LUMIXは宇宙環境でも使用できるのか!? ~熱真空試験による動作チェック~
2022年10月4日
こんにちは。材料ソリューション部 微細構造分析課の竹野です。
近年、宇宙ビジネスの市場規模が急速に広がっており、2040年代には100兆円に到達するとも言われております。宇宙を活用したビジネスには、衛星を活用したデータビジネス、宇宙通信ビジネス等、様々なビジネスがあります。パナソニック社内では有志団体「航空宇宙事業本部」も立ち上がっており、徐々に宇宙ビジネスに対する見方にも転機が訪れております。
さて宇宙なのですが、一体、どのような環境なのでしょうか。宇宙には地球上と異なり大気が存在しておらず、例えば、人工衛星軌道では、10-4~10-5Paの真空状態にあります。温度に関しては、太陽光を直接受けたり、逆に地球の裏側では完全な暗闇に包まれてしまい、非常に過酷な温度環境(+40℃~-20℃)となります。そのため、宇宙で電子機器を動作させるためには、このような宇宙環境に耐えうるかどうかを熱真空試験を用いて事前にチェックする必要があります(熱真空試験とは:意図的に真空状態を作り出し、なおかつ試験体への温度制御を行い、電子機器の動作確認を行う試験のこと)。
今回、デジタルカメラの宇宙空間への進出を想定し、LUMIX DC-BGH1(DC-BGH1 | Gシリーズ 一眼カメラ | 商品一覧 | デジタルカメラ LUMIX(ルミックス) | Panasonic) の熱真空試験を、九州工業大学 超小型衛星試験センター 様(九州工業大学 超小型衛星試験センター (kyutech-cent.net))のご協力のもと実施いたしました。(撮影レンズは Panasonic社製 LEICA DG SUMMILUX 15mm / F1.7 ASPH. を使用)
実際に使用した熱真空試験チャンバーの外観と内部の様子を図1、図2に示します。チャンバーには、様々な試験体との通信を可能とするための豊富な通信ポートと、真空状態で試験体の温度を0℃以下に低下させるための液体窒素シュラウド、また温度制御を行うためのヒーターなどが装備されています。また、カメラの動作確認のため、真空チャンバー内に設置したカメラから、ビューポートを介して真空チャンバー外のカラーパレットを撮影できるように工夫しています。このような試験チャンバーを用いて、図3に示した熱真空環境の再現とカメラの機能テストを実施いたしました。
図2:熱真空試験チャンバー内部
■熱真空試験条件
- 真空度:10-4~10-5Pa
- 制御温度:+40℃~-20℃
■カメラの機能テスト
- 真空チャンバーのビューポートから、真空外のカラーパレットの静止画像を撮影
- 低温側:-10℃,-20℃、高温側 30℃,40℃にて撮影
※最低温度、最高温度での動作不良を想定し、複数温度にて撮影を実施
■カメラの動作基準
- カラーパレットに焦点を合わせ、シャッターを切ることができること
- 撮影画像を保存できること
図3:熱真空試験条件とカメラの機能テスト内容
試験結果の例として、低温側の熱真空プロファイルを図4に示します。横軸は真空引き開始からの経過時間を示しており、左縦軸はカメラの表面温度(℃)、右縦軸は真空チャンバー内の真空度(Pa)です。真空引き開始から16時間が経過し、圧力も1×10-4Pa 以下に到達しています。液体窒素シュラウドには常に液体窒素(-197℃)が導入されており、カメラは輻射熱を液体窒素シュラウドへ放出することで冷却されます。 18時間までは、この液体窒素シュラウドによる温度低下を防止するためにヒータ電源がONになっていますが、カメラ本体の表面温度を低下させるために、ここからヒーター電源をOFFにしています。写真を撮影できるかテストするための機能テストを行う際は、カメラ温度を一定に保持するために、再びヒーター電源をONにしており、-10℃、-20℃を保持するように温度制御を行っております。
このように温度を保持した状態でカメラの機能テスト(静止画像撮影)を実施したところ、8×10-5Paの真空度で、温度が-10℃、-20℃の環境でも無事に静止画撮影、画像保存を行うことができました。参考までに撮影した静止画を図5に示していますが、大気圧、室温の画像と同じ静止画を取得することができています。
(このカメラは大気中で-10℃~40℃までの温度領域が実際の動作保証温度のため、-20℃での動作を保証するものではありません。)
今回は、宇宙の真空状態と温度を再現した熱真空試験についてご紹介しましたが、実際に宇宙環境下で使用するためには、宇宙放射線試験や振動衝撃試験など、他の試験も実施する必要があります。
今後、宇宙環境での品質向上や宇宙ビジネスの創出に貢献することを目的に、航空宇宙事業本部とも密に連携を図り、社内向けの様々な宇宙環境試験のサービス化も構想中です。
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