組織基盤の強化を事業力の強化につなげるために

組織基盤を強化するということ

市民社会創造ファンドは、第2ステージの5年間、子ども分野で組織基盤助成に協力させていただいた。第1ステージの5年の経過のレビューに始まり、第2ステージの企画立案、そして毎年の選考とその経験を踏まえての次の年に向けたプログラムの更新。この過程でいつも議論してきたのが、「組織の基盤を強化するとはどういうことか」ということだ。

毎年多くの応募が寄せられてくるが、最後に残って助成の対象になるのは、そのごく一部、全体の1割にも満たない。そのわずかなものが何故最後まで残ったかと言えば、やはり「組織基盤を強化するとはどういうことか」を問い詰め、その上で「我が組織の基盤の弱さはどこにあり、その弱さを克服するために今一番必要なことは何か」を真剣に考えていたからではないかと思う。その筋道がしっかりと描かれ、選考委員を納得させたものが最終的に採択されてきたように思う。
恐らく採択に至らなかった9割を超える応募についても、多かれ少なかれ、応募書類を作成する過程でこれらのことは考えてきたはずだ。だとすれば、今回は他者を説得するに不十分だったとしても、その努力は組織の今後にとって大きな財産になる。そう願わざるをえない。

子ども分野協働事務局:
特定非営利活動法人 市民社会創造ファンド 運営委員長 山岡義典氏

組織基盤は見えにくい

「組織基盤を強化するとはどういうことか」を問う前に、「組織基盤とは何か」を問わなければならない。まず大事なことは、組織基盤は外からは見えにくいということだ。建物の基礎や土台、柱や梁のようなものともいえる。柱や梁のような構造体がよく見えるデザインもあるが、一般には構造体は外からは見えにくい。見えるのは外壁面の構成であったり屋根の形であったり窓の開け方であって、それらが美しくバランスがとれていれば、大体は素晴らしいと感じさせるものだ。そして何事もなければ、それで十分である。しかしどんなに素晴らしいデザインであっても、その見えない構造体が脆弱なら、いざというとき、例えば大きな地震や洪水が起きるとき、大きな被害が発生する。そのとき初めて、組織基盤とは何かが分かるのだ。

非営利組織の基盤も同じことで、何ごともなければ大きな問題は起こらない。活発に活動している限り、素人目には素晴らしい団体に見える。しかし財源構成や人事構成など、外からは見えにくい問題があれば、ちょっとした外部(場合によっては内部)の変化で、大変なことになる。組織の対応力は弱く、一旦混乱すると回復力もない。ときに組織は崩壊する。その弱さは、いざというときに現れる。組織基盤の重要な特徴だ。

この見えにくい組織基盤を強化しようとするところに、パナソニックが10年にわたって取り組んできた助成プログラムの意味もあり、難しさがある。応募する側にとっては、まず自らの組織基盤を可視化することだ。しかし、これが実に難しい。一方、助成する側から見れば、その成果や効果はなかなか見えにくい。このことも覚悟しなければならない。

子ども分野のNPOで強化すべき組織基盤とは

組織基盤の強化といっても、何を強化すべきかは個々のNPOで違う。しかし子ども分野のNPOであれば、その多くはヒューマンサービスを行う組織としての特徴がある。
人間を対象に日々欠くことのできないサービスを提供するには、いつも「人」を配置していなくてはならない。時々では困るのだ。しかもその「人」には、一定の資質が求められる。またそのサービス提供のためには、定常的に利用できる活動の「場」が欠かせない。この「人と場」の安定的な確保こそが、ほぼ、子ども分野のNPOのサービスの質を決める。そのためにも、これらの「人と場」に対する当初の投資とその後の継続した固定費が必要になる。ヒューマンサービス系のNPOの最も強化すべき基盤は、そこにある。そこが安定しない組織は、よいサービスもできず、受益者も遠ざかり、長続きもしない。

一方、サービスの提供には対価収入が伴う。この収入の定常的な確保も、強化すべき重要な組織基盤だ。しかしNPOなら、一般的には得られる対価はかかったコストを下回る。その差を埋めるのが寄附や会費の支援性の財源で、その定常的な確保も、強化すべき重要な組織基盤となる。

強化すべき組織基盤はまだいろいろあるが、まずは「人と場」の確保と対価収入の確保、そしてコストとの差を埋める支援性財源の確保が、何よりも重要だ。そしてこれらが安定的に確保されることで、事業力は着実にアップする。このようなプロセスをどう活発化させることができるのか、第1、第2のステージの成果を読み取りながら、第3ステージでは、さらに効果的で戦略的な組織基盤強化助成が展開できればと願っている。