタスさんは理事とスタッフの信頼関係を構築し直し、定性的な成果を出せたのが素晴らしいですね。いい組織になられたので、1回だけではなくPDCAサイクルで継続的に改善を図られると良いと思います。

NPO法人 東京シューレ
事務局長 中村国生さん

フリースクールみなもさんは、ミッションに立ち返ることと事務の体制づくりを同時に行うという作業に果敢に挑戦されていました。スタッフの意識が変わったことは大きいですね。NPOは組織と事業の両輪を持っていますので、事務局や事業スタッフのほか、ステークホルダーとして最も重要なスクールの利用者(保護者)を含めた組織を、どのように構築していくのかが課題であると思います。ぜひ頑張ってほしいと思います。

パナソニック株式会社 CSR・社会文化部
部長 福田里香さん

ピープウ・ラボさんは、ないないづくしの中で取り組まれたとのことですが、それを自分たちで認識されたのがまず大切で、そこに外部の目を入れ、課題を明確にしながら解決に取り組んでいました。新たな問題に対して「とにかく話す」というコミュニケーションを重視していたのが印象的です。長野サマライズ・センターさんは強みを軸に解決していく姿勢や外部環境の変化を考えていることが素晴らしいと思います。他団体との連携を始められた点も重要ですね。本プログラムは、同じような悩みを持つNPO同士、情報共有できますので、お互い手を差し伸べ合いながら活動していただければと思います。

第2部 成果報告

子ども分野の成果報告会は、続いて第2部へ。助成2年目の4団体と助成3年目の1団体、合計5団体が組織基盤強化の取組みと成果を発表しました。

組織基盤の強化によって、運営の見通しが立った

NPO法人 はちのへ未来ネット
発表者:代表理事 平間恵美さん

「八戸市を中心にで子育て支援や母親の在宅就労支援を行っています。1年目の組織診断で明らかになった課題は、ミッション・ビジョンの確立・周知と地域のネットワークの中心機能を担える体制の構築。2年目のチャレンジとして、広報体制を整え、メンバー個々の力量向上を図るための相互学習会を実施しました。リーフレットやWEBサイトのリニューアルの結果、正会員12名が入会し、また、相互学習会の中から青年層の会員による自主企画『はちのへこどものまち』も開催しました。これらは、この基盤強化事業の助成を受けたからこその成果だと思っています。

認定NPO法人 みやぎ発達障害サポートネット
発表者:代表理事 相馬潤子さん

「2007年の法人設立以来、事業内容が拡大し、法人運営を考える機会が少なくなっていました。外の力を借りてでも自分たちのめざす組織になりたいと思い、本助成では、まず組織診断を実施、中期計画の策定を最優先課題として取り組み、『3年後に実現させたいこと』を全職員で共有しました。2年目は行動プランを作成し、年間17回の研修を通して人材育成を図るなど、見通しのある運営ができるようになりました。利用者の推移も助成以前に比べて伸びており、3年目は新たな活動拠点の確保へステップアップしたいと思います。」

NPO法人 エイズ孤児支援NGO・PLAS
発表者:代表理事 門田瑠衣子さん

「ウガンダ、ケニアの2カ国でエイズ孤児支援活動をしています。これまで駐在員常駐型だった海外事業を現地パートナーによる現地主導型にしたいと考え、助成事業に申請しました。1年目は国内でのサポーター獲得キャンペーンが成功したことで、新たなパートナー型海外事業がスタート。さらにペルソナ作成によって新規マンスリーサポートの獲得に乗り出し、2年目には受益者のモニタリング情報を数値で表せるようデータベースで管理することができました。これら組織基盤強化によって得られた成果を定着していくかが今後の課題です。」

中期ビジョンを共有することで、組織が生まれ変わる

NPO法人 市川子ども文化ステーション
発表者:理事長 渡慶次康子さん

「1983年の任意団体設立以来、地域に根ざしたきめ細かな活動を行ってきましたが、行政や社会に向けてのアピールが弱くなっていました。もっと先駆的な役割を担う法人として生まれ変わるために外部コンサルタントに入っていただいて、診断シートを用いた内部環境分析、アンケートを用いた外部環境分析を行いました。当初の予想と違った課題が見え、事業の中期ビジョンを作成しました。現在は、組織が変わることの大変さを実感している日々ですが、変化していくことを理事全員が納得し、経営戦略や広報戦略に力を入れています。」

認定NPO法人 エンパワメントかながわ
発表者:事務局長 池畑博美さん

「私たちは子どもへの暴力防止プログラム(CAP)を中心に活動していましたが、プログラムが多様化し組織運営が後回しになっていました。活動の衰退を止めるには、自分たちがなぜ、どんな社会を目指して、誰に何を伝えたいのか、どんな人材を育成すれば良いのか、組織基盤の強化が必要でした。3年間で、人材育成計画のひとつ『デートDV予防プログラム実施者養成講座』や、収支バランスを安定するためのクラウドファンディング、SNS活用、寄付キャンペーンの始動、セールスフォース(CRMソフト)導入による事務の効率化など、多くの成果が得られ、寄付額も10倍以上に増加しています。」

講評

助成2年目の各団体、3年目のエンパワメントかながわの報告に対し、選考委員の皆さまから講評がありました。

中心人物が覚悟を持たないと組織は変わらない

NPO法人 子ども劇場東京都協議会 常任理事
NPO法人 子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事

森本真也子さん

長い歴史がある団体の場合、先駆者たちがやってきたことの社会的意味を自分たちの言葉で整理し、わかりにくくなったミッションをハッキリさせることが組織基盤強化には必要です。また、活動を進めるとき「みんなで決めるもの」という感覚がありますが、みんなで話し合い意見を出し合った上で、最終的には必ず決裁者がいます。決裁するには覚悟を持たなくてはなりません。組織診断から基盤整備へと積み重ねてきた3年間を生かし「私が変える」という覚悟を持って、新たに生まれ変わってほしいなと思っています。

若い力が成果を出していくことに期待

認定NPO法人 ワールド・ビジョン・ジャパン
常務理事・事務局長 片山信彦さん

2年目以降は成果が見えるため、聞いていてワクワクする報告ばかりでした。NGO・PLASさんは若い団体ですが、海外事業をパートナー型にしたり、ペルソナマーケティングを行うなど、非常に時流をキャッチした取組みをしています。かつ、成果を出していることが素晴らしいですね。パートナー型は現地とのコミュニケーションが大変ですが、それは海外事業の醍醐味でもあります。PLASさんのような若い力が成果を出していくことに期待したいです。

新しい組織へ生まれ変わる姿が見えた

NPO法人 東京シューレ
事務局長 中村国生さん

はちのへ未来ネットさんは、地域で立ち上がっている多くの事業をネットワークされていますが、とくに大人主導で取り組みがちな活動を子ども主体でつなげているのが素晴らしいですね。資料に「団体内で人材育成をつねに目指す」とありましたが、組織基盤づくりが活動継続のための人材育成に到達されたことは、地域の財産に必ずつながると思います。エンパワメントかながわさんは、3年間のストーリーが見えて、組織の「これから」がわかる報告でした。事務局に比重を置いた大胆な改革、正会員の役割を事業の担い手から協力者・寄付者へ広げていこうという考え方など、新しい組織に生まれ変わっていく変化が感じられました。

組織基盤強化がどうアウトカムにつながるか

パナソニック株式会社 CSR・社会文化部
部長 福田里香さん

みやぎ発達障害サポートネットの皆さんは、やるべきことをしっかり洗い出して、次々と問題解決を図られているのが印象的でした。ただ、今後も外部環境の変化とともに一度解決した課題がまた新たな形の課題となって現れるものです。また、「安心して活動できる社会づくり」というミッションがありますが、組織基盤強化として行ったことが、アウトカムとしてどのように社会へつながるのか。そこを意識することが大切だと思います。

修了書の贈呈

3年目の助成を終えた認定NPO法人エンパワメントかながわさんには、パナソニック株式会社 CSR・社会文化部 部長の福田より、修了証が贈呈されました。

全体講評

子どもの育ちは社会で支えていくべきこと

NPO法人 子ども劇場東京都協議会 常任理事
NPO法人 子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事

森本真也子さん

子ども分野にとって、ミッションの明確化は案外難しいことですが、「自分らしさ」がもっと客観性を持った言葉で表現できると、活動の意味がスッキリ伝わるのではないかと思います。昨今はスマートフォンの登場や経済格差など、子どもを取り巻く状況は大きく変化し、子どもの夢の格差をも生んでいます。私たちみんなで考えないといけないのは、子育ては私事の事業ではないということ。昔は社会が子どもを育てたものでした。その考え方をもう一度取り戻すためにも、皆さんと一緒に頑張っていきたいと思っています。

組織診断・組織基盤強化を各地のNPOへ広めてほしい

NPO法人 市民社会創造ファンド 運営委員長
山岡義典さん

11の団体それぞれの組織の特性や強さ弱さが見えて、興味深い報告会でした。組織づくりは今や欧米のNPOの常識であり、日本のNPOにもその文化が広がりつつあります。それがこの助成事業の5年間の大きな成果だと思います。今回参加された各団体の皆さんが、それぞれの組織基盤強化について、ご自身の体験をご自身の言葉で伝えることが、この成果を広げることにつながります。組織を強化する過程でいろいろ苦い思い出もあったと思いますが、今日の発表を機にさらにパワーアップして、この成果をそれぞれの地域で広めていって下さい。