Panasonic NPOサポート ファンド 成果報告会
環境・子ども・アフリカ分野の成果と20年の歩みを振り返る

2021年2月18日、Microsoft Teamsオンラインで「Panasonic NPOサポート ファンド」の成果報告会を開催しました。成果報告会は、環境・子ども・アフリカ分野の合同で行われ、3年間の助成を終えた6団体の皆様を始め、選考委員、事務局、協働事務局など、43人の方々にご参加いただきました。それぞれの3年間にわたる組織基盤強化事業の成果発表のあと、選考委員の講評が行われ、団体の成果と共に、20年にわたるサポートファンドの歩みを振り返る成果報告会となりました。

●開会挨拶

助成団体の活躍と共に組織基盤強化の認知度も上昇

パナソニック CSR・社会文化部 部長 福田里香

2001年から始まったNPOサポート ファンドとしては、今日が最後の成果報告会になります。これまでに助成した426団体の中には、官公庁で開かれる会議に出席されるなど、社会を動かす力になっている団体もたくさんあります。皆様のおかげで、漢方薬のようにじわじわ体質を改善する「組織基盤強化」の存在も認知されるようになってきました。現場の活動なしには私たちの取り組みもなかったと思います。3年間の取り組みで得た苦労や経験、気づきをタンポポの綿毛のように、ぜひ周りの皆様にも広げてください。

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パナソニック CSR・社会文化部
部長 福田里香

●アフリカ分野・環境分野の成果報告

【アフリカ分野】

ビジュアルツールを駆使し、欧米のコアな支援者を獲得

特定非営利活動法人 ダイヤモンド・フォー・ピース 代表理事 村上千恵さん

西アフリカのリベリアで、ダイヤモンド採掘労働者の搾取問題などに取り組んでいます。欧米の支援者を増やすために、2018年から3年間助成を受け、英国の行動変容専門家に伴走支援してもらいました。ダイヤモンドの課題が一目でわかるインフォグラフィックや、ビジョンが実現された状態を表すビジュアルを作成し、オンラインで英国や米国のジュエリーのイベントやカンファレンスにも参加・登壇しました。英語圏向けに4回開催したウェビナーにはのべ143人が参加し、寄付やボランティアの増加につながりました。さらに、紛争の資金源になっていないダイヤモンドの購入を促す「#Sourced with Loveキャンペーン」をSNSなどで展開し、最後に、広報啓発活動を定期的に振り返るロジックモデルと「アウトプット・アウトカム数値入力シート」を作成しました。組織基盤強化によって、ビジョン・ミッションに向けて考え、実行し、改善する文化が身につき、欧米のコアな支援者も少しずつ増えてきています。

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ダイヤモンド・フォー・ピース
代表理事 村上千恵さん

【環境分野】

組織のスリム化・プロジェクトの課題解決で更なる自然環境保全の促進へ

認定特定非営利活動法人 自然環境復元協会 理事・事務局長 河口秀樹さん

身近な自然環境の復元と自然体験を通した人の育成に取り組んでいます。応募当時、団体のビジョンについて意識することもなく、組織は肥大化していました。
そこで、3年間の組織基盤強化では、1年目と2年目にビジョンやミッションを再構築し、40人いた理事を8人まで減らし、小回りが利くスリムな組織に変化することができました。3年目では、都市の自然を守る「レンジャーズプロジェクト」の課題解決に取り組みました。運営費とリーダー人材が不足しており、業務を見直す時間もなく、登録者は増えているのに活動回数が減少し、参加の機会を提供できていない状況でした。そこで、当協会の環境再生医からリーダー登用を目指し、外部の専門家と共に企業から協賛金を獲得するための戦略を練り、48項目の業務の簡素化・削減を図りました。その結果、リーダーが増え、企業から寄付をいただけるようになり、業務時間も19.68%削減できました。「レンジャーズプロジェクト」の活動回数・活動場所を増やす余裕も生まれ、経営面・組織面・事業面で助成前より格段に基盤が強化されました。

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自然環境復元協会
理事・事務局長 河口秀樹さん

成果の発信で全国組織を増やし、収入も倍増

特定非営利活動法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会 事務局長 上垣喜寛さん

小さな林業者を全国で育成しようと2014年に設立し、2,000人以上の自伐型林業者を育てる仕組みを作ってきました。全国の地域推進組織を発展させるために3年間の助成を受けました。1年目は組織診断で課題を整理後、合宿をしてビジョン・ミッションを再構築。2・3年目はクラウドファンディングやYouTubeチャンネルに挑戦しました。旬の情報を毎週配信し、登録者は2,460人に。年2回の会報誌は有料にして300部以上売り上げています。さらに、自伐型林業のモデル施業林を整備してデータベース化し、自伐型林業が3分でわかる映像や自治体の事例を紹介した映像をパッケージ化したところ、厚生労働省の林業就業支援事業に協力することになり、担い手の育成につながりました。自伐型林業推進の議連でも政策提言したところ、林野庁の資料で自伐型林業が取り上げられることになりました。
助成後、地域推進組織は30以上に増え、2017年に4,700万円だった収入は今年度1億1,100万円になる見込みで、目標以上の成果となりました。

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持続可能な環境共生林業を実現する
自伐型林業推進協会
事務局長 上垣喜寛さん

●選考委員によるアフリカ分野・環境分野の講評

【アフリカ分野】

東アジアへの横展開、若い世代への広がりにも期待

国際協力NGOセンター(JANIC)コーディネーター 松尾沢子さん

丁寧な計画・実践・修正を繰り返すことで成果を出したダイヤモンド・フォー・ピースの取り組みは、日本国内や東アジアの潜在的な支援者へのアプローチにも横展開していけそうですし、これからの社会や経済を担い、SDGsの実現に関わろうとしている若い世代にもメッセージを伝えてほしいと思いました。HPにもNPO/NGO向けのページをつくられており、今回の経験を、ぜひ他のNPO/NGOとも惜しみなく共有していただければと思います。

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国際NGOセンター(JANIC)
コーディネーター 松尾沢子さん

<アフリカ分野全体への講評>

アフリカ分野は直接的活動からアドボカシーへ

【アフリカ分野 選考委員長】
アフリカ日本協議会 国際保健部門ディレクター / SDGs市民社会ネットワーク 稲場雅紀さん

日本のNPO/NGOには、アフリカ分野といえば現地での直接的な活動という固定観念がありますが、アフリカの問題はさまざまな経済的・社会的・政治的関係から生じたものです。今の時代に必要なのは方法論をしっかり発信し、科学的・客観的な改善策で最大限の効果を生み出すアドボカシー。そういう意味でも、ダイヤモンド・フォー・ピースの取り組みは革新的でしたし、サポートファンドだからこそできた助成なのだと思います。

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アフリカ日本協議会 国際保健部門ディレクター / SDGs市民社会ネットワーク
稲場雅紀さん

【環境分野】

老舗団体が陥りやすい罠から脱却し、団体を復元

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授 粉川一郎さん

自然環境復元協会は、長く続けてきたNPOが陥りやすい組織の罠にきれいに落ち込み、自らアクションしようとするボランティアの意欲をそぐ危機的な状況にありました。環境再生医の合意を取るのに苦労されたようですが、リーダーとして協力してくれる人に組織は何を与えられるか、参画のデザインを考えるいい機会になったと思います。リーダーが増え、お金の目処もつき、団体が復元して、来年度以降の飛躍が楽しみな団体です。

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武蔵大学 社会学部 メディア社会学科
教授 粉川一郎さん

巧みなPRと政策提言で、自然環境と地域社会に光

ホールアース研究所 代表理事 山崎宏さん

自伐型林業推進協会は各種メディアを活用し、国民に上手に活動をPRしました。また、政策・制度の変革に向けたアプローチにも積極的で、他のNPO/NGOの参考になると思います。組織基盤強化は組織の拡大だけを意味するのではなく、全国で奮闘する地域推進組織の能力や役割、成果をどう伸ばしていくかが重要なポイントでした。農山村の人口減少と産業基盤の弱体化がすごい勢いで進み、大きな壁に直面している自然環境と地域社会に一筋の光を与えてくれました。

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ホールアース研究所
代表理事 山崎宏さん

<環境分野全体への講評>

想定外の今こそ、活動を止めてはならない

【環境分野 選考委員長】
ホールアース研究所 山崎宏さん

新型コロナの影響で、環境分野の団体の多くが活動の停滞を余儀なくされています。停滞は雇用の継続に直結し、ミッションやビジョンの再構築に迫られている団体もたくさんあるようです。その一方で、自然の側から見れば、これまでがずっと人間による禍(災い)の時代だったのかもしれません。想定外の事態が発生した時こそ、柳のようにしなやかに圧力をかわし、活動を止めない団体でありたいと思います。今こそ、組織基盤強化の意義を仲間の団体に伝えていきましょう。

●子ども分野の成果報告

Webを活用し、LGBTコミュニティのファンドレイジングを強化

認定特定非営利活動法人 ReBit 代表理事 藥師実芳さん

2009年に学生団体として設立し、学校でのLGBTの普及啓発や約3,500人のLGBTの就活生支援などをしてきました。オリンピック憲章に性的指向への差別禁止が明文化されたことを機に、課題をレイズして寄付につなげ、LGBTコミュニティのファンドレイジング基盤を築こうと応募しました。
1年目は継続寄付制度をスタートさせ、1,100万円以上が集まりました。2年目にWebで寄付を獲得する基盤をつくり、3年目から検証を始めました。メッセージに即したランディングページの作成などにより、寄付単価は目標を達成し、新規寄付者は2019年が67人、2020年には72人増加しました。培ったファンドレイジングのスキルは団体内に留めることなく、日本初のLGBTコミュニティセンター「プライドハウス東京」のファンドレイジングにも活かし助成金を獲得し、いただいた助成でコロナ禍で困窮するLGBTユースを支援できました。新規職員の採用も決まり、2020年度の収益も前年同様の6,000万円台で着地予定です。未曽有の事態のなか事業を実施し続けることができたのも、寄付の基盤が固まっていたおかげだと感謝しています。

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ReBit
代表理事 藥師実芳さん

絵本も使った情報共有で、コロナ危機を乗り切る

認定特定非営利活動法人 スマイルオブキッズ 事務局 谷畑育子さん

病気や障がいのある子どもと家族を支援し、家族の滞在施設運営やきょうだいの保育事業をしています。こどもホスピス設立に伴う新法人設立により理事長が交代し、新体制の構築に第三者の視点を採り入れたくて助成を受けました。1年目は組織診断を受け、事業と組織のひもづきを可視化した資料を作成。事務局を1人増員し、ボランティア任せの事業を引き継ぎました。2年目は情報共有のためのワークショップやボランティア会議を定期開催し、法人紹介動画の作成やマンスリーサポーター制度の新設にも取り組みました。
3年目は中長期方針を策定するために関係者の声を集め、絵本の形にして共有していく予定です。助成のおかげで、コロナ禍にあってもオンラインによる情報共有がスムーズにいきました。事業収入は減りましたが、寄付やボランティア希望者は増え、クラウドファンディングの準備も進んでいます。助成がなければ、この危機を乗り越えられなかったと思います。

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スマイルオブキッズ
事務局 谷畑育子さん

ビジョンが明確になり、寺子屋のボランティアも活発化

特定非営利活動法人 寺子屋プロジェクト 代表理事 荒木勇輝さん

京都を中心に、子どもと大人が学び合う寺子屋を運営し、全国で寺子屋を開設したい人を支援しています。人材と財務に課題を感じて応募しました。1年目は組織診断で課題を整理し、ボランティアもチームリーダーとして活躍できる体制を整え、中長期ビジョンをつくりました。2年目はファンドレイジングに取り組みましたが、寄付はまだ伸び悩んでいます。
3年目はコロナ対策として、対面プログラムをオンライン化しました。さらに寺子屋開設に関心がある人のオンライン懇親会を開催し、プラットフォームづくりを進めています。助成によって組織のビジョンが明確になり、助成前は1人だった職員も2人以上が常態化し、ボランティアスタッフも活発に動いてくれています。昨年も何とか黒字にはなりましたが、社会貢献度が高い事業を強化することで、さらに寄付を増やしていく方針で、テーマ別に活動を応援するマンスリーサポーター制度の導入を検討しています。

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寺子屋プロジェクト
代表理事 荒木勇輝さん

●選考委員による子ども分野の講評

寄付者=共感者を増やすことは社会変革の大きな要素

エファジャパン 事務局長 関尚士さん

ReBitは自組織の強みを押さえ、実効性のある具体策を立案したのがすばらしかった。オンライン中心のファンドレイジングはコロナ禍の今、ベストタイミングでした。この状況下でも寄付比率が向上していることは注目に値します。寄付者が増えるということは共感者が増えるということ。社会を変革するための大きな要素です。ファンドレイジングの経験と知見を組織資源とし、ネットワーク団体にも提供し、子ども分野を底上げする役割を担ってください。

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エファジャパン
事務局長 関尚士さん

中長期方針を可視化した絵本、広報ツールとしても期待

子どもの権利条約ネットワーク 事務局長/浦和大学 准教授 林大介さん

スマイルオブキッズは内向きの組織改革に力を入れた一方で、外部にどう広げていくかもしっかり意識した取り組みでした。中長期方針を策定するにあたって、絵本という形で言語化・可視化したのはスマイルオブキッズらしいスタイルだったと思います。絵本が、中長期方針の説明のみならず、活動に参加してみたい人や支援したい人に向けた広報ツールとなり、多くの仲間を獲得することが今後の組織基盤強化につながっていくことを期待しています。

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子どもの権利条約ネットワーク 事務局長/浦和大学
准教授 林大介さん

理想の社会像を明確にし、支援者をさらに増やす

子どもと文化全国フォーラム 代表理事/子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事 森本真也子さん

新しい方が参加し、次の担い手が見えてきたという寺子屋プロジェクトの成果を聞いて、うれしく思いました。「子どもも大人も学習者である場」があれば町がどれだけ素敵になるのか、地域にいくつくらいあることが理想なのか、社会像を明確にするといいかもしれません。子どもにとっての遊びは学びでもあり、生きることにもつながっています。そういったイメージをもっとはっきりさせることで、さらに寄付が増え、地域の企業や行政も応援してくれる気がします。

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子どもと文化全国フォーラム 代表理事/
子ども文化地域コーディネーター協会
専務理事 森本真也子さん

<子ども分野全体への講評>

コロナ禍の今、心の距離を縮める新たな手法を見つけたい

【子ども分野 選考委員長】
子どもと文化全国フォーラム/子ども文化地域コーディネーター協会 森本真也子さん

コロナ禍の丸1年が過ぎ、子どもたちの心はズタズタです。子どもと女性の自殺も増えています。オンラインではつながれても、リアルで会わないと伝わらないこともあります。社会的距離は取っても、心の距離まで取ってしまったら子どもたちは育ちません。子どもの世界での活動が今、試されているのだと思います。一人の子どもの姿から、私たちは今の社会を、世界を見ないといけません。それぞれの団体に、子どもたちと関わる新しい手法を見つけてほしいと思います。

●全体総評と修了書の贈呈

経験の蓄積がプログラムを成長させた

特定非営利活動法人 市民社会創造ファンド 理事長 山岡義典さん

3つの分野は全く別のコミュニティに見えますが、広報・ファンドレイジング・人材など、共通した課題がたくさんありました。NPOサポート ファンドは、セミナーやフォーラムを通して助成を受けた団体の経験を聞く機会を設け、その経験の蓄積が新たに助成を受けた団体の活動につながって、成長してきたプログラムです。これまでに蓄積された経験は次の新たなプログラムでも大きな意味をもつと思います。組織基盤強化はじわじわ効いてくるものです。
5年後、10年後の皆さんの活躍に期待しています。

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市民社会創造ファンド
理事長 山岡義典さん

続いて、3年間の助成を終えた6団体の皆様に、NPOサポート ファンドの修了書を贈呈しました。すでに各団体の皆様のお手元にお送りしている修了書の内容をパナソニックの福田部長が読み上げました。その後、助成団体と伴走してきたコンサルタントの皆様で、スクリーンショットによる記念撮影を行いました。
最後に2002年の設立以来、環境分野の協働事務局を務めてきた地球と未来の環境基金 古瀬理事長より閉会の挨拶がありました。

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修了書贈呈の様子

●閉会挨拶

社会が変革する今、NPOの組織基盤強化も新たな展開へ

特定非営利活動法人 地球と未来の環境基金 理事長 古瀬繁範さん

休眠預金を民間公益活動に活用する国の事業が、2018年にスタートしました。その中に、組織基盤強化や伴走支援が明確に位置づけられています。これは本助成の取り組みが社会化された大きな成果だと思います。資本主義の在り方が問われ、社会は大きな変革のタイミングを迎えています。政府も、温室効果ガス排出量実質ゼロを打ち出しました。そうした時期においては、自分たちが取り組む社会的テーマや立ち位置を考えることがNPOの組織基盤強化を考える上で、重要な視点になっていくのではないでしょうか。

今日の成果報告会は、いずれも3年間の助成を受けて組織基盤強化に取り組まれた団体です。今後も、組織基盤強化フォーラムやセミナーなどの機会を通じて、取り組みの成果や効果を皆様にご紹介してまいります。

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地球と未来の環境基金
理事長 古瀬繁範さん
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参加者の皆様との記念写真