コロナ禍による大きな変化にも対応できる組織について考える

Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs 海外助成 成果報告会

2021年2月25日、Microsoft Teams(オンライン)で「Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs」海外助成の成果報告会を開催しました。成果報告会には、「組織診断からはじめるコース」を終えた9団体と「組織基盤強化コース」を終えた3団体の皆様を始め、選考委員、事務局など、47人の方々にご参加いただきました。12団体による成果発表のあとには、選考委員による講評や参加者との質疑応答の機会も設けられ、コロナ禍による変化にも対応できる組織づくりについて考え、共有する貴重な時間をもつことができました。

●開会挨拶

現場の皆様と共に、社会課題の解決に取り組む

パナソニック CSR・社会文化部 部長 福田里香

パナソニックは事業を通じて人々のくらしの向上と社会の発展に貢献すると共に、企業市民活動を通して社会課題の解決に取り組んできました。新型コロナに関しましても、休校中の子どもたちにオンライン学習プログラムを提供したり、マスクの生産・寄付、ワクチンや治療薬の開発支援などのほか、従業員による募金キャンペーンも行い、会社がマッチングして4,000万円を医療分野や子ども・社会福祉分野に取り組む3団体に寄付いたしました。これからも、現場で活動される皆様とパートナーシップを結んで、活動を進めてまいりたいと思います。

●第1部 「組織診断からはじめるコース」成果報告

設立から40年、課題解決のスケジュールまで明確化

認定特定非営利活動法人 ESAアジア教育支援の会 理事長 内田智子さん

バングラデシュとインドの子どもたちの教育環境づくりに取り組んでいます。会員数と会費の減少に課題を感じて組織診断を実施しました。その結果、設立から40年経ち、ゴールが不明瞭になった教育支援事業を見直し、中長期計画を立てるために、現地調査を行うことになりました。事務局体制強化も必須で、スタッフを1名雇用しました。今後、財政基盤強化のために、ステークホルダー分析や会費制度の見直しも計画しています。課題を文章化し、解決のスケジューリングまで明確にできたのは大きな成果でした。

議論を重ねる重要性に気づき、団体らしさを再認識

認定特定非営利活動法人 国境なき子どもたち マネージングディレクター 大竹綾子さん

アジア・中東の子どもたちに教育を柱とした支援をしています。創設者の事務局長が退任し、組織内のベクトルを合わせたくて組織診断に取り組みました。チーム全体で課題を抽出し、中期計画に落とし込みました。横断的なチーム結成による日本の青少年向け事業の成果のまとめ、3C(共通目標・協働意欲・コミュニケーション)を採り入れた人事評価制度の導入、理事と評議員の役割の明確化などに取り組むことになりました。議論を重ねることの重要性に気づかされ、団体らしさを再認識できました。

私たちらしい価値に気づき、開けてきた視界

認定特定非営利活動法人 アクセス-共生社会をめざす地球市民の会 事務局長 野田沙良さん

フィリピンで、子どもの教育支援や女性の仕事づくり、日本の若者向けのスタディツアー等に取り組んでいます。2016年から続く赤字に課題を感じて組織診断を受けました。コンサルタントを交えた担当者会議、ボランティアや理事へのヒアリングを通して、団体の魅力やボランティアの持つ潜在力を再認識できました。ビジョン・ミッションを書き換え、それに沿った日本の新事業の開発やフェアトレード事業の改良を進めています。私たちらしい価値を再現できる事業を再構築すれば赤字は解消すると視界が開けてきました。

客観的データを分析し、活動の伝え方を探る

認定特定非営利活動法人 WE21ジャパン 代表理事 海田祐子さん

寄付された衣類をリサイクルショップで販売し、収益で海外支援をするNPOのネットワーク組織です。設立から20年経ってビジョン・ミッション・ゴールの認識が弱くなり、次世代への継承にも課題を感じていました。組織診断では、経営資源の棚卸をして寄付数などのデータを見える化し、活動を伝えるWebサイト改訂のためのグループ内アンケートを行いました。客観的データをもとに問題点を共有し、グループ内のメンバーが何を必要としているか把握することができました。この分析手法を今後も定着させていきたいと思います。

進むべき方向が見え、結束した力でピンチを乗り切る

認定特定非営利活動法人 日本ハビタット協会 事務局長 篠原大作さん

国連ハビタットの目指す持続可能なまちづくりの実現に向けケニアやラオスで居住環境改善に取り組んでいます。設立から20年近く経ち、まちづくりの要素が多様化し、団体の存在意義を見直すために組織診断を受けました。ミッション・ビジョン・バリューを再設定して専用Webページで公開し、協議を重ねて中長期計画を策定しました。コロナ禍で空港の募金箱への寄付は激減しましたが、使命や価値観を明文化し、進むべき方向が明確になったことで団体の結束が強まり、この力でピンチを乗り越えていけそうです。

方向性を定め、見えてきた国内・海外事業の連携可能性

認定特定非営利活動法人 国際子ども権利センター(C-Rights/シーライツ) 事務局長 奥山桂子さん

カンボジアと日本で子どもの権利普及の活動をしています。国内の活動充実にあたり、安定収入・マンパワー・事業のPDCAに課題を感じて組織診断を受けました。海外事業の成果と課題を整理し、ワークショップで今後の展望を共有したことで、子どもの声を聞き、社会を変革することが事業の目指すべき方向性だと確認できました。そこから、国内事業との連携可能性を含む海外事業中期計画とPDMを作成できたことが大きな成果です。膨らむ事業をどう絞り込んで成果を出すか、多くの力を借りて制御できたことに感謝しています。

課題を構造まで深掘りし、組織改革のきっかけに

認定特定非営利活動法人 アジアキリスト教教育基金 事務局長 小田哲郎さん

バングラデシュで初等教育の学校や職業訓練校を支援しています。設立から30年経ち、会員の高齢化による収入減少で活動が縮小し、組織診断を受けました。組織課題の構造まで考えて変化を生み出す「システム思考」を使ったワークショップで、過去を振り返って改善点を話し合い、五つの提言にまとめました。問題を深掘りしたことで組織が変わるきっかけになりました。今、理事会の世代交代を進めています。コロナ禍で現地の学校は1年近く閉鎖されています。2年目の助成では、事業の目標見直しや中期計画の策定に取り組みます。

お金だけじゃない、成長のための改善策に気づけた

特定非営利活動法人 Accept International 代表理事 永井陽右さん

ソマリアでテロと紛争の解決に取り組んでいます。4月からはイエメンでも活動します。資金調達や専門性の高い人材の不足、事業計画に課題を感じて組織診断を受けました。コンサルタントを交えたワークショップで、ボランティアマネジメントの確立、会議体系の整備、ファンドレイジング基盤の強化という改善策が挙がりました。ビジョン・ミッションを具体性の伴うものにし、ステークホルダーを整理し、根幹事業のロジックモデルを共有しました。お金の問題解決だけでなく、あらゆる策を打つことで組織が成長することを学びました。

強い組織をつくるための経験、新団体に活かす

認定特定非営利活動法人 地球市民ACTかながわ/TPAK 事務局長 伊吾田善行さん

タイとミャンマーで少数民族の子どもの教育支援をしています。世代交代にあたり、時代に合った組織を再構築したくて組織診断を受けました。診断結果を共有し、将来像会議を開きました。ミッション・ビジョン・バリューを見直し、中長期計画策定に向けた協議をしました。専門家の客観的な視点によって、組織の強みや弱みがわかりましたが、方向性の違いから今年3月に法人格を返上し任意団体として今後の活動を継続することを決定。私は事業継承のために、新しい団体を設立することになりました。今後、強い組織をつくっていく上で非常にいい経験ができました。

●選考委員による講評

特定非営利活動法人 横浜NGOネットワーク エクゼクティブ・プロデューサー 選考委員 小俣典之さん

困難の中でも、光に導かれた組織診断に立ち返る

ESAアジア教育支援の会は、活動歴の長い団体が改めて組織を見直す重要性を思い出させてくれました。成果報告書の「明るい光に導かれるような思いで組織診断を終えた」という言葉が印象的でした。お金と財務と人材という難しい課題に取り組む中で光が見えなくなったら、再度診断に立ち返り、将来を見据えた活動を続けてください。

数値の蓄積を飛び越えたイノベーションに期待

WE21ジャパンはネットワークの中間支援というユニークな活動で、地元でも力をもつ団体です。今までの活動で積み重ねた膨大なデータを数値化して共有し、今後に活かしていくのだと思います。と同時に、数値を飛び越えたイノベーションが起き、若者ショップみたいなものが将来出てくるのではないかと大いに期待しています。

国際協力分野の知見、国内のまちづくりへと展開

日本ハビタット協会は、結束が強まったことと将来の方向性が明確になったことが大きな成果でした。国際協力分野ではすでに大きな知見をもっていますが、国内のまちづくりでも福祉や環境など新たな専門性を獲得して、トータルコーディネーターになることを目標にしているのは、素晴らしいことだと思います。

新団体でも大事にしたい組織診断のプロセス

地球市民ACTかながわは、コロナ禍で団体が解散するという想定外の結果になりましたが、組織診断のプロセスは事業を継承していく中で大いに役立つと思います。活動のエッセンスや進むべき方向性を確認したからこそ、新団体設立という形になったのでしょう。そこを大事にして、今後も神奈川のリーダー的団体として活動を展開してください。

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選考委員 小俣典之さん

認定特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン 事務局長 選考委員 米良彰子さん

コロナ禍でも焦らず、プロアクティブに関わる組織に

国境なき子どもたちは、コロナ禍でどうしようと焦る団体も多い中、基盤の改善に軸をそろえ、理事も職員も巻き込んで、組織とプロアクティブな関わりをもつようにしていけたところがよかったと思います。中期計画やミッション・ビジョン・バリューを体現できる形に落とし込み、モチベーションが上がるような人事研修を進めていってください。

アクセスらしさというぶれない軸を今後の指針に

アクセスは、コロナ禍で財政的な危機感を感じて新しい戦略を話し合い、団体らしさとは何かを再認識できたことと、ステークホルダーと話すことで新たな気づきを得られた点がよかったと思います。これから安定した収入構造をどうつくっていくか決める時も、アクセスらしさというぶれない軸を指針にしてください。

どんどん出てくるやりたいことの選択と集中がカギ

国際子ども権利センターは、長い間取り組んできた子どもアドボカシーをビジョンとどうくっつけるかと、どんどん出てくるやりたいことの選択と集中がカギになってくると思います。抽出した課題をこれからアクションに落とし込み、国内で活発化している子どものセーフガーディングの勉強会でも本領を発揮してください。

組織の成長過程に合わせ、引き算することも大切

アジアキリスト教教育基金は何を手放すか、つまり盛っていくだけでなく引き算することの大切さに気づけたのが素晴らしかった。組織の成長過程で必要なものは変わってきます。理事の改革も非常に重要なことです。コロナ禍で現地の活動が止まっている今こそ、立ち止まって軌道修正することが求められているのだと思います。

ファンドレイジングでも巻き込み力の発揮に期待

Accept Internationalは回を重ねるごとに申請書類も上達し、組織運営の面でも力をつけてきました。勢いと人を巻き込む力もあります。これまではコアなメンバーが引っ張ってきたのだと思いますが、ファンドレイジングでも得意のイベントで巻き込み力を発揮し、組織を柔軟につくり上げていけば、より強い組織になるでしょう。

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選考委員 米良彰子さん

●第2部 「組織基盤強化コース」成果報告

オンラインでの資金調達を整備し、新事業も検討

認定特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 理事 山口誠史さん

カンボジア、東ティモール、日本で住民自身による健康づくりや人材育成を支援しています。公的資金の比率が高く独自の事業ができないなどの課題に対して、自己資金拡大のために助成を受けました。医療機関や企業への働きかけやオンラインでのセミナー等を通して支援を依頼し、医療機関・医療者から154件の支援がありました。また、ファンドレイジングの意識を向上する役職員向けワークショップを開き、6人が准認定ファンドレイザーの資格を取得しました。オンラインという新たなツールを使って若者にもアプローチし、新活動地での事業も検討したいと思っています。

戦略面・組織面を強化し、冷静な判断と選択が可能に

認定特定非営利活動法人 ACE 事務局長 白木朋子さん

インドとガーナと日本で児童労働問題に取り組んでいます。児童労働をなくすというSDGs8.7の達成のために戦略面・組織面を強化したくて応募しました。カカオ産業のセオリーオブチェンジと望ましいストーリーをつくり、コットン産業・日本の子どもの権利でも展開できるようにしました。スタッフ個人の能力を強化する研修によって自信と意欲が湧き、研修も内製化できるようになりました。さらに2032年までのシナリオを描いたことで、コロナ禍でも外部環境を観察し、団体の価値観をもとに冷静な判断と選択ができるようになりました。

ビジョンシートとSNSで市民とのネットワークを強化

特定非営利活動法人 イカオ・アコ 理事長 後藤順久さん

名古屋を拠点に、フィリピンで環境問題に取り組んでいます。市民や会員とのネットワーク強化と国際ファンド獲得のために応募しました。それにより、基盤を強化するためのスタッフを一人増員できました。
会員サポートシステムを構築し、メルマガと連動させることにしました。中期ビジョンを策定し、市民向けのビジョンシート(A4両面)をつくり、興味をもって見てもらえるように、山折り・谷折りをすればポケットサイズになる仕掛けをしました。国内NPOとの連携や企業の海外研修を受け入れる基盤づくりにも取り組み、国際ファンドの公募に挑戦しました。

●質疑応答

全団体の発表の後、参加者からの質問に発表団体が答える質疑応答の時間を設けました。「役職員向けのワークショップで何を議論したか」という質問に、シェアの山口さんは、「他の医療系NGOとの違いや5年後のシェアの姿を議論しました。そして医療者にもっと知られる存在になり、参加者が誇りをもてる組織にしたいとの共通認識をもちました。どういうアクションを取るべきかもグループワークで話し合いました。ワークショップを通じて、自分たちが何者で、何を目指すべきか確認できました」と回答しました。

●「組織基盤強化コース」講評

必死さから生まれた確信が支援の輪を広げた

特定非営利活動法人 横浜NGOネットワーク エクゼクティブ・プロデューサー 小俣典之さん

シェアは、コロナ禍でも必死に取り組んだからこそ、理念や実績を社会にアピールすることが支援の輪を広げると確信できたのだと思います。コロナ禍にもかかわらず、6人がファンドレイジングの資格を取り、医療関係の支持者を増やせたことに敬意を表します。これからも若者を巻き込み、医療系NGOのリーダーとして進んでいってください。

変化に素早く対応する強靭でしなやかな組織に成長

認定特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン 事務局長 米良彰子さん

ACEは基盤を強化したことで、事務所を完全リモート体制に切り替えるなど、変化を読み取って素早く対応できる強靭でしなやかな組織に成長しました。SDGs8.7を掲げつつ、さまざまなステークホルダーを巻き込んだり、専門家を巻き込んで体制を整えたりといったプッシュ・アンド・プルも素晴らしかった。一人ひとりが行動できるティール組織を目指しているところなど、私自身も学びたいと思いました。

海外の経験を国内の課題に活かすシナジーにも期待

NGO・外務省定期協議会 連携推進委員会/ソーシャルコンサルタンツ 代表 井川定一さん

イカオ・アコは、コロナ禍で時代が変化する中、中期計画をアップデートできたことと国際的な資金調達に取り組めた点がよかったと思います。国際NGOの多くが海外と国内の事業に取り組む今、フィリピンの経験を日本の地域課題解決にも活かすといったシナジーが求められています。まさに時代が求めている組織であることを実感しました。

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選考委員 井川定一さん

●選考委員長による全体講評

ミッションを導きの星として柔軟な強靭性を涵養する

国士舘大学大学院 グローバルアジア研究科 教授 中山雅之さん

みなさんが申請されました2019年はG20やC20が日本で開催され、また外務省はNGOが実施するODA事業の管理費割合を15%に引き上げ、NGOにスポットライトが当たった年でした。36の応募から審査を経て選ばれた12の団体による今日のご発表は、役員と支援者の高齢化、人手不足、安定資金の確保など、どの団体にも共通した課題であり、有意味な共有がなされたと思います。そして直面する大きな環境変化にも対応する強い組織は、硬い組織ではありません。導きの星である組織のミッションを今一度見つめ直し、柔軟な強靭性を涵養することが真に強い組織を創り出します。

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選考委員長 中山雅之さん

●閉会挨拶

創成期から成長期、成長期から成熟期へ促す基盤強化

認定特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター(JANIC) 事務局長 若林秀樹さん

コロナ禍は世界の社会経済に大打撃を与え、国連開発計画(UNDP)が毎年発表している人間開発指数は、2020年、統計を開始して以来初めて悪化する見通しです。日本のNGOにとっても、現地に行けない中で活動を模索し、在り方が問われる1年でした。発表団体の中には解散を決断したところもありましたが、団体には寿命があり、新しい組織に生まれ変わることも基盤強化の一つの流れです。創成期から成長期へ、成長期から成熟期へ行けずに苦しんでいる団体こそ、組織基盤強化を活用してほしいと思います。

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閉会挨拶の様子