◆今回、解説する役割カードはこれ!
パワーアップ情報ファイル8月号は、プログラム①「会社の役割発見」で使用する30種類の「役割カード」の中で、実際にその仕事に従事している社員のインタビューを通して解説するシリーズの4回目です。
今回は「役割1:モノづくりに直接関わる役割」から「研究開発」を取り上げます。
お客様のニーズに沿った製品をつくるため、
将来を見据えて新しい素材や技術を開発する仕事
「研究開発」とは、広く「事物・機能・現象等について新しい知識を得るために、又は、既存の知識の新しい活用の道を開くために行われる創造的な努力及び探求すること※1」です。また、「学術的な研究のみならず製品開発、既存製品の改良及び生産・製造工程に関する開発や改良に関する活動※2」も「研究開発」となります。会社が企業活動を行う上で、刻々と変化する顧客のニーズに対応し、競合企業に対する優位性を高めるためには、新製品の開発や新技術の開発が非常に重要となってきます。
パナソニックでは「家電」「住宅」等をはじめとした幅広い分野で「研究開発」に取り組んでいます。
そこで、今回は、異なった分野の「研究開発」に従事しているお二人、イノベーション推進部門・テクノロジー本部で遠赤外線カメラの光学素子の設計や生産プロセスを開発している黒崎諒さんと、ハウジングシステム事業部・品質革新センターで建築関係商品の品質評価技術を開発する一方で、社会人アメリカンフットボールの選手としても活躍している佐伯眞太郎さんにお話を伺いました。
[※1※2] 文部科学省「民間企業の研究活動に関する調査」より引用
イノベーション推進部門・テクノロジー本部 黒崎諒さん
■パナソニックにおける「研究開発」とは、どのような役割になるでしょうか。
「研究開発」と言うとよく物理学など自然現象を解き明かすような基礎研究を思い描く方が多くいると思いますが、私たち企業としては、3年先、5年先の実用化を見通すような応用研究をしています。例えば、今の技術では難しいけれども、社会や生活を変えるような価値のある製品やサービスを実現するに向けての開発を行っています。
「研究開発」の対象として、私は遠赤外線デバイスを開発していますが、パナソニック全体としては電池やセンサーといったデバイスや画像処理のようなソフトウエアなど幅広く、将来の社会でより役に立つような形で研究開発に取り組んでいます。
光学素子設計の様子
■黒崎さんご自身の仕事について教えてください。
私が所属しているのは、テクノロジー本部のオプト・メカトロニクス部という部署で、カメラやプロジェクターのような光学製品に関する開発を行っています。ひとつ例を挙げると、私たちの部署が開発したプロジェクターは、2016年のリオ・オリンピック開会式でも使われました。
この部署で、私は「遠赤外線カメラ」というデバイスの光学素子(レンズ等)の設計や生産プロセスの開発をしています。「遠赤外線デバイス」という言葉はあまり聞きなれないかも知れませんが、いわゆるサーモグラフィーのように物体の温度を非接触で測定、イメージングすることができるものです。最近では、新型コロナウイルス感染症対策等のために百貨店や空港などで直接身体に触れなくても検温できる装置などを見かけたことがあるかも知れませんね。また、車載用のナイトビジョン等でも需要が広がってきています。
これらのデバイスは一般的なカメラと比較すると非常に高価で、性能においても、もっと解像度を良くしたい、温度精度を向上させたい等の要望があり、まだ広く普及するには至っていないのが現状です。
そこで、私たちはデバイスの中でもコスト比率が高い光学素子に注目し、新規プロセスで低コスト化を図ると共に、最適設計を行って高性能化を追求する取り組みを行っています。
私が注力しているのはプロセス開発の部分です。独自で新しいプロセスを研究しているのですが、その中で、予想できない様々な現象と直面することがあります。私は、その現象を科学的に分析・解析することによって「どういったことが起きているのか」を解明し、それらの現象をうまく応用させて低コスト化や高性能化ができないかを考え、より良いプロセス開発につなげていきます。
■黒崎さんが「研究開発」に取り組んできた中で、印象に残っていることはありますか?
研究開発はもちろん良い結果を求めて進めていきますが、その途中で、反対に悪い結果、いわゆる「不良」の現象が出ることがあります。その場合も、「不良」の原因を分析し、解明していくのですが、なぜ「不良」という現象が起こったのかを理解することで、これからの「不良」を抑えるだけでなく、これまで「良品」と思われていたものの品質を更に良くすることにつなげることができた経験は、深く印象に残っています。
■「研究開発」の仕事に求められる知識あるいはスキルを教えてください。
「探究力」と「想像力」が非常に大切だと考えています。
商品の競争力を考えたとき、私たち研究部門は、世界でも「ナンバーワン」あるいは「オンリーワン」というような新しい技術開発が求められてくると考えています。そのためには、すでに構築されている技術や学問の道筋を辿るだけでなく、自分自身で新しい道を切り開いていかなくてはなりません。そこで、自らの力で技術の可能性を「探究」していくことが大切になってくると思います。
「想像力」については、将来に向けた技術開発ですので、技術的な側面だけでなく、社会や生活の変化、そして将来の顧客のニーズなどを想像していかなくてはいけない、という部分があります。新しい技術がどのような価値を生むのか、また一方で、新しい商品やサービスの実現のためにはどれだけのコストや手間がかかるのかなど、様々な視点で考え、想像し、それらを基に研究開発を行っていく必要がありますので、「想像力」が大変重要になってくると考えています。
クリーンルームでの実験の様子
■黒崎さんが仕事をしていく上で大事にしていることは何でしょうか。
ひとつの見方に固執せずに、様々な見方をすることが重要と考えています。
私自身の経験ですが、研究開発で技術を掘り下げることだけに集中していくと、視野が狭くなり、柔軟な考えや新しいアイデアが逆に出にくくなってしまうことがあります。研究開発だけでなく、どんな分野においても様々なアプローチがあると考えられますので、色々な方の意見を交えながら柔軟に仕事に取り組んでいくことが非常に重要だと考えています。
■「研究開発」のような理系分野を目指している中学生にアドバイスをいただけますか?
これからはデジタル・ネイティブの時代になると思います。私自身の研究開発は物理学とか化学の領域分野で、以前はあまりデジタルとは関係のないものが主流でした。しかし、ここ最近では、材料インフォマティクスのように、デジタルの力を利用した物理学や化学の解明を強く推していこうという流れがでてきています。今後、どの分野においてもデジタルは切っても切れないものになってくると思いますので、今のうちから意識しておくのは重要だと思います。学校の勉強だけではなかなか学ぶことが難しいかも知れませんが、自分自身である程度デジタルの知識を身につけていけると良いと思います。
私は子どもの頃から物理や化学が好きで、父親の影響もあり、宇宙や物理、化学などの本を読み、自分で勉強をしていました。そういった経験を通して、学校の勉強だけでなく、自ら学び取る力が身に付いてきたと思っています。
とは言え、実は、学生時代は部活のテニス一筋でした。両親が背中を押してくれたこともあり、受験シーズン前の最後の大会まで、全力でテニスに打ち込むことができたのです。残念ながら、大会では途中で負けてしまったのですが、テニスに全力を出し切ることができた経験はとても大きく、お陰で、その後の受験シーズンでは気持ちをうまく切り替えて、勉強に集中することができたと思っています。
この経験から学んだ「目の前のことに集中して取り組むことの重要さ」は、今の研究開発の仕事にも大いにいかされていると思っています。研究開発の仕事で大切なことのひとつ「ひとつのことを深く掘り下げること」に繋がってくるからです。
■今年は新型コロナウイルスの感染拡大により、黒崎さんの仕事にも様々な影響があったと
思います。なにか変化等はありましたか?
最初の頃は在宅ワークの必要があり、Web会議などのツールも使いこなせている状態ではなかったので、自分ひとりの考えに閉じこもってしまっていたところがあったと思います。その後、コミュニケーションツールが使いこなせるようになって、他の人の意見を聞くことができるようになりました。人と人との繋がりがいかに大事だったのか、改めて実感しました。
ハウジングシステム事業部・品質革新センター 佐伯眞太郎さん
■まず、パナソニックにおける佐伯さんの仕事について教えてください。
私は、ハウジングシステム事業部の品質革新センターという部署に所属しています。主に建築関係の商品、例えば扉、床材などの分野、トイレ、洗面、キッチン、お風呂などの水廻り、雨といや宅配ボックスなど外廻り商品などを扱っている部署で、私はそれらの商品の品質側からの評価技術開発を行っています。
「評価技術開発」とはあまり聞きなれない言葉かと思いますが、商品の顧客ニーズを満たす品質目標を設定し達成度を確認する技術を開発するというものになります。
役割として、主に3つ挙げる事ができます。
一つは、新商品を立ち上げていくにあたり、様々な評価や試験を進めていきますが、その際、どのような評価をすればよいか、評価の抜け漏れがないのかなど見極めていきます。その目標に対してどんな評価をするのか、その評価手法や判断基準を開発していくことになります。
また、市場にはすでにたくさんの商品が出回っています。残念ながら、その中には不具合を起こしたりしてしまうものが、どうしても出てきてしまうということがあります。原因がすぐにわからないものも多くありますので、その問題に対して不具合の分析を行い原因を究明し正しい対策を打つことを支援していくことが二つ目の役割です。
三つ目の役割は、将来的にこれからどういった評価技術が必要かということを検討することです。例えば、材料分析をする設備への投資や、CAD(コンピュータを用いて設計すること)やCAE(コンピュータを用いて設計を解析すること)のような構造解析の技術を高めていくことなど、将来的に必要な技術を見極めて投資をしていきます。
パソコンで仕事中の佐伯さん
■「技術開発」の仕事をしてきた中で、何か印象に残っているエピソードがあれば、教えて
ください。
この半年、COMBO-Lightという、金属でできた宅配ボックスを樹脂化するテーマに携わった時のことです。その中で、自分が最も力を入れたのはCAE解析の部分です。実機検証だけに頼ることなくPC内で3Dモデルを作り上げ、想定されるストレスを負荷して応力解析を行いました。トラブルの未然防止をするために様々な検討を行い、品質と開発メンバーがしっかり連携して商品を作り上げられたことは非常に印象に残っています。試行錯誤を繰り返し、現在では、お客様に安心してご利用いただける商品として市場に出すことができたと思います。
■佐伯さんの仕事・業務で必要とされる知識・スキルは何でしょうか。
評価技術開発部には二つの課があります。一方は材料関係の品質担保に関するところで、例えば、樹脂系のメカニズムの評価を行うなど、いわゆる化学の知識が必要となります。もう一方の私が所属している課では、CAE等を使って構造解析を行いますので、構造解析の知識が必要になります。
■佐伯さんはパナソニックで技術開発の仕事をしながら、更に、社会人アメリカンフット
ボールのXリーグで、パナソニック・インパルスの選手としても活躍されています。
よろしければ、簡単な経緯をご紹介いただけますか。
実を言うと、以前はサッカーをやっていました。幼稚園の頃に始めたのですが、小・中学生の時はガンバ大阪の下部組織に所属し、高校ではサッカーの強豪校でずっとサッカーを続けてきました。元々、Jリーガーになりたいという夢があったのですが、残念なことに、中・高校生の時には、なかなか上に勝ち残れなかった。それで、高校でサッカーには区切りをつけようと思ったのです。
大学には、高校の担任の先生の影響から物理の勉強がしたいと考えて入学しました。偶然なのですが、ちょうど私が入学する時、兄がパナソニックのアメフト部に入団したんです。それが、もう一度スポーツをとことんやってみようと思うきっかけになり、大学ではアメフト部に入部しました。
■大学で日本一になり、ご自身は学生の日本代表にも選出されたのですね。
アメフトは分業化されているスポーツなので、蹴る、投げる、守るなど役割が分かれています。私はキッカーという蹴るポジションなのですが、サッカーでも蹴るのが得意な方だったので、それが活かされているのだと思います。同じように高校までは野球部だった人が、大学でアメフトを始め、才能が花開いたといったようなケースも結構あるんですよ。
■現在は、アメフトを始めるきっかけにもなったお兄さんと共にパナソニック・インパルス
に所属し、X リーグで優勝、また日本代表も経験されていますが、今年、達成したい目標
を教えてください。
チームとしては、もちろん、日本一になることを目指しています。私個人としては、4年連続でキッカー・パンター賞という個人賞を獲得していたのですが、残念ながら去年は獲れなかった。今年は獲れるように頑張りたいと思っています。
佐伯さんは社会人アメリカンフットボールの選手としても活躍している
■今年は新型コロナウイルス感染症の影響で試合数が半分に減ってしまうそうですが、
例年であれば年間最大10試合をこなすということで、仕事との両立は大変ではありませ
んか。
私自身にとっては「これが普通」という感触が小・中学校の頃から根付いているので、勉強とスポーツの両立や仕事とアメフトの両立を苦だと思ったことはまったくありません。
心がけていることは、切り替えです。パナソニックの社員として仕事をしている時は仕事に集中し、アメフトが始まればアメフトのことに集中する。気持ちの切り替えがうまくできるかどうかが重要になってくると思います。
■仕事とスポーツが互いに影響し合っている相乗効果のようなものはありますか?
スポーツが仕事に活かされていると思うのは、タフさやメンタリティーの部分です。スポーツを通して厳しい経験を数多く踏んでいるので、精神的にも肉体的にも強くなり、仕事の場においてもあまり動じることがありません。
逆に仕事からスポーツへの影響という面は、私の仕事は仮説検証が非常に大事とされます。理屈や筋の通る本当に核心を突いたものでなければ、結果は出ません。理屈が通らないことから、良い結果は導き出せないのです。仕事のこういう合理的な部分はスポーツにも活かされていると思います。例えば、トレーニングでも、どんなところにつながるのかという目的を意識しながら行うことが大切で、賢く考えることはスポーツでもとても重要だと思います。
■佐伯さんが一番大切にしていることは何でしょうか。
素直になることです。プライドなどが邪魔をして、上司や先輩、周りの人からの指摘や助言を受け付けない、そういう心構えでいることがいちばん成長の妨げになると思いますので、どういう場面においても心をフラットにし素直でありたいと思っています。
■最後に、中学生のみなさんにメッセージをお願いします。
何事においても一番を目指すことはとても大事なことだと思います。勉強においても、部活においても、些細なことでもいいと思いますが、自分が目指している夢に対して、誰よりもとことん突き詰めてやる、ということが大事です。
勉強もスポーツも可能性だと思っているので、勉強だけやっていればいいや、部活だけやっていればいいや、とは考えずに、中学生のうちであれば、どっちも一生懸命やるのがいいと思います。勉強や部活で挫折を味わうことは多くあると思います。挫折すると悔しいですが、大事なのは継続することです。私自身、今、振り返ってみると、小・中・高の時はなかなか日の目を見ず、挫折することの方が多かったなぁ、と思います。しかし、状況を見極めて、諦めずに勉強もスポーツも継続してきたことで、最後には、大きなところに辿り着けたと感じています。