——耐切創手袋って聞きなれないものですね。パナソニックグループが手袋を作るのも意外ですが、どのような製品ですか?
蒲田さん
耐切創手袋とは、主に工場などの仕事で使用される、手を切るケガ(切創)から手を保護する手袋です。ただ、「手を切ってしまう」ことは工作や料理など、日常生活でも起こるものです。私たちは耐切創手袋を広く知ってもらい、一般の人に日常生活で活用してもらいたいと考えました。
耐切創手袋に求められることは、基本的には「刃物から守るためのガードの強さ」と「作業しやすいしなやかさ」となります。その条件を満たすために、私たちは耐切創手袋に編み込む素材に「タングステン」という金属の繊維を使いました。 実はタングステンの活用は、パナソニックグループが長年のフィラメント(白熱電球の光る部分)加工で培った「タングステンを細く強くする技術」を活用検討する中で生まれた、という背景があるのです。私たちは「細くても強い」というタングステンの特長を活かして「しっかり手を守る。それに加えて生地が薄くて細かい作業もしやすい」というコンセプトで商品開発を進めました。
今回は学校でカッターや彫刻刀を使う時にも便利な、子ども向け(主に小学校中学年以上)の耐切創手袋(ストロングンテ)「デイリーユース 小さめシリーズ」についてご紹介します。子どもの切創事故をなくし、子どものチャレンジと親の安心を後押ししたい、という思いでさまざまな工夫を凝らしました。
◆第17回キッズデザイン賞(2023年度)
子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン部門
子ども部門 キッズデザイン協議会会長賞 受賞
受賞理由:昨今、刃物を使う教育の機会が減少している。物づくりに必要な道具として、カッターや彫刻刀は学校現場でも欠かせない存在である。自由な創造力を発揮できるよう、安全を担保しながら扱いやすく、子どもの手の発汗にも配慮がある、事故防止に寄与する製品である。
▼授賞式の様子はこちら
——耐切創手袋にはUDが具体的にどのように活かされていますか?
蒲田さん
2023年7月に発売した「デイリーユース 小さめシリーズ」は、これまでの「SS」サイズより小さい「SSS」サイズもラインアップし、子どもたちを含め、手の小さな人にもフィットできるようにデザインしています。小さめの手を刃物からしっかり守り、使いやすく、しかも使いたくなる製品とするための、次のような特長をお伝えします。
①タングステンを細く強くする技術で、「強さ」と「しなやかさ」を両立。
先ほどご説明したように、手袋にタングステン素材を編み込むことで、刃物などからの強いガード力と、作業しやすいしなやかさを実現しました。
タングステンは一般的なステンレス(SUS304)と比べると2倍以上強く※1 3倍以上硬い※2、という特長を持っています。それをパナソニックグループならではの「タングステン細線化技術」により、髪の毛のおよそ1/4※3の細さに加工し金属繊維として手袋に編み込むことに成功。しっかりとしたガード力を持ちながら、繊維の細さによるしなやかさで手になじみ、細かい作業もしやすい手袋となっています。
※1引張強度の比較 ※2ビッカース硬度での当社比較結果(線径20μm時) ※3タングステンの直径:20μm
また、「手袋の切れにくさ」を表すものとして、「耐切創レベル」というものがあります。 耐切創レベルは弱い方から順にA~Fまでの6段階あるのですが、当社の耐切創手袋は薄くしなやかなのに、レベルD~Fという高い水準の製品になります。
②むれにくく、しめつけすぎない、着け心地の良さと使いやすさ。
宮本さん
手のひらに汗をかきやすく、また握力の弱い子どもたちでも使いやすい手袋を実現したのが、「タングステンを用いた手袋ならではの生地の薄さ」と「指先のみのゴムコート」です。
作業用手袋では、つかむものをすべりにくくするためのゴムが手のひら全体にコーティングされていることが多いのですが、それでは手のひらがむれやすく少しゴワゴワしてしまいます。かといってゴムが無ければすべりやすく、かえって危険な面もあります。
そこで、子どもたちの工作の様子なども観察し、特にすべり止めが必要な指先部分にだけゴムコーティングすることにしました。
また、手首ゴムはしめつけ過ぎないやわらかいゴムを採用することで、手首デザインのアクセントにもなっています。
③子どもたちに人気の3色をラインアップ。
楽しく作業できるように、子どもたちが使いたいと思う3色を選びました。性別を問わずに選びやすい色であるところも特長です。
④使いやすさへの工夫もいっぱい。
よごれても洗濯でき、くり返し使えます。 また手袋をなくしにくい持ち運びにも便利なパッケージ付きです。
——製品開発にあたりUDの心配りをするために、こだわったところは何でしょうか?
蒲田さん
子どもたちにも使いやすいよう、着け心地にこだわりました。この手袋は「手を守る」ための手袋です。でも子どもたちは着け心地が不快だと遠慮せずに脱いでしまう。それでは全く意味がないわけです。
先ほどご説明したように、子どもたちには手のひらなどに汗をかきやすく、また握力も弱いという傾向があります。ただ、もちろん大人でも人によって汗のかきかたは違いますし、握力もいろいろな方がいらっしゃいます。
また、脱ぐ時もスムーズに脱げるように配慮する必要があると考えました。
振り返って思うのは、子どもたちに配慮して設計することで、結果としていろいろな人が使いやすいような製品になったのではないか、ということです。 それが「誰でも使いやすい製品」であるUDに一歩近づくのではないかと思い、開発を進めました。
——UDを配慮することに関して、どのようにお考えでしょうか?
蒲田さん
多様性が世界を豊かにする、という世界的な流れの中、「誰でも使いやすい」という要素は、社会に受け入れてもらうための必須条件と考えています。
宮本さん
UDを配慮することは、能力に関係なくあらゆる人が自己実現や社会への参加を果たせるようにする重要な手段だと考えます。
——子どもたちへ向けて、メッセージをお願いします。
蒲田さん
まずは「耐切創手袋」という製品があるということを知ってもらい、今までケガが心配でためらったりしていたことに対して一歩ふみ出す、その後押しができればうれしいです。
皆さんがいろいろなことにチャレンジすることで、すこやかな成長につながることをお祈りしております。
宮本さん
UDは、皆さんが様々なことに安全に参加し、楽しく学び、遊ぶことができる環境を作り出すための大切な考え方です。耐切創手袋を使用することで皆さんの学びのお役に立つことができればうれしいです。
※開発やデザインはチームで行われており、完成するまでに多くの人が関わりますが、関わった担当者の1人または2人に代表して話を聞いています。