オンライン授業実施で見えてきたものと
『私の行き方発見プログラム』活用のヒント
新型コロナウイルス感染拡大の影響により臨時休校が長期化し、教育課程の実施に支障が生じる事態に備え、政府は「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月7日閣議決定)において、児童生徒1人1台の端末整備を目指す「GIGAスクール構想」の加速化に2,292億円を計上しました。これにより、当初、2023年度としていた完了目標が大幅に前倒しされ、今年度中の実現を目指すところとなっています。
この予算の内訳には、従来から構想にあった「児童生徒の端末整備支援」「学校ネットワーク環境の全校整備」の加速化に加え、Wi-Fⅰ環境が整っていない家庭にLTE通信環境(モバイルルータ)の整備を支援するなど「緊急時における家庭でのオンライン学習環境の整備」が含まれています。今後懸念される新型コロナウイルス感染症の第二波、第三波の到来や自然災害の発生等による学校の臨時休校等の緊急時に備え、オンライン学習環境整備の早期実現が急務になってきていると言えます。
今月の『パワーアップ情報ファイル』は、2019年度に『私の行き方発見プログラム』の出前授業を活用していただいた東京女子学園中学校の吉田ゆかり先生に、オンライン授業の活用法とメリット・デメリット、『私の行き方発見プログラム』プログラムをオンラインで活用する際のヒント等についてお話しを伺いました。
東京女子学園中学校
吉田 ゆかり 先生
タブレット端末の2台使いでオンライン授業を有効活用
------ 貴校でオンライン授業を導入した経緯についてお聞かせください。
- 東京女子学園中学校では、以前から、生徒は1人1台タブレット端末を持っており、授業で活用していました。今回、新型コロナウイルスの影響で臨時休校になり、生徒が登校できなくなったため、タブレット端末を用いてのオンライン授業を導入しました。
- まず、2020年4月15日から春期復習講座としてオンライン授業を開始、5月11日からは新学期の本格授業を行っています。
------ オンライン授業の1日の流れはどのようになっていますか。
- 毎朝9時からホームルームを行います。当学園では、オンラインの授業時間を1コマ90分に設定しました。1時間目は9時30分から11時、2時間目は11時10分から12時40分、お昼休みを挟み、3時間目は13時30分から15時で、生徒は1日に3つの授業を受講します。
- オンライン授業のツールとして、Web会議システム、学習支援クラウド、ノートアプリ等を利用しています。
- ちょうど新しいタブレット端末に切り替えのタイミングでしたので、生徒たちは前から使っていたものと新しいもの、2台のタブレット端末を併用し、1台でWeb会議システムに入って授業を受け、もう1台を使って配信されたプリントを見たり、調べ学習をしたりすることができます。
- その他、放課後の15時30分から16時30分まで、自習室を開設しています。希望者がWeb会議システムに入り、自習を行います。ここでは、個別に教員に質問をすることができます。
臨時休業中の家庭学習
※複数回答あり。
※割合は、臨時休業を実施する設置者のうち、各項目に該当する家庭学習を課す
方針であると回答したものの割合。
【参考資料1】
学校の臨時休業中の家庭学習 出典:「文部科学省 新型コロナウイルス感染対策のための学校の臨時休業に関連した公立校における学習指導等の取組状況について」
------ 吉田先生ご自身の授業について教えてください。
- 私の専門教科は家庭科です。家庭科という特性上、在宅で授業を受けている生徒たちは、まさに「家庭」のことが何でもできると考え、今までとは異なる授業展開にしました。衣食住に関することをまさに「家庭」で実践することができると考えたからです。
- 例えば、食生活分野の調理実習では、これまでは材料や用具の準備は教員が行っていましたが、オンライン授業では、すべて生徒自身が家庭で行いました。
- 「昼食を作ろう」「朝食を作ろう」「おやつを作ろう」の実習では、それぞれが時間内に、家庭にある材料で作ったものを発表し合い、試食なども行いました。
- 生徒が在宅での授業は、家庭の協力が必要です。そのため、保護者には、事前に授業内容を知らせ、協力していただくようにしています。
オンライン授業を行う
吉田先生
オンライン授業のメリットとデメリット
------ 実際にオンライン授業を実施してみて、生徒の反応はいかがでしたか。
- 中学1年生は入学して初めての顔合わせも、初めての授業もオンラインでした。それでわかったのは、生徒たちは、画面上だとあまり緊張せずに発言できたり、質問できたりする様子だということです。
- 課題提出などは学習支援クラウドを活用していますが、生徒たちにとっては非常に利便性が高いようでした。
- オンライン授業は、慣れてくると、制服に着替えなくてもよい、通学時間がかからないなど、利点も多いように感じました。
------ 反対に、課題となるものは何だと思われますか。
- 当学園では、6月22日からホームルームを行う土曜日の他、平日にも1日登校日を設け、登校日は週2日になりましたが、それ以外の授業はすべてオンラインで行っています。そのため、各家庭での通信環境の問題があります。
- 長時間画面を見続けることになりますので、眼精疲労等、体調への負担が懸念されます。
- また、新型コロナウイルス感染の状況によっては、今後もオンライン授業を続ける可能性があります。その場合、試験をどのように実施するか等の課題があります。
「私の行き方発見プログラム」オンライン活用のヒント
------ 吉田先生には、昨年度『私の行き方発見プログラム』の出前授業をご活用いただきまし
た。事前授業では、教材のプログラム①会社の役割発見を使って授業をしていただきま
したが、教材のオンライン活用について、どう思われますか。
- ICT教材の「企業活動クイズ」等は、オンライン授業でも活用できると思います。
- 昨年度の事前授業では、その後、パナソニック社員による出前授業を行うことになっていましたので、「パナソニック株式会社について」という独自のプリントを作成し、タブレット端末を使って、生徒たちに調べ学習をさせました。このような学習は、オンラインでも教室の授業と同じように実施することが可能です。
- 授業の進行が単調にならないように、システム上にある発表者を拡大できる機能等を活用して、生徒の発表にめりはりを持たせる工夫をしてみてはいかがでしょうか。
吉田先生独自のプリント
タブレット端末を使いオンラインでも利用できる
------ 出前授業のオンライン実施について、アドバイスをお願いいたします。
- 部活動や講演会等でも、オンラインを活用することを検討しています。これから、オンライン出前授業のニーズも増えていくのではないでしょうか。
- 今年度、通常の授業であれば、「3密」を避けるため、グループワークは難しいかもしれません。しかし、オンライン授業では、Web会議システムの参加者を分割する機能等を使い、グループにわかれての学習が可能です。実際、生徒たちがグループにわかれ、それぞれのセッションで意見交換等を行い、代表者が発表するということも実施しています。
- オンライン授業で生徒の集中力を維持するためには、双方向性を持たせる工夫が必要だと思います。『私の行き方発見プログラム』には生徒が作業を行ったり、発表を行ったりするワーク タイムがありますので、オンラインでの実施においても有効だと思います。
【参考資料2】
「1人1台端末・高速通信環境」がもたらす学びの変容イメージ
出典:文部科学省「GIGAスクール構想の実現について」(令和2年5月22日時点)