本州と淡路島を結ぶ明石海峡大橋を望む神戸市の中高一貫女子校、愛徳学園。キャリア教育に力を入れる当校では、「私の行き方発見プログラム」を約10年にわたり活用いただいています。その活用方法、ひいてはキャリア教育で大切にしていることについて、松浦直樹校長先生、同校のキャリア教育を推進する佐々木敬子先生、齋藤典正先生にお話を伺いました。

教室から見える明石海峡をバックに
左から佐々木先生、松浦校長、齋藤先生

-まず、御校のキャリア教育の考え方について教えてください。

教育ビジョンに基づき、豊かなこころと7つの力を育む

本校では「気高く、強く、美しく」を校訓に、「自ら考え、人に奉仕し、充実した人生を歩む女性の育成」を教育ビジョンとして掲げています。カトリック・ミッションスクールですので、他者に思いやりをもって社会に貢献していくという姿勢を特に大切にしています。

このような豊かなこころの育成とともに、未来の社会で必要となる「7つの力」を育む本校オリジナルの「Rainbow Program(レインボープログラム)」を実施しています。7つの力とは、最後まであきらめずにやり抜くための「体力・忍耐力」、物事を深く考える「思考力」、積極的に他者と関わる「コミュニケーション力」、グローバルに意見交換ができる「英語力」、様々な現象から問題点を見つけ乗り越える「問題発見解決力」、多様性を受け入れ交流する「異文化理解力」、考えを整理して伝える「プレゼンテーション力」です。

このプログラムは、生徒たちが未来の社会でその力を存分に発揮し、充実した人生を歩んでもらうためにはどうしたらよいかを本校の教員で話し合い作成したものです。時代の流れにあわせて適宜アップデートはしていますが、約10年にわたり本校のキャリア教育の根幹となっている考え方です。

-Rainbow Programは、具体的にどのようなプログラムなのでしょうか?

社会で活躍するために必要な力を、発達段階に応じて計画的に身につける

Rainbow Programは、生徒の発達段階に応じて3つのステージ(基礎確立期、応用充実期、発展完成期)に区切り、それぞれに目標やポイントを設定して7つの力を育みます。本校は中高一貫校ですので6年間を3ステージに区切っています。例えば、中学校1・2年生は基礎確立期として位置づけ、自分と向き合うことを重視しながらも、将来の選択肢を広げるための土台作りの期間としています。

中学1年生の導入時に、7つの力や6年間の取り組みの流れを解説した「Rainbowテキスト」を使い、プログラムの意義を理解し自身の成長イメージを持つよう促します。その後はひたすら実践を繰り返していきます。生徒たちは各行事のたびに、どの力を意識するのかを自ら考え、その結果をワークシートで振り返り、「Rainbowファイル」に記録していきます。

RainbowテキストとRainbowファイル

例えば、中学1年生は「ものづくり体験」という行事があります。これは外部の熟練技能者から指導を受け、ものづくりを体験する活動です。体験を通して、普段の生活からは見えない仕事もあるということを知り、将来自分がどんな仕事に就きたいかを考えるきっかけとすることを目的としています。この活動では、「思考力」「コミュニケーション力」「プレゼンテーション力」を身に着けたい力に設定し、活動の後にその力を発揮できたかどうか自己評価を行います。このように各活動の中で7つの力を意識し振り返るという流れを何回も繰り返していくことで、7つの力を身に着けることができます。

-御校キャリア教育の中で「私の行き方発見プログラム」をどのように活用していますか?

体験活動をより深めるための事前学習として活用

「私の行き方発見プログラム」はRainbow Programが確立した当初から約10年にわたり活用し続けています。主に体験活動の事前授業として、プログラムの教材を活用しています。中学1年生では「ものづくり体験」の事前授業として、プログラム1「会社の役割発見」とプログラム2「職業と能力の関係発見」、中学2年生の職場体験「トライやるウィーク」では、プログラム3「職業体験での仕事発見」を、中学校3年生では、自己肯定感をもち、価値観の違いを認識するためにプログラム4「自分の“行き方”発見」を活用しています。

特に中学1年生で行う「ものづくり体験」は、キャリア教育のキックオフとなるタイミングですので、世の中には様々な仕事があり、自分の力を使って役に立てる仕事がきっとあるという視野を拡げる機会として、ほぼ毎年プログラム1の教材を活用しています。

今年も中学1年生でプログラム1を活用して授業を行いました。基本的にはティーチャーズガイドに沿って授業を行っていますが、今回の事前学習は「様々な仕事があることを理解し、仕事に興味関心をもつ」ということが狙いでしたので、教員同士で相談しながらスライドの情報を絞って活用しました。

-Rainbow Programも私の行き方発見プログラムも約10年にわたり運用されていると伺いました。長く定着させるための秘訣はありますか?

先生・生徒の“共通言語”として、日常の授業に浸透させる

どんなプログラムでも、日常にどう落とし込んでいくかが重要と考えています。本校ではRainbow Programのための時間であるRainbow Time(レインボータイム)を設けていますが、それだけではなく、すべての教科で7つの力に触れ、常にRainbow Programを意識するようなコミュニケーションをとっています。そうすることで、先生と生徒の間で7つの力が共通言語となり、次第に生徒自らが7つの力を意識し行動してくれるようになります。

このように生徒の日常に浸透させていくためには、全教員がRainbow Programを理解し積極的に協力してくれる賛同者であることが大切です。本校は私立ということもあり教員の入れ替わりが少なく、今でもRainbow Programの立ち上げメンバーが先頭に立ってプログラムを推進しています。また2~3名の教員で1クラスを担当するチームティーチングを導入するなど、教員同士が協力し合う環境があります。このように、先導するリーダーがいることや、協力し合う雰囲気があることが、Rainbow Programの浸透に大きく影響していると思います。

-キャリア教育に取り組まれる先生方にメッセージをお願いします。

キャリア教育は「教える」ものというより、「生徒がつかみ取る」ものだと思います。そのために教員ができることは、子どもたちが自分で気づきを得るために、ポイントを絞ってわかりやすく発信することだと思います。私はそのための言葉を大切にしており、Rainbow Programのような共通言語を持つことは、学校としてキャリア教育を推進するうえで大切なことだと感じています。(齋藤先生)

生徒が学校にいる間に出会える大人は限られています。だからこそ、たくさんの大人と出会い「本物の体験」をさせてあげたいと思っています。そのために、生徒にとって「いいな!」と思うことをなんでもやってみるように日々心がけています。常に何ができるかを考えていると、生徒とのちょっとした会話などから受け取るものがたくさん出てきます。その種を職員室で相談すると、他の先生から色々とアドバイスがもらえ、新しいきっかけが生まれます。「私の行き方発見プログラム」の活用もまさに他の先生から教えてもらったことがきっかけで、約10年にわたり活用しています。(佐々木先生)

私立の小規模校である本校だからできることもあるのかもしれませんが、私はキャリア教育の本質はどの学校でも同じだと考えています。どの学校にもある建学の理念、そこには生徒に対する願いや教育目標が掲げられているはずです。どのように落とし込むかは、その学校次第ですが、この建学の理念の実現に対して、高い目標をもちながら挑むことが、キャリア教育に大切な視点で、その中からヒントが見えてくるものと思っています。(松浦校長)