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Panasonic NPOサポート ファンド 環境分野 成果報告会 ― 組織基盤強化を、環境活動のより良い継続に

2016年2月24日、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京にて「Panasonic NPOサポート ファンド環境分野成果報告会」を開催しました。環境分野の助成先9団体が参加し、2015年に「組織診断」や「組織基盤強化」に取り組んだ成果を発表。選考委員による講評や、活発な質疑応答が行われ、終了後には交流会も設けられました。

組織基盤強化を、環境活動のより良い継続に

ご挨拶

成果報告会の冒頭に、パナソニック株式会社 CSR・社会文化部 部長の福田里香が挨拶を行いました。

「2015年は、国連の『持続可能な開発目標(SDGs)』が掲げられ、また、COP21では新たな温暖化対策の合意がなされるなど、環境活動がますます重要視される年となりました。本日は、この1年間、組織基盤強化に取り組まれた9団体から、語り尽くせないご苦労や、苦労の後に得られた成果など、さまざまなお話が聞けることかと思います。組織基盤強化が、皆さまの環境活動を継続し、他のNPOへと波及することを願っております。」

第1部 成果報告

環境分野は、助成1年目の5団体を第1部、助成2、3年目を終えた4団体を第2部として、発表を行いました。

マンパワーを発揮できる組織へ生まれ変わった

公益財団法人 日本自然保護協会
発表者:総務室長 田村尚久さん

「今年で65年になる自然保護NGOで、調査研究・保護・環境教育を3本柱に、国内の生物多様性保全に取り組んでいます。会費や寄付の減少、会員の高齢化といった課題に直面し、組織診断を受けたところ、マンパワーを十分に活かしきれていない組織の体質に問題があることがわかりました。そこで進捗報告のみの無駄な会議を自主的に議題を持ち寄れる場に変えるなど改善に取り組むと、職員の意識にも変化が表れ、1年間で課題の多くが解決しました。組織の課題は自分たちでわかっていると思っていましたが、第三者に診断してもらうことで、自己改善力が上がると思います。」

NPO法人 太陽光発電所ネットワーク
発表者:事務局長 伊東麻紀さん

「太陽光発電のサポートと太陽光発電の普及啓発のための政策提言をしてきましたが、自然エネルギー界を取り巻く社会の変容や、大型寄付の終了で財政難の中、カリスマ事務局長が引退し、なかなか組織の未来が描けないでいました。組織基盤強化の成果は、ミッションとビジョンをしっかりと明文化できたこと。SWOT分析、会員アンケート、地域の代表者会議などを積み重ねることで、バラバラになりかけていた組織がひとつの思いのもと、再び土台を取り戻すことができました。組織診断を経て、意識が生まれ変わった理事会を中心に、今後は『財政基盤の確立した組織』をめざしていきます。」

スタッフの視点が広がり、組織の未来が見えてくる

NPO法人 しずおか環境教育研究会
発表者:事務局長 山本由加さん

「2010年~2011年にかけて、Panasonicの助成を受け、その際に、理念と中期計画を策定。里山での環境教育に特化した事業に絞って活動し、かつて10%しかなかった自主事業の収入割合を28%まで伸ばしました。しかし、社会を振り向かせるような大きな事業構築ができず、委託事業の減少にも悩んでいました。今回の助成事業では、理事・職員の合同研修を行い、新規事業へもトライ。夏休みに募集した小学生向けプログラム『里山BASE』は、募集開始2日間で募集枠400以上の60%が埋まるなど、社会のマンパワーを引き寄せる大きな成果となりました。」

認定NPO法人 大阪自然史センター
発表者:理事・事務局長 川上和歌子さん

「博物館と連携して調査研究や学術標本の収集、保全活動やミュージアムショップの商品開発、書籍の出版などを行っています。現場が慌ただしいのに組織が豊かにならないのはなぜか、その課題を解決するため、今回の助成に応募しました。明らかになったのはマネジメント力と人材育成力の不足。そのためミッションとビジョンを明確にし、中期計画を策定しました。理事会の集まりが楽しくなり、スタッフの視点が担当業務だけでなく、事務局体制見直しや、次代の担い手育成など、組織全体の運営へと広がったことは大きな変化です。」

認定NPO法人 自然再生センター
発表者:理事・事務局長 小倉加代子さん

「山陰の中海・宍道湖を豊かな汽水域へ再生させる活動をしています。これまで研究面での成果を出すことに追われていましたが、組織診断の結果、理事会の効率的な運営や中期戦略に基づく資金調達や広報が必要だとわかり、議論を戦わせながら組織体制案を作成しました。また、研修に地域の関係先メンバーが参加することで、私たちの問題を一つのNPOの問題でなく地域の共通課題として位置づけ、多様な立場の組織を巻き込むことができました。今回の助成を通して、多くの組織基盤強化の助言を得ることができ、次の展望が見えてきました。」

講評

各団体の発表後には質疑応答があり、選考委員の方々から講評をいただきました。

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科
教授 粉川一郎さん

助成1年目の各団体にとって大事なことは、現場のスタッフにも経営が見えるようになることです。長らく活動する中で、理事会と事務局の役割がだんだん分担化され、事務局は経営が見えにくくなり、理事会は現場が見えにくくなってしまいがちです。この助成事業により、第三者の客観的な視点を取り入れることで、新しい気付きを得て、今後の団体のあるべき姿を考えることができたと思います。ここから地道な努力を行うことで、経営改善につながります。

コミュニティ・ユース・バンクmono
公益財団法人あいちコミュニティ財団

代表理事 木村真樹さん

助成金の申請を行う際、ぼくたちが必ず問うのがミッションとビジョンです。ぼくらの団体では「3~5年後の地域や社会のありたい姿」をビジョンとして問いますが「組織のありたい姿」や、「3~5年では達成できないこと」が書かれていることもあります。何となく「イイね」では、周りの人々の寄付やボランティアの参加を促すことは難しい。周囲を巻き込んで組織を強くするには、3~5年後にどんな地域社会を作ることにその人が参加するのかを示していく必要があります。今回の報告では、それらの説明をもう少し聞きたいと思いました。

パナソニック株式会社 環境・品質センター
環境経営推進部 環境企画課

課長 冨田勝己

皆さんが「組織基盤」をどう捉えているのか、興味を持って聞かせていただきました。私なりに組織の基盤とはルール、人材や体制、あるいはツールにあたるものと考えています。組織基盤はミッションやビジョンそのものではなく、ミッションやビジョンを実現するためのものです。それを実現するために基盤をどう作り上げるかが助成のテーマだと思います。そのように整理して組織基盤を考え、意識を共有することが、今後の活動にも役立つと思います。

第2部 成果報告

続いて成果報告会は第2部へ。助成2年目の3団体と助成3年目の1団体、合計4団体が組織基盤強化の取組みと成果を発表しました。

外部の視点を取り入れ、財政基盤を確立

NPO法人 フードバンク山梨
発表者:理事長 米山けい子さん

「組織基盤強化事業の助成2年目になります。2014年の初年度は、クラウドファンディングに参加するなど、2013年に比べて寄付・会費収入が前年比約3倍に増加。外部アドバイザーを迎えたことで、アドボカシーに関するノウハウの蓄積もできました。2年目はさらにファンドレイジングを強化し、寄付額は2013年比で9倍に。また、ボランティアの増加や倉庫スペースの確保などの目標も達成でき、人材育成においてもマネジメントやPDCAサイクルの定着により、事業の効率化が実現しました。本事業で獲得したノウハウを他のフードバンクとも共有していきたいです。」

NPO法人 A SEED JAPAN
発表者:理事・事務局長 西島香織さん

「2014年に中核だった『ごみゼロナビゲーション』事業が独立し、会員数と財源規模が大幅に減少。若者主体で組織の根源を継承しつつ、新しいものを生み出す組織づくりが必要でした。1年目に組織内の課題を洗い出し、ロードマップを策定。若手の理事育成に着手しました。2年目は、事務局と理事会の体制改革、マンスリーサポーター制度の設定や理事会改革、自主財源獲得に向けての戦略構築を行いました。今回の助成のおかげで、若い世代を中心とした意思決定のプロセスが整えられ、財政基盤構築のための方針が固まってきました。」

ツールの強化や若手育成に成功し、未来志向の組織へ

認定NPO法人 環境市民
発表者:コーディネーター 風岡宗人さん

「助成2年目のテーマは、1年目の組織診断の結果を活かした、ファンドレイジングのための事業開発でした。1年目で多くのことにトライしたことで、組織内に攻めの姿勢が生まれ、2年目は外部アドバイザーによる広報戦略立案、WEBマーケティング、ブランディングを試行。1年目に作成したパンフを活用した講師派遣事業や企業対象事業へ取り組むなど、まさに内部充実の年となりました。実践の中で成功経験を身につけたことは大きく、ソーシャルインパクトを出せるNGOとして発展するための財政基盤確立へ、展望の見えた2年間でした。」

ゆるやかに世代交代を進め、未来志向の組織へ

認定NPO法人 スペースふう
発表者:Run(運営委員会)リーダー 長池伸子さん

「2002年以降、順調にリユース食器レンタル・販売事業を行ってきた事業系NPOですが、リーマンショック以来、頭打ちの状態が続いていました。助成は3年目ですが、組織診断によって中長期計画の策定や組織体制の見直しなど、課題が見えたのが大きかったです。2年目から組織基盤強化の取組みとして運営委員会を普及部・事業部・管理部の3部署体制にし、その半年後には各部署の部長に若手スタッフを配置。体制を見直しながら、常勤理事との役割の明確化を計りました。外部の視点を取り入れることで、未来志向の決断ができるようになりました。」

講評

助成2、3年目の報告に対しても、選考委員の皆さまから講評がありました。

世代交代は、多くのNPOが抱える大きな課題

NPO法人 国際自然大学校
理事長 佐藤初雄さん

昨今はどのNPOでも世代交代が大きなテーマになっています。団体によっては、これまで組織を牽引してきたカリスマ的な人が抜けると、ガタガタと崩れていってしまうこともあります。その中で、今回は積極的に若手を登用する団体が多いと感じました。そうしたトライはどんどんするべきですし、自分たちの社会的意義をどう伝えていくかが大切です。

成果報告では具体的な発表が大切

パナソニック株式会社 環境・品質センター
環境経営推進部 環境企画課

課長 冨田勝己

こういう発表の場では、どうしてもかしこまった報告になりがちですが、ある意味、泥臭い、具体的な中身を語っていただいた団体があったのが良かったです。組織基盤の強化は突き詰めると財政基盤、お金の話でもあります。それをどのようにして、どのくらい安定させたのか、具体的に示されると、他団体の皆さんにも大いに参考になると思います。

組織基盤強化がビジョンとどう関わっているか

コミュニティ・ユース・バンクmono
公益財団法人あいちコミュニティ財団

代表理事 木村真樹さん

この報告会のいいところは、事業(=アウトプット)の報告会ではなく、成果(=アウトカム)の報告会であること。皆さんの取組みに関わるステークホルダーの意識や行動をどう変えることができたのかが聞けて良かったです。次は、3年、5年かけて、地域や社会をどう変えていくか。今回の組織基盤強化が、その3〜5年先のビジョンにどう関わっているのかも聞けるとさらに良かったです。

間違いを認識し、そこを出発点にすることが大事

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科
教授 粉川一郎さん

助成2年以上の団体の報告会を聞くと、組織基盤強化がいかに効果的か実証してくれた好例がたくさんあり、本当にレバレッジの効く助成事業であることを実感します。とくに「私たちは間違っている」という認識を出発点にすることは大事だと思いました。ポテンシャルを持ちながらも組織基盤強化の機会を得られずにいるNPOもたくさんあると思います。ぜひ助成を受けた団体には、その苦労点や変化をわかりやすく伝えてほしいですね。

修了書の贈呈

3年目の助成を終えた認定NPO法人スペースふうさんには、パナソニック株式会社 CSR・社会文化部 部長の福田より、修了証が贈呈されました。

全体講評

自分たちのエンジンは何か、見つけることが成果につながる

Panasonic NPOサポート ファンド 恊働事務局
NPO法人 地球と未来の環境基金 理事長

古瀬繁範さん

今回の報告会を聞くと、社会に求められているテーマを上手に汲み取って活動を展開している団体、地域に特化したユニークな取組みをしている団体は、組織基盤強化による変化が目に見えやすく、効果的な成果を挙げていました。一方、特定のテーマや地域に特化しない団体は、基盤強化の成果がすぐ数字で出にくいことも伺えました。団体の「何が」あるいは「どこが」自分たちのエンジンになっていくのか、それを見極め、そこが強化されるような組織基盤強化の取り組みが、本助成事業の成果を出す上で、他のNPOにとって大きな参考事例になると思います。