Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs 海外助成 成果報告会

混迷を極める世界情勢の中、国際支援に取り組む10団体が成果を発表

2022年2月25日、オンライン(Zoom)で「Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs」海外助成の成果報告会を開催しました。成果報告会には、2020年募集の「組織診断からはじめるコース」に取り組んだ5団体と「組織基盤強化コース」に取り組んだ5団体の皆様や選考委員、事務局、今年事業に取り組んでいる団体の皆様など、45人の方々がご参加くださいました。10団体による成果発表の後には、質疑応答や選考委員からの講評の時間を設け、コロナ禍で活動が制限される中でのNPO/NGOの役割や組織基盤の強化について、知見や議論を深めました。

●開会挨拶

多様なステークホルダーと取り組む社会課題の解決と新しい社会活動の創造

パナソニック株式会社 企業市民活動推進部 部長 福田里香

104年前に創業したパナソニックは、事業を通じて人々の暮らしの向上と社会の発展に貢献すると同時に、企業市民活動にも取り組んできました。SDGsの1番目に掲げられ、各項目とも関係の深い「貧困の解消」を柱に、人材育成(学び支援)・機会創出・相互理解という3つの切り口をベースとし、環境保全や災害支援も含めた活動を行っています。今後も、さまざまなステークホルダーの皆様の多様な視点から気づきをいただきながら、社会課題の解決と新しい社会活動の創造に取り組んでいきたいと考えています。

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福田里香

●第1部 【組織診断からはじめるコース】成果報告

設立から20年、脆弱な組織基盤を立て直す

特定非営利活動法人 ルワンダの教育を考える会 事務局スタッフ 望月優子さん

ルワンダで教育支援事業に取り組み、日本では平和や命の大切さを伝える講演活動をしています。ルワンダは理事長の祖国で、必要な人脈はありましたが、20年の歴史がありながら、日本の組織基盤は脆弱でした。2021年2~6月まで、外部コンサルタントと7回のワークショップを開き、現状把握や財務基盤の見直し、ビジョンやネクストアクションの策定に取り組みました。さらに、月に1度の事務局会議で対話を重ねた結果、誰もが発言しながら、共に問題の洗い出しができるようになりました。今回の学びを、新体制を整える材料として活かしていきます。

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望月優子さん

思いや課題、強みを共有し、中期経営計画を作成

公益財団法人 CIESF 宇野遥さん

2008年の設立以来、カンボジアを始めとした開発途上国でソフトウェアの支援をしています。数年前から事業が拡大し、ビジョンと課題が共有できていないことが悩みでした。助成事業では、コンサルタントのコーチングで8回の個人ワークとディスカッションを実施。組織課題を明確にし、それを強みに変えるアクションに落とし込んだ10年の中期経営計画を作成しました。今後は、この計画に沿ったPDCAサイクルを回すことで、理念浸透や資金調達の進捗を共有していきます。スタッフの思いや課題を共有し、団体の強みを知ったことで前向きなマインドになれました。

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宇野遥さん

NPO法人となり、新たな組織体制をつくる

特定非営利活動法人 Piece of Syria 理事長 中野貴行さん

2016年に任意団体として発足し、シリア北部・トルコ南部への教育支援、日本国内での平和教育活動をしています。シリアの戦争が膠着し、シリア関連への支援が減少する一方で、現地のニーズは増えていました。コロナ禍で進んだオンライン化を会議・イベントに活かして団体への支援は増えていましたが、プロボノスタッフが主体となる団体のため、その状況に対応できる組織体制づくりが必要でした。コンサルタントの伴走のおかげで、NPO法人化を円滑に実現でき、定例会議・合宿で組織課題が明確になりました。また、組織図作成、役割分担を進めていくことで、世界各国からプロボノが参加しやすくなりました。

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中野貴行さん

認識ギャップを明確化し、コミュニケーションが活性化

認定特定非営利活動法人 地球市民の会 事務局次長 藤瀬伸恵さん

1983年に佐賀県で設立し、タイやスリランカ、ミャンマーで国際協力事業に取り組んできました。2003年にカリスマ創業者が亡くなって、会員は減少。理事会・現場・事務局の齟齬も発生しました。そこで外部コンサルタントと組織診断を進め、理事会・現場・事務局の認識ギャップを明確化。3つのタスクフォースチームを結成し、新規事業開発や評価体制の仕組みをつくりました。その結果、3人の新理事が誕生し、組織内のコミュニケーションも活性化して、一体感をもってファンドレイジングに取り組むことができ、ミャンマー事業だけで寄付額が倍以上に増えました。

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藤瀬伸恵さん

●質疑応答

【組織診断からはじめるコース】5団体の発表後、参加者の質問に発表団体が答える質疑応答の時間が設けられました。「団体と距離ができた方の理由を聞くことは難しい。どのようにしたのか」との質問に、エファジャパンの関さんは、「ステークホルダーの中でも団体と思いを共有・今もつながりある方々にしている方に、離れていった人たちからやめていった方々から聞いていたことや、私たちに足りなかったと思われる要素を話していただいて聞いて、それを真摯に受け止めていく作業をしました」と回答しました。

●「組織診断からはじめるコース」講評

認定特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン 事務局長 米良彰子さん

事務局基盤の脆弱さへの気づきから始まった組織改革

昨今のウクライナの情勢を考えると、ルワンダの教育を考える会の平和や命の大切さを伝える活動が、多くの方にとって切実なものになってきているのを感じます。報告書で「20年の歴史がありながら事務局基盤がなかった」という言葉には衝撃を受けました。課題はたくさん見つかりましたが、理事も入れ替わり、スッキリ感さえ覚えました。これからも組織を改革しながら運営を回し続けてください。

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選考委員 米良彰子さん

掘り起こした歴史を緻密な中長期計画に反映

エファジャパンは、設立からの歴史を掘り起こし、いろいろな活動をエビデンスベースで振り返れるようになったことが団体の強みだと思います。20年の歴史を踏まえた上で、次の段階に向けてやりたいことがある。そんな思いが、新しいロゴからも感じられました。わくわくするような緻密な中長期計画を海外の事務所とも共有できれば、強い組織になると感じました。

特定非営利活動法人 横浜NGOネットワーク エグゼクティブ・プロデューサー 小俣典之さん

前向きなマインドで中期経営計画も柔軟に修正

CIESFは伴走者から、自分たちの弱みである個人の寄付に注目するのではなく、強みである企業へのアプローチを強化するよう勧められ、前向きなマインドを手に入れたところがすばらしいと思います。10年の中期経営計画を立てましたが、今は社会の変化も大きいので、3年で使いものにならなくなっても、今回の経験を活かして計画を立て直す柔軟性をもっていれば、前向きなマインドが活かせると思います。

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選考委員 小俣典之さん

強力な協力者を得て法人化、これからの活躍に期待

Piece of Syriaは法人格もない団体で、助成はまだ早いのではという議論もありましたが、シリアの問題を社会にアピールする力を急いでつける必要があると判断しました。その期待通り、強力な外部協力者と出会い、予定通りに法人化し、成果を出しました。やりたいことがいっぱい詰まった熱い発表でしたが、今スタートラインについたばかり。これからの活躍を期待しています。

NGO・外務省定期協議会 連携推進委員会 NGO側 調査提言員
ソーシャルコンサルタンツ 代表 井川定一さん

イノベーション生む、法人内でのホールディングス化に注目

地球市民の会の報告を聞いて、外部専門家の丁寧なフォローのもと、理事や職員の方々が多くの関係者の熱い思いを集め、組織基盤強化に優先的に取り組んだことがわかりました。組織においては、責任と権限を一致させて文書化し、共通認識をもつことが納得感につながると思います。イノベーションが生まれにくい日本のNGOの中で、地球市民の会が目指す法人内でのホールディングス化はパイオニアになると思うので、今後の展開が楽しみです。

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選考委員 井川定一さん

●第2部 【組織基盤強化コース】成果報告

カンボジア人職員の意識が変わり、現地で資金調達

認定特定非営利活動法人 幼い難民を考える会 事務局長 片山美紀さん

1980年の設立以来、カンボジアの農村部で村の幼稚園を開設し、自主運営を支援しています。支援者の高齢化により、日本だけでの資金調達が難しくなり、現地で調達を進めることにしました。カンボジア人コンサルタントにプノンペン事務所職員4人の研修を依頼し、活動関係者にヒアリングを行い、5カ年の事業計画と必要な予算をまとめました。さらに、週に1度は情報を発信。支援者を集めるために、自分の言葉で活動を伝えるうちに、現地職員の意識が変わり、新しい幼稚園の資金も確保できました。カンボジア人の次期プノンペン事務所長の育成も予定しています。

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片山美紀さん

多言語の情報発信を強化し、海外での資金調達の基盤を築く

認定特定非営利活動法人 テラ・ルネッサンス 啓発事業部 オンラインマーケティング担当 島彰宏さん

コンゴ民主共和国・ウガンダ・ブルンジ・ラオス・カンボジアで、地雷・小型武器・子ども兵などの紛争にまつわる課題に取り組んでいます。コロナ禍や日本の経済的状況を踏まえ、多様な資金経路の構築のため、米国と台湾で資金調達をすることにしました。英語と中国語のウェブサイトを改善し、SNSでの発信を強化。台湾では、オンライン講演会や団体公式キャラクターの公募を通じて認知度を高め、米国ではクラウドファンディングを展開しました。寄付を募る基盤はつくれたので、今後は台湾での現地法人設立を視野に、グローバルNGO化を目指していきたいと思います。

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島彰宏さん

ボランティアマネジメントの観点から組織体系を設計

特定非営利活動法人 Accept International 事務局職員 杉本優香さん

ソマリアやイエメンなどの紛争地や周辺地域の加害者とされる人や、日本社会に居場所がない人の支援に取り組んでいます。インターン・プロボノが多く、入れ替わりが激しくて、モチベーションの維持が難しかったことから、2020年と21年に助成を受けました。コンサルタントに入ってもらい、ボランティアマネジメントの課題を洗い出し、インターン・プロボノを含んだ会議体系の設計をしました。その結果、組織全体の意思疎通がしやすくなり、任期を全うするインターン・プロボノ率が上昇しました。また、既存の寄付者のペルソナ像を考え、ファンドレイジング戦略にウェブ施策を導入したところ、SNSからの自然流入による寄付が増加しました。そして2021年には、国連の経済社会理事会より諮問資格を取得しました。

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杉本優香さん

共感をキーワードに、オンラインで新規支援者を獲得

認定特定非営利活動法人 AMDA社会開発機構 海外事業運営本部 連携推進チーム長 山上正道さん

アジア・アフリカ・中南米で保健・水と衛生・生計向上・農業・青少年育成など、SDGs達成に向けたプロジェクトを展開しています。支援者は年齢層や地域に偏りがあり、オンラインでの新たな支援者獲得が課題でした。そこでコンサルタントに入ってもらい、ウェブを通じた情報発信の課題を分析。年間寄付キャンペーンの計画を立て、夏と冬のチラシやウェブサイト、SNSなどの広報を展開しました。共感をキーワードに、1年目はアニメーション、2年目は手描き風イラストを導入したところ好評で、リスティング広告との相乗効果で、ウェブサイト閲覧数は3年で倍以上に伸び、マンスリーサポーターも増加。広報・ファンドレイジングのPDCAサイクルを回したことで、継続的な組織強化を図れるようになりました。

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山上正道さん

●質疑応答

【組織基盤強化コース】5団体の発表後、質疑応答の時間が設けられました。「英語と中国語でどのような成果報告をしていたか」という質問に、テラ・ルネッサンスの島さんは、「日本国内で出している広報の転用をベースとしながら、米国ではクラウドファンディングサイトの中で支援者にメッセージを送り、台湾では個別にメールで対応していました」と回答しました。

●「組織基盤強化コース」講評

NGO・外務省定期協議会 連携推進委員会 NGO側 調査提言員 ソーシャルコンサルタンツ 代表 井川定一さん

世界の潮流でもある「現地化」は多くの団体の参考に

幼い難民を考える会は、2017年にカンボジアの人々が事業管理をする体制に変わり、今回、丁寧にコミュニケーションを取りながら資金面の移行を進めたことを、現地の方がポジティブにとらえているのが印象的でした。フェイスブックを見たら、日本よりカンボジアのほうが「いいね!」が多くて、大きな可能性を感じました。現地化は世界のNGOの潮流なので、多くの団体の参考になると思います。

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選考委員 井川定一さん

海外で賛同者を増やす、先駆的な取り組み

テラ・ルネッサンスの構想力と実行力はさすがだと思いました。社会構造が変化し、豊かな日本でお金を集めて貧しい国で使うNGOのモデルは崩れています。日本のNGO150団体の財務調査では、2割が実施国、1割が第3国やクラウドファンディングサイトで資金調達していました。テラ・ルネッサンスは、強みである伝える力を最大限活かし、海外で賛同者を増やすことに本気で取り組んでいるところが先駆的だと感じました。

特定非営利活動法人 横浜NGOネットワーク エグゼクティブ・プロデューサー 小俣典之さん

危機感を共有できた一方で、急がれる若者の確保

アジアキリスト教教育基金は、危機感を共有できた点はよかったと思います。一方で中期計画までは策定できず、皆さんの深い苦悩が感じられました。教会ベースで、チャリティーのような感覚で支援している方が多かったのかもしれませんが、信徒数の減少や若者離れもあり、急いで若者を確保する具体策を練り、ゴールを定める必要があると思います。速度感をもって頑張ってください。

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選考委員 小俣典之さん

アニメにイラスト、新しいメディアでの展開にも期待

AMDA社会開発機構は、アニメーションに続いて今回は手描き風イラストまで登場し、驚かされました。HPの閲覧数やオンライン決済も増えました。一定の規模がある、しっかりした団体だからこそできた今回の取り組みを地域のNGOにも、ぜひフィードバックしてください。今後も新しいメディアに挑戦し、さまざまな形で展開していくことを期待しています。

認定特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン 事務局長 米良彰子さん

アドバイザリーボードの活用で、より軸のある活動に

Accept Internationalは団体自体が若く、広報が上手だと感じました。組織体制の洗い出しができ、ありたい姿が明確になった点がポイントだと思います。NGOは事業が命なので、今後は事業にも注目し、ミッション・ビジョンとどうつながっているか、質をどう担保しながら事業を回していくか、アドバイザリーボードの皆さんと検討すれば、より軸のある活動になると思います。

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選考委員 米良彰子さん

●修了書贈呈

ここで、2019・2021年の2年にわたり組織基盤強化に取り組んできたAMDA社会開発機構に、パナソニック株式会社の福田部長より修了書を贈呈しました。

修了書贈呈の様子

●選考委員長による全体講評

組織成立の3要件と変革

国士舘大学大学院 グローバルアジア研究科 教授 中山雅之さん

組織の成立要件は、共通の目的(ミッション・ビジョン・バリュース)、貢献意欲(トータル・リワードから考える)、コミュニケーションです。これらそれぞれが組織基盤強化につながるものであり、みなさんが今回取り組まれたことです。そして組織の変革は、やや古典ですが、Lewinの3ステップやKotterの8プロセスに沿いながら行うのが正統です。これを進める際、組織のもつ経験や知識を深化させることは手が出やすい一方で、他組織、他業界までの知見を得ようとする探索は、成果が見えづらく、手間もコストも掛かるため怠りがちです。しかし、自分たちがやっていることを深化しながらも、世界をよく観て探索し、自分たちが今どこに立っているか見つめ直すと、進むべき方向が見えてきます。

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選考委員長 中山雅之さん

●閉会挨拶

伸び悩むNGO、今回の成果を次なる発展に活かす

特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター(JANIC) 事務局長 若林秀樹さん

5年ごとに行っているNGOデータブックの調査では、NGOの数は1990年代の10年間で160団体、2000年代には98団体、2010年代には40団体しか増えていないことがわかりました。高齢化で世代交代が進んでいないことや、国際協力に取り組むアクターが増えたことも一因で、これまでのやり方では難しい時代に入ったのだと思います。とはいえ、社会課題解決に向けたNGOのニーズは高まっています。政府や企業にはない強みを活かし、今回の成果を次なる発展に活かしてください。

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若林秀樹さん