2015年度「Panasonic NPOサポート プロボノ プログラム」
参加者への調査からのご報告 ~後編~ 1/2
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
組織行動研究所 研究員 藤澤理恵さん
前編では、アンケート調査から、本業における「協働」「主体性」「組織への愛着」が高まる傾向が見いだされたこと、プロボノという「越境」経験において「対話的な相互理解」があるほど、プログラム終了後に、本業の仕事における「役割の境界の拡大」(ジョブ・クラフティング)が行われ、「仕事の有意味感の上昇」につながるという関係性が示唆されたことをご報告しました。
ジョブ・クラフティングとは、よりよい自己イメージや仕事の意味を感じられるように、仕事における担当業務や人間関係の範囲を従業員自身が主体的に変更する役割変革行動であり、プロボノにおける内省がその動機や資源となることが示唆されました。
<図表1> 越境を起点とするジョブ・クラフティングのメカニズム
後編となる本レポートでは、プロボノ後、具体的にどのような変化があらわれたのかについて、インタビュー調査からご報告します。
プロボノ後に、具体的にどのように仕事への変化がみられたのか
~ 参加者へのインタビュー ~
2015年度の「Panasonic NPOサポート プロボノ プログラム」に参加し、「公益社団法人アジア協会アジア友の会」へのプロジェクトで、法人会員向けの事業の見直しと広報資料作成に取り組んだ3名の方にお話を伺いました。プロジェクトマネジャーを担当した藤田さん、組織内のビジネスプロセスの調査と提案を担当した山形さん、岐津さんにお話を伺いました。
参加動機は多様。楽しくて、企業人にとって継続しやすい活動
Q. プログラムに参加されたきっかけや参加前の期待はどのようなものだったのでしょうか
岐津さん
“最初に、一泊二日の短い期間で、福島県の復興に取り組むNPOへのプロボノを経験しました。普段、他の事業所とコミュニケーションを取ることが少ないので、いろいろな人と知り合え、その人たちとチームを組んで目標に向かって取り組んでいくというプロセスが楽しかったので、本格的なプロボノにも取り組みたいと思って参加しました。”
山形さん
“ボランティア活動には震災を機に一歩踏み出し、そのあと継続的な支援ができないかと思っていたところに、「プロボノっていう活動があるよ」と声をかけられて参加しました。間接的にNPOを支援することによって、NPOと、そこに関わるボランティアの皆さんや課題を抱えている方々の力になれるというのを知って、やってみようと。
仕事を抱えていると、あまりまとまった時間が取れないので、会社帰りに活動したり、職場から近いところで集まって打ち合わせをするというこの活動スタイルが自分に合っていると思いました。”
真ん中が岐津さん、
左から二人目が山形さん
藤田さん
”私は、ボランティアがしたいと思っていたのではなく、自分の行動する居場所がもう1ヶ所欲しいなってずっと思っていました。そんな時に会社のホームページに、プロボノの活動内容や参加者のコメントが載っているのを何度か見かけたんです。それでこういうのもおもしろそうだなと思って参加したのがきっかけですね。そのインタビュー記事に掲載されていた人が前の職場で一緒だったので、連絡してみたら「気負うことなくできるよ。大変なこともあるけどすごく良い経験になって、社内でのつながりができて楽しかったよ」と言われました。私の場合、知っている人がやっていたというのが大きな後押しになりました。”
“ボランティアと言うと、例えば手話とか、何か特別に時間もかけて直接的に支援するイメージでした。これまでプロボノに2回参加しましたが、私の中では未だにボランティアだという気がしなくて、クラブ活動のようなイメージなんです。なので、支援先のNPOの方々から感謝されるのがすごく申し訳ないというか、恐縮してしまいます。”
プロジェクトマネージャーとして
発表する藤田さん
プロボノの楽しさ・新鮮さは「異文化交流」
Q. 参加されて「楽しかった」というお気持ちが皆さん共通しているようですが、どのような種類の「楽しさ」なのでしょうか
藤田さん
”異文化交流みたいな感じですよね。先方のNPOも、一般企業の視点を持った人と、業務内容に関して同じテーブルで話をしたことはないとのことでした。私たちもそうで、社外のお客さんとか社内の関係者とは仕事つながりで話しますけど、それ以外のテーマで仕事的にというか、何か1つの目標に向かって検討するなんていう場がないので、そこが新鮮ですよね。いかに自分が社内の狭い世界で生きているのかも分かりました。NPOの皆さんはすごく熱くて、私、自分はあんなに熱く仕事のことを語っていないなと反省したり。”
岐津さん
“本当にNPOの皆さんは強い思いを持って取り組んでらっしゃるので、そういう方々の話にも惹きつけられます。普段の仕事だと、どちらかと言うとパッションよりも理詰めで話す人のほうが多いので、それが一番大きな刺激でしたね。“
Q. 逆に、NPOの方は、皆さんの何に刺激を受けているように見えましたか
藤田さん
“熱い想いの反面かもしれないですけど、自分の立ち位置を客観的に見られていない、特に数字で表せていないように感じました。少ない人数で組織運営をしていらっしゃるので、日々のことに没頭されていて考える余裕もないのだと思います。思いを伝えるために数字で表すことや、伝え方などについてもコミュニケーションを重ねながら理解いただき、その気づきに感謝していただきました。”
岐津さん
“少人数とは言っても多様な方が活動されていて、皆さん強い思いを持ってらっしゃって、でもそれは必ずしも同じ方向を向いてなくて微妙に違うところを見ていたりするんですよね。皆さんの想いとか仕事の方向性とかどういうふうに整理していったらいいかっていうのは、話しをしていたらわりと自然に見えてくる面があって、そこを伝えると、そういうことか、こうすればいいのか、と感心していただきました。”
山形さん
“企業の場合は方向性を一致させるために方針発表があり、さらにそれを落とし込んでいきます。情報の整理の仕方も、大中小に箇条書きのカテゴリーをくくっていくなど、企業としては自然の動きだと思うんですけど、そういう普段している形で資料を提供したときに、喜ばれましたね。カテゴライズとか分析の仕方とか。”
自社のDNAと、無意識のうちに鍛えられていた基礎能力を感じた
Q. パナソニック社員同士でチームを組んでいかがでしたか
藤田さん
“仕事の大きな進め方や枠組みって、会社ではある程度共通だと思うし、DNAとかそういうのがベースがあるので、たぶんお題を与えられたときにまとまりやすいのかなと思います。”
“「パナソニックの社員だったら、日頃の業務の感じで取り組めば絶対喜んでもらえるよ」って最初に言われたんです。実際にやってみて、普通にうちの会社にいる人で、社会に貢献したいと思う志のある人同士が集まったら、なにか大きい、自分でも想像つかないような違うパワーが発揮できるっていう気はしますね。”
プロボノという「越境」が、
本業における仕事経験を豊かにしていくきっかけとなる
3名へのインタビューから、
- プロボノで異文化に接する「越境」を経験されていたこと
- 「熱い想い」と「冷静な分析・計画」といった対比に刺激を受けつつ
- 対話的な理解を経て、日ごろの企業活動で培ったスキルやものの見方が提案に活かされていったこと
- 感謝の言葉がそれまで「アタリマエ」だった自分のスキルや企業文化の再評価につながったこと
などをお聴きすることができました。
プロボノでの経験を<図表2>にモデル化してみました。プロボノの仲介を行っている特定非営利活動法人サービスグラントは、プロボノは「大人の社会科見学」の機会といいます。また、参加者からは「部活動のようで楽しい」という声や、「社外から評価された」といった声が聴かれました。「社会科見学」的であり、「部活動」的であり、「武者修行」的でもあるプロボノでの「越境」経験が、仕事の成果や意味、チームのあり方や他者との関わり、スキルや専門性の意味などをとらえ直す機会となるようです。
<図表2> プロボノ経験のモデル図
今日の職場では、仕事やキャリア形成における主体性、これまでの「アタリマエ」を変えるイノベーション、多様性が高まる組織での協働などが求められます。プロボノ活動には、社会貢献という第一義に加えて、本業にも還元される副産物がたくさんあり、本調査ではその一端が確認されたといえそうです。
次のページでは、3名の本業への変化のストーリーを個別にご紹介します。