≪新学習指導要領とキャリア教育≫
学校の教育活動すべてがキャリア教育
~各教科等の中で「社会とのつながり」を意識することがポイント~
中学校新学習指導要領の全面実施まであと2年足らず。キャリア教育に関しては、総則の中で「特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じてキャリア教育の充実を図ること」という方針が示さています。こうした趣旨を学校現場で具体化していくためのポイント等について、昨年度まで全国中学校進路指導・キャリア教育連絡協議会の会長を務められた東京都荒川区立第七中学校の近江貞之校長先生からお話を伺いました。
■キャリア教育の観点からみた今回の学習指導要領改訂のポイントは?
――― 注目される各教科におけるキャリア教育関連記述
今回はじめて、中学校学習指導要領の中に「キャリア教育」という言葉が登場した。総則や特別活動でキャリア教育の充実やキャリア形成が明記された意義は大きい。加えて、各教科における記述にも注目する必要がある。
例えば、「理科」では「指導計画の作成と内容の取扱い」の中で、「理科で学習することが様々な職業などと関係していることにも触れること」という記述がある。「技術・家庭」では、「生徒のキャリア発達を踏まえて学習内容と将来の職業の選択や生き方との関わりについて扱うこと」とされている。これらは一例だが、「総合的な学習の時間」を含めすべての学習内容がキャリア教育に関わっている、と捉えることができる。
■新学習指導要領の趣旨を踏まえたキャリア教育を実践する上で重要なことは?
――― 先生方がキャリア教育の位置づけやねらいをどれだけ意識するかがポイント
上述の新学習指導要領における理科の記述は現行指導要領にも記載されているが、現状ではこうした趣旨が教育活動に十分に活かされていないように感じる。キャリア教育で言う「基礎的・汎用的能力(課題対応能力等)」と、新学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」の実現を通して育成する能力(情報活用能力、問題発見・解決能力等)はリンクしている。
要は、指導する先生方がこうした新指導要領におけるキャリア教育の位置づけやねらいをどれだけ意識し、実際の授業の中で学習内容と社会とのつながりを生徒達にどう伝えていくかが極めて重要になる。例えば、タブレットを使って授業を行う際に、単に情報を検索するだけでなく、その情報源が信頼できるものなのかどうかを考え、必要であれば図書館などで調べてみるといった学習活動を意識することでキャリア教育につながってくる。「社会に人材を送り出すことが学校の役割」とするならば、「学校の教育活動全体がキャリア教育」なのではないだろうか。
■キャリア形成の視点から貴校で特に意識して取り組んでいることは?
――― 学校で過ごす8時間は大人が働く勤務時間と同じ
「おはようからさようなら」までの学校にいる約8時間は、一般社会で大人が働く勤務時間と同じと考えれば、「子供は勉強するのが仕事」だ。私は日頃から生徒達に対し、「挨拶ができないと社会で通用しないよ」、「時間を守れない人に責任ある仕事を任せられると思う」、「写しただけのレポートを出すような社員ならいらないって言われるよ」、といった話をしている。会社で取り組むプロジェクトは学校の課題解決と同じで、「単にやるだけではなく、ねらいを決めて成果をあげないとダメ」という厳しい言い方もしている。
運動会や校内合唱コンクールでは、実行委員を中心に生徒達が主体的に計画を作成し運営するスタイルを採っている。昨年度からは、生徒達が自分の次の行動を考え実行する自律的な態度を養うことを目的に、ノーチャイム制を導入している。また、英検・漢検・数検などの検定へのチャレンジも推奨している。こうした取り組みは、自分の力を伸ばすだけでなく、現時点での自身の能力を知り社会的な評価を受けるとともに、ライセンス取得という意味でも大切だと考えている。
■「私の行き方発見プログラム」を効果的に位置づけて活用するためのポイントは?
――― 社会の現場にいる人でないと伝わらない実感を大事にすること
教員の場合、担当する教科指導では専門家だが、社会との関わりまで含めてきちんと教えられるケースは少ない。社会がますます複雑化し変化の速度も早まっている中では、その現場の人でないとわからない実感があると思う。その部分では、このプログラムを通して外部の皆さんの力を借りない限り、生徒達に実社会の今を伝えていくことは難しい。また、「パナソニックは家電製品のメーカーなので、電気のことがわかっていないと入れない会社だ」といったイメージや考えをもっている生徒も多い。実際にはそうではなくて、「それぞれが持っている得意なことを発揮できるような部署や役割はいくらでもある」ことを知らせる意味でも、このプログラムはいいきっかけになっていると思う。
■最後に、キャリア教育に関わる全国の先生方へのメッセージをお願いします。
――― 地域や学校に合ったキャリア教育、個々の生徒が必要とするキャリア教育を
学習指導要領をベースにしながら、それぞれの学校に合ったキャリア教育、一人ひとりの生徒に必要なキャリア教育を進めていただければいいと思っている。すべての学校が先進的な取り組みを目指す必要はないので、まずは始めることが大切だ。例えば、人口減少や町おこしといった地域の課題を取り上げてキャリア教育につなげることもできる。そうした様々な実践事例が集まってくれば、それを参考に取り組むような学校も出てくる。その際、意図的・計画的にキャリア教育を行うという意味でも、改めて学習指導要領を読み込んだ上で、授業実践につなげてほしい。
<インタビューを終えて>
荒川区立第七中学校では、様々な職業の人の話を聞く「校内ハローワーク」を毎年実施しており、生徒達は3年間で多くの業種や仕事を知ることになります。学校によっては地域性等もあり、こうした機会を設定することが難しい場合も多いのではないでしょうか。そうした際に、「会社を支える様々な仕事・役割」について、カード教材と出前授業を効果的に組み合わせて学べる「私の行き方発見プログラム」を各学校の状況に応じて活用いただくことが、「まずは始めること」のきっかけになることを願っています。