NPOのキャパシティビルディングは有効か Panasonic NPOサポート ファンドが過去に支援したキャパシティビルディング事業の有効性についてご報告


Panasonic NPOサポート ファンドは、2001年にNPOや市民活動の成長・発展を支援する助成プログラムを目指して設立しました。
社会課題の解決の促進に向けて、市民活動が持続的に発展していくためには、NPOの組織力の強化が必要であるとの課題認識のもとに、助成テーマを『NPOのキャパシティビルディング(組織基盤強化)』とし、NPOの現場に即した有効な助成プログラムとするために、中間支援NPOとパナソニックが協働してプログラムを企画開発、運営しています。

日本の助成金プログラムの大半は、活動費用の助成であり、本ファンドのようにキャパシティビルディングに特化した助成プログラムの存在は、設立当時も、そして現在もほとんどないと言っても過言ではありません。

私たちは、本ファンドを通じて、キャパシティビルディングの重要性を1団体でも多くのNPOにご理解いただこうと、組織課題の分析と解決策を導き出せるよう、応募用紙の設計に工夫を凝らし、また2008年より毎年5ヶ所で組織基盤強化ワークショップを開催してきました。本ファンドへの応募総数は1815件、組織基盤強化ワークショップに参加いただいた団体は207団体、参加者は328名になります。

今年は設立からちょうど10年目の節目を迎えます。
これまで148件に、1億7,036万円の助成をし、資金面での支援のみならず、助成前から助成期間中のコンサルティングや、助成期間終了後のフォローを通じて総合的に支援してきました。
このたび、これまでの成果の検証を行い、さらに社会のお役に立てる助成プログラムを目指して、内容の見直しや改善に取り組みたいと考え、NPO法人パブリックリソースセンターにプログラムの第三者評価をお願いしました。

ここに2002年から2009年に助成したキャパシティビルディング事業、および本ファンド事業の評価についてご報告いたします。
キャパシティビルディングの有効性を、NPOの皆様はもとより、NPOへ助成されている様々な機関の皆様とも共有できれば幸いです。
また本ファンドへのご意見、ご感想なども頂戴できれば有り難く存じます。

2010年12月
パナソニック株式会社

目次

1. 主要事業のアウトカムが改善・向上

Panasonic NPOサポート ファンド事業評価の結果

2. 助成先団体は高い成長を続けている

過去に助成した団体の定量・定性調査の分析結果

調査概要(目的・方法

1. 主要事業のアウトカムが改善・向上 -Panasonic NPOサポート ファンド事業評価の結果-

1)助成の受け手における組織基盤の強化に与えた影響

助成先団体の51.2%の団体で助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題が解決した。
(「大いに解決された」「かなり解決された」団体が51.2%で、「ある程度解決された」団体は46.4%、「あまり解決されなかった」団体は2.4%)
本助成事業の内容が、団体だけでは通常は取組むことのできない組織運営上の課題を対象としていることを考慮すると、助成によって全体の半数を超える団体で課題解決が進んだことは、本助成の有効性を示していると考えられる。

助成先団体の助成後の総収入は、実施前に比べ平均60%増加している。また現在に至るまでの総収入の年平均増加率も、全体で36%、子ども分野で27%、環境分野で46%に達している。助成は組織の成長に寄与したと評価できる。

スタッフ数においても、無給・常勤スタッフが減少傾向を示し、有給・常勤、有給・非常勤、無給・非常勤の各スタッフが増加傾向にあり、組織運営の体制が整う方向にあるとみられる。 

組織運営上の課題解決が進んだ団体においては、課題解決の進みが顕著でない団体に比べて、(1)理事会の組織運営に対するコミットメント、(2)事務局スタッフにおけるビジョン共有の度合いの高まり、(3)既存事業の展開力強化、(4)事業推進能力・ノウハウの強化、(5)地域との連携に改善傾向が見られ、組織課題の解決にこれらの改善行動が重要であることがわかった。

財政規模が助成前と現在を比較して、500%以上増加した団体が7団体あったが、急増した財源は会費、寄付、自主事業、委託収入、助成金・補助金と団体により異なり、多様であった。しかしながらどの団体も、助成直後に増加した財源はそのまま現在に至るまで成長の原動力となっており、10年間以内の期間においては、一度定まった成長パターンが持続することが多いといえよう。


2)活動の充実による社会課題の解決の促進、他の助成組織に与えた影響等

「組織基盤強化の取組みにより、主要事業のアウトカムが改善・向上したか」という問いに対し、「改善・向上した」と回答した団体は全体の69.9%に達した。7割近い団体において、組織基盤強化が、主要事業の成果の向上・改善につながったということは、本助成の有効性を示していると評価できる。

アウトカムの改善の進んだ団体においては、(1)既存事業の展開力の強化、(2)ボランティア・会員・寄付者等のサポーターのモチベーションのアップ、(3)組織運営におけるPDCAサイクルへの意識の向上、(4)事業評価・改善能力の強化、(5)資金調達能力の向上、(6)企業との連携、(7)専門機関・大学等との連携 に改善傾向が見られ、活動の充実による社会課題の解決には、これらの点が重要であることがわかった。

アンケート調査からみると、具体的に何をアウトカム(活動の社会的成果)と考えるかは、団体により認識が分かれている状況であった。多くの団体で活動のアウトプット(活動の実施実績)もアウトカムとして挙げられており、NPOの活動におけるアウトカムの設定の難しさがうかがわれた。助成申請書において、活動のアウトカムの評価指標の設定を求めているが、さらに各団体におけるアウトカムの明確化を支援・推進する必要性がある。

インタビュー調査でより深く尋ねると、受益者数の拡大、既存事業の全国展開の実現、新規事業の立ち上げ、他団体への波及効果など、助成によって多くの事業上の成果の拡大があることが把握できた。
組織基盤を強化することが、事業運営力の強化を促し、アウトカムの向上につながることを確認できたといえる。

しかしながら、組織基盤の強化を支援することが事業のアウトカムの向上につながるという認識は、まだ他の助成組織に広く共有されるには至っていない。
組織力強化に着目した助成制度は本助成プログラムの他、「ダイワSRIファンド助成プログラム」、「日本興亜おもいやりプログラム」など少数派にとどまっている。本助成プログラムの成果を広く公表する活動を展開し、他の助成制度に影響を与えることが望まれる。


3)NPOサポートファンドの協働先(地球と未来の環境基金、市民社会創造ファンド)との事業運営に関する評価

インタビューではほとんどの団体で、助成応募時から事業実施、終了にいたるプロセスで事務局との対話が複数回あったこと、助成申請書の様式が組織運営について考えさせる内容であったことを高く評価している。
事務局のコメントやアドバイスが、組織運営の重要性に気付くきっかけになったとして、事務局への感謝が寄せられている。

複数の団体で助成のタイミング(組織の立ち上げ段階、新規事業の立ち上げ時、大規模な事業の受託直前、人材不足による伸び悩み時期など)が良かったことが、助成効果を引き出した要因として指摘されている。
助成事務局や選考委員会は、支援を受ける団体が組織運営上の課題を明確に把握しているか、組織基盤強化に組織をあげて取り組むか などを重要な審査の視点としていた。このことが良い成果を引き出したと評価できる。

またパナソニック株式会社による助成というブランド力が、団体の信用力の強化と実績づくりにつながり、助成後の団体における行政や企業との協働を引き出す源泉となったことはいうまでもない。

助成事務局が資金的支援と中間インタビューや報告会等を通じての非資金的支援という役割を、限られた資源にも関わらず、誠実かつ高度に果たしていることは、高く評価できる。
今後さらに助成効果を高めるためには、非資金的な支援(組織の経営診断や専門的なコンサルティング等)に関しては、助成事務局とは別部隊の本格的なサポート体制を、助成事務局と連携しつつ構築することが必要と思われる。

2. 助成先団体は高い成長を続けている -過去に助成した団体の定量・定性調査の分析結果-

※分析結果レポートからの抜粋

1)助成事業の実施状況

※第1ステージ:2002年~2006年助成
※第2ステージ:2007年~2009年助成

(1)助成対象団体の財政規模

子ども分野の応募団体(※第2ステージ)のうち最も多かったのは100万円以上500万円未満の団体で30.5%、次いで1000万円以上3000万円未満の団体で20.9%だった。環境分野の応募団体(※第2ステージ)は100万円以上500万円未満の団体が22.8%と最も多く、次いで100万円未満が19.3%で、環境分野のほうが応募団体の財政規模が大きい傾向があった。

子ども分野の助成先団体で最も多かったのは1000万円以上3000万円未満の団体で38.2%、次いで100万円以上500万円未満の団体で35.3%だった。環境分野の助成先団体で最も多かったのは500万円以上1000万円未満で24.1%を占めた。次いで2500万円以上5000万円未満が22%だった。

子ども分野、環境分野ともに、助成対象として、ある程度組織化されて次のステップを目指す団体と、小規模の立ち上がったばかりの団体という二つの類型があったことがうかがえる。

子ども分野の助成対象は1000万円未満の団体が全体の58.8%を占めたが、環境分野では43.0%にとどまり、環境分野の助成対象の方が規模の大きな団体の割合が高かった。

<子ども分野>

応募団体数

割合

財政規模

助成団体数

割合

68

9.9%

3000万以上

2

2.9%

148

20.9%

1000万以上3000万未満

26

38.2%

109

15.9%

500万以上1000万未満

14

20.6%

209

30.5%

100万以上500万未満

24

35.3%

92

13.4%

100万未満

2

2.9%

38

5.5%

0

 
 

26

3.8%

未記入

 
 

685

100%

合計

68

100%

<環境分野>

応募団体数

割合

財政規模

助成団体数

割合

14

5.4%

1億以上

2

3%

1

0.4%

7500万以上1億未満

4

7%

14

5.4%

5000万以上7500万未満

2

3%

22

8.5%

2500万以上5000万未満

13

22%

16

6.2%

2000万以上2500万未満

1

2%

8

3.1%

1500万以上2000万未満

5

8.6%

29

11.2%

1000万以上1500万未満

6

10%

46

17.8%

500万以上1000万未満

14

24.1%

59

22.8%

100万以上500万未満

10

17.2%

50

19.3%

100万未満

1

1.7%

259

100%

合計

58

100%

(2)組織基盤強化の具体的な内容

子ども分野における助成先団体の組織基盤強化は、内容として人材の育成が非常に多いことが特色である。
特に活動内容に応じた専門人材(ボランティア、スタッフ、トレーナー、コーディネーター等)の養成が多く、手法としても外部研修への派遣、研修プログラムの開発、視察、海外派遣、資格取得等、多様な方法が取組まれていた。

環境分野の助成先団体においては、組織基盤強化の内容は人材育成に加え、組織の充実や活動の活性化のための個別具体的な技術援助が多岐にわたり取組まれている点が特色である。特に情報発信力の強化、ITの活用、データベースやマニュアルの構築、活動や事業の評価や蓄積の整理など、的を絞った取組みや、外部専門家の力を活かすケースが多い。


2)助成先団体アンケートにもとづく事業評価結果

(1)アンケート回収状況と回答団体の属性

調査対象としたのは、2002年から2009年までの8年間にPanasonic NPOサポート ファンドによる助成を受けた112団体であり、このうち84団体から回答を得た(回収 率75%)。

助成を受けた年については、子ども分野の回答団体は第1ステージ19団体、第2ステージ24団体の合計43団体だった。環境分野の回答団体は第1ステージ19団体、第2ステージ22団体の合計41団体だった。

分野:子ども

(団体数)

 

助成を受けた年(重複あり)

最初に受けた年

2002年

6

6

2003年

3

3

2004年

4

3

2005年

3

3

2006年

5

4

2007年

9

8

2008年

12

8

2009年

11

8

53

43

分野:環境

(団体数)

 

助成を受けた年(重複あり)

最初に受けた年

2002年

0

0

2003年

6

6

2004年

3

3

2005年

4

3

2006年

8

7

2007年

6

4

2008年

10

10

2009年

8

8

45

41


(2)5割の団体で経営課題が解決

「助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題(申請事業を必要としていた組織上の課題)は、事業を実施することによって解決されましたか?」という問いに対して、「大いに解決された」「かなり解決された」との回答を合計すると43団体(51.2%)で、「ある程度解決された」と回答した団体は39団体(46.4%)で、「あまり解決されなかった」と回答した団体は2団体(2.4%)で、「全く解決されなかった」という回答はゼロだった。

本助成事業の内容が、団体だけでは通常取組むことのできない組織運営上の課題を対象としていることを考慮すると、助成によって全体の半数を超える団体で課題解決がかなり進んだことは、本助成の有効性を示しているといえよう。


<助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題は、事業を実施することで解決されたか?>                                           (%)


 

大いに解決された

かなり解決された

ある程度解決された

あまり解決されなかった

全く解決されなかった

無回答

合計

全体

8.3%

42.9%

46.4%

2.4%

0.0%

0.0%

100.0%

分野:子ども

11.6%

44.2%

41.9%

2.3%

0.0%

0.0%

100.0%

分野:環境

4.9%

41.5%

51.2%

2.4%

0.0%

0.0%

100.0%


(3)組織課題の解決には「理事会のコミットメント」「スタッフにおけるビジョン共有」が大切
助成を受けたことによって生まれた組織運営の変化については、下記19項目を尋ねた。

設問19項目

■意識の変化
[1]理事会の組織運営に対するコミットメントの高まり
[2]事務局スタッフにおけるビジョンの共有
[3]ボランティア・会員・寄付者等のサポーターのモチベーションアップ
[4]組織運営におけるPDCAサイクルへの意識の向上

■事業基盤強化
[5]新規事業の開発力の強化 [6]実現可能な事業計画策定能力の強化 [7]既存事業の展開力の強化
[8]事業推進能力・ノウハウの強化 [9]独自のノウハウ・技術の開拓
[10]外部環境変化への適応力・分析力の強化 [11]事業評価・改善能力の強化 [12]資金調達能力の向上

■組織の認知度向上
[13]行政との連携 [14]企業との連携 [15]専門機関、大学等との連携 [16]その他団体、外部組織連携
[17]地域との連携 [18]マスコミ、メディア関係者との関係 [19]活動への参加者数

意識の変化において、最も多くの団体が「非常に大きく変化した」と回答した項目は「事務局スタッフにおけるビジョンの共有」で、「理事会の組織運営に対するコミットメント」は最も変化が少なかった。

事業基盤強化において、最も多くの団体が「非常に大きく変化した」と回答した項目は「独自のノウハウ・技術の開拓」だったが、「まったく変化はなかった」と回答した項目も同じ項目だった。

組織の認知度向上において、最も多くの団体が「非常に大きく変化した」と回答した項目は「行政との連携」で、「まったく変化はなかった」と回答した項目は「地域との連携」だった。

一方、「助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題は、事業を実施することによって解決されましたか?」という問いで、「大いに解決された」「かなり解決された」と回答した43団体(51.2%)と、「ある程度解決された」「あまり解決されなかった」と回答した41団体(48.8%)とを上記設問回答で比較してみると、組織運営上の課題解決が進んだ43団体では、[1]理事会の組織運営に対するコミットメント、[2]事務局スタッフにおけるビジョンの度合いの高まり、[3]既存事業の展開力強化、[4]事業推進能力・ノウハウの強化、[5]地域との連携 に改善傾向が見られた。

(4)定量的にはかれる側面での成果:助成後の総収入は60%増

組織基盤助成の効果を定量的にはかるための指標として、総収入の伸び、自主事業収入の伸び、会員数、スタッフ数をとりあげた。
このうち総収入については、指定管理の受託等の個別の事情による著しい変化を除くために、分析対象から総収入の伸びの上下5%に相当する団体を除外した。

助成先団体の総収入は、助成実施翌年に実施前と比べ60%増加しており、助成は組織の成長に寄与したと評価できる。
総収入の増加は子ども分野では80%、環境分野では37%であった。助成先団体の助成前の財政規模が小さいために、助成により大幅な成長をとげたものとみられる。

現在に至るまでの年平均増加率は全体の平均で36%、子ども分野で27%、環境分野で46%に達している。その原因が助成によるものか、他の要因によるものであるかは、本調査では判定がつけられないが、助成先団体は高い成長を続けている集団であるとはいえよう。特に環境分野において、現在に至るまでの平均増加率が、実施翌年までの増加率を超えており、持続的な成長がみられる。

<総収入の増加率>
全体

項目

実施翌年

現在までの平均増加率

増加率 (%)

n

増加率 (%)

n

総収入額

60%

44

36%

58

内訳

会費

109%

41

14%

54

寄付

154%

39

25%

52

助成金・補助金等

106%

36

45%

48

事業収入(委託費)

55%

22

-11%

31

事業収入(自主事業)

118%

43

28%

55

内訳の合計

60%

44

33%

58

総支出額

55%

44

878%

58

自主収入

65%

44

28%

58

自主収入/総収入(%)

12%

44

2%

58

子ども分野では実施翌年において、寄付、会費、自主事業収入などの自主財源が大幅な伸びを見せている。しかし子ども分野では、すべての財源において、現在までの平均増加率が実施翌年までの増加率を下回っており、助成直後に助成効果による収入の増加の伸びが大きく、その後増加率は低下する傾向がみられた。

分野:子ども

項目

実施翌年

現在までの平均増加率

増加率 (%)

n

増加率 (%)

n

総収入額

80%

24

27%

31

内訳

会費

210%

21

18%

28

寄付

211%

21

42%

28

助成金・補助金等

118%

17

12%

23

事業収入(委託費)

31%

9

-35%

13

事業収入(自主事業)

112%

24

19%

29

内訳の合計

82%

24

27%

31

総支出額

76%

24

1618%

31

自主収入

68%

24

35%

31

自主収入/総収入(%)

4%

24

4%

31

環境分野においては、実施翌年に自主事業収入、寄付が伸びているが、伸び率は子ども分野に比して総じて低い。しかしながら、環境分野では会費の増加率が、実施翌年より現在までの平均の方が高くなっており、助成は団体の自律的運営に継続的に寄与しているといえる。

分野:環境

項目

実施翌年

現在までの平均増加率

増加率 (%)

n

増加率 (%)

n

総収入額

37%

20

46%

27

内訳

会費

3%

20

10%

26

寄付

88%

18

4%

24

助成金・補助金等

95%

19

75%

25

事業収入(委託費)

71%

13

6%

18

事業収入(自主事業)

126%

19

37%

26

内訳の合計

34%

20

39%

27

総支出額

29%

20

29%

27

自主収入

61%

20

21%

27

自主収入/総収入(%)

21%

20

0%

27

実施翌年までと現在までの会員数の変化率、会員数に基づく組織規模、平均会員数の3種類の集計をとった。程度の差はあれ、NPOサポート ファンド助成事業の実施によって全体に増加拡大し、現在までその効果がある程度持続していると見られる。

スタッフ数については、無給・常勤スタッフが減少傾向を示したほかは、有給・常勤スタッフ、有給・非常勤スタッフ、無給・非常勤スタッフが増加傾向にある。特に子ども分野では、無給・非常勤スタッフの増加が有給スタッフの増加率を上回って続いており、活動の実際の担い手となるボランティア人材の育成・強化が図られたことがわかる。

(5)アウトカムの改善・向上

「組織基盤強化の取組みにより、主要事業のアウトカムが改善・向上したか」という問いに対し、「改善・向上した」と回答した団体は58団体(69.9%)、「向上・改善しなかった」「わからない」と回答した団体は25団体(30.1%)であった。7割近い団体において、組織基盤強化が、主要事業の成果の向上・改善につながったということは、本助成の有効性を示していると評価できる。

「改善・向上した」と回答した団体58団体(69.9%)と、「向上・改善しなかった」「わからない」と回答した25団体(30.1%)を、助成を受けたことによる組織運営の変化などの波及効果の設問回答で比較してみると、アウトカムの改善の進んだ58団体には、[1]既存事業の展開力の強化、[2]ボランティア・会員・寄付者等のサポーターのモチベーションのアップ、[3]組織運営におけるPDCAサイクルへの意識の向上、[4]事業評価・改善能力の強化、[5]資金調達能力の向上、[6]企業との連携、[7]専門機関・大学等との連携 に改善傾向が見られた。

「アウトカム」の具体的な内容については、団体により認識が分かれている。
「障がい児が普通に公営プールに行くような光景が見られるようになってきた」「里山と関わる暮らしを実践しようとする人が増えてきた」「(作成したテキストが)大学などで教材として採用される」「市民風車やカーボンオフセット事業への参加者の拡大」「環境保全米栽培の普及」など最終的な成果が生まれている場合に加え、「DV、デートDVに関する理解や知識の広がり」のように、地域社会や行政等の関係者における意識変革をあげている例も多かった。

(6)組織力強化の類型

回答した助成先団体のうち、財政規模が助成前と現在を比較して、500%以上増加した団体は以下の7団体だった。それぞれどのような財源が伸びたかは、以下のように団体より異なる。
しかしながら助成の効果を受けて助成直後に伸びた財源は、そのまま現在にいたるまで財政規模を伸ばす原動力であり続けている。10年間程度の期間においては、一度定まった成長のパターンが持続するとみるべきであろう。
[1]バイリンガルバイカルチャーろう教育センター:会費、寄付の増加
[2]ACE:寄付と自主事業の増加
[3]芸術家と子どもたち:自主事業の増加
[4]つくば環境フォーラム:委託収入、寄付、会費
[5]モモンガくらぶ:助成金・補助金
[6]えがおつなげて:助成金・補助金
[7]こどもNPO:助成金・補助金、委託収入


3)助成先団体インタビューにもとづく事業評価結果

(1)助成効果

ほとんどの団体で助成応募時から事業実施、終了にいたるプロセスで、事務局との対話が複数あったことや、助成申請書の様式が考えさせる内容であったことを高く評価している。事務局のコメントやアドバイスが、組織運営の重要性に気付くきっかけになったとして、事務局への感謝が寄せられている。

複数の団体で助成のタイミングが良かったことが、助成効果を引き出した要因として指摘されている(組織の立ち上げ段階、新規事業の立ち上げ、指定管理受託の直前、人材不足による伸び悩みなど)。

パナソニック株式会社による助成というブランド力が団体の信用力の強化と実績づくりにつながり、行政や企業との協働を引き出している。

スタッフ養成を通じてマネジメント力や専門能力の強化、モチベーションの向上が実現し、企画提案力が高まる、スタッフ間のシフトが組みやすくなる、事業従事者が増えるなどの効果が出て、事業実施力の向上につながっている。

環境分野ではWEBサイト、マニュアル、パンフレットなど成果物が形に残るものが多い。情報発信力やネットワーキング、スタッフ間のコミュニケーションなどに即効性を発揮している。同時にそれを維持(リニューアル)するための継続的な支援への要望もある。

(2)アウトカムの改善・向上

受益者数の拡大、既存事業の全国展開、新規事業の立ち上げ、他団体への波及効果など、目に見えるアウトカムの改善・向上に関する報告があった。

受益者数の拡大の具体例として、例えば「芸術家と子どもたち」においては、助成前(2000年度)は小学校7校において約350名の児童と7名のアーティストの参加にとどまっていたプログラムの参加者数が、助成金を得てからは、2001年度には小学校16校において約1600名の児童と22名のアーティスト、2002年度には小学校28校において約2800名の児童と39名のアーティストが参加するなど、サービスの規模を一気に拡大することができた。
また「SEAN」は、ジェンダー教育の世界では、組織基盤づくりに取り組んだ結果、数少ない継続的に安定して活動を行っている団体として評価され、教育プログラムに関して協力してくれる学校が、毎年少なくとも1校ずつ増加している。
「プール・ボランティア」では、プール指導を受ける障害児の人数が2008年度の約4,000名から2009年度に約5,000名に増えている。
「カリヨン子どもセンター」では助成前にシェルター1軒、自立援助ホームが2軒であったが、現在はシェルター2軒、自立援助ホーム2軒の計4軒に増加した。
「日本クリニクラウン協会」ではクリニクラウンを毎年約1組ずつ養成して、今ではクラウンが15名に達し、年間200回、延べ7000名の子どもに接することができるようになった。

既存の事業を全国展開できるようになった団体もある。例えば「プール・ボランティア」では事務作業専従スタッフを雇用できたことで、事務作業の効率化を図ることができるようになったことが「障害者対応研修事業」の全国展開に繋がった。
「アレルギー支援ネットワーク」では、名古屋地域から始まったアレルギー大学の事業が、東海地域4件で実施され、のべ2000人以上が受講するというまでに達し、さらに全国展開に広がりつつある。

新規事業の立ち上げに成功した例としては、「子どもNPO」がある。子どもの居場所「ピンポンハウス」を開設することができ、行政から各種の委託事業(中学生の居場所づくりや各種計画への参画など)の受託につながった。
国際環境NGOである「FoE Japan」では、他のNPOやNGOとの連携や協力によるプログラムを積極的に進め、地球人間環境フォーラムとの協力による企業向けセミナーをきっかけに、林野庁や木材利用企業(建設会社や家具製造企業等)との連携が生まれ、国内産木材の利用促進プログラムが進んでいる。
「アジア太平洋資料センター」では、環境教育/国際理解教育の教材としてビデオを制作していたが、助成を受け、教員とのネットワークを構築し、意見をもらうことにより、見る人を意識した作品を作ることができるようになり、大手書店の取り次ぎも決まり、広範な層に販売する事業化に成功した。

他団体への波及効果が生まれた団体もある。「北海道グリーンファンド」では情報発信力が強化された結果、内外からの問合せや視察、活動の表彰、協働の依頼などが増えた。視察に来た団体が北海道グリーンファンドをモデルとして京都に「きょうとグリーンファンド」を設立し、活動の裾野を広げる結果となった。

調査概要(目的・方法等)

1)調査目的

Panasonic NPOサポート ファンドの組織基盤強化事業の第1ステージ、第2ステージの10年間を振り返り、成果の検証を行い、第3ステージの企画の判断材料とする。

資金提供及び非資金的取組み(組織基盤強化ワークショップ、贈呈式・成果報告会セミナー、中間インタビュー、事例集発行、WEB発信等)が、助成の受け手における組織基盤の強化、活動の充実による社会課題の解決の促進、他の助成組織に与えた影響等を検証する。また事業プロセスの評価として、NPOサポートファンドの協働先(EFF、市民社会創造ファンド)との事業運営が円滑に進んだかという視点での評価も行う。


2)調査対象期間

2002年より2009年(助成件数 126件、助成先団体112団体)とする。

  • 第1ステージ:2002年助成~2006年助成(当時の名称:サポーターズマッチング基金)
  • 第2ステージ:2007年助成~2009年助成

3)調査方法

[1] パナソニック担当者及び協働事務局へのヒアリング

<ヒアリング項目>
(ア)期待する「成果」に関する聞き取りとすりあわせを行い、以下の調査設計に反映させる。
(イ)協働事務局としての事業プロセスに関する自己評価
(ウ)これまでの成果に対する評価
(エ)今後のNPOのキャパシティビルディングに関する意見

[2] 過去の関連情報の分析

(ア)助成先団体の応募用紙、報告書類
(イ)社内評価結果
(ウ)2006年春アンケート調査結果
(エ)2008年インタビュー調査結果
(オ)各年次の選考結果報告書

[3] 助成先団体へのアンケート(メール及び郵送)

<回収状況> 84団体(75%)
<アンケート項目>
(ア)成果を測る

基盤強化:助成時の強化項目の確認と成果の自己評価、事業規模、財源、有給スタッフ、活動の参加者、独自ノウハウの充実、横展開の実現、新規事業の開始、認知度の向上
助成先団体のベネフィシャリへの波及効果(受益者数等)

(イ)満足度を測る:サポートファンドによる支援内容
(ウ)ニーズを知る:今後の組織基盤強化に関する支援ニーズ

<分析方法>

助成先団体における主観的な自己評価を得ると同時に、組織基盤をあらわす定量的指標の変化を把握する。
アンケートは記名式とし、最初の助成年からの経過年数別に、指標の変化を分析する。

[4] 助成先団体へのインタビュー

上記アンケートを通じ、第1、第2ステージのそれぞれにおいて、大きな変化のあった組織と変化の小さかった組織を計17団体抽出し、上述の内容について詳しい聞き取りを行う。

 


4)実施責任者と実施体制

(1)実施責任者

岸本幸子(NPO法人パブリックリソースセンター 事務局長)

(2)実施体制

NPO法人パブリックリソースセンター


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