パナ、ソーラーランタンで女性の自立支援

パナソニックは企業市民活動「LIGHT UP THE FUTURE(LUTF)」を通して、途上国の女性の自立支援を行う。無電化地域にソーラーランタンを無償で届け、「健康」「教育」「収入向上」を目指す。「あかり」の提供で、貧困からの脱却を後押し、女の子が苦しむFGM(女性器切除)の根絶にも貢献していく。(オルタナS編集長=池田 真隆)

無電化地域でソーラーランタンを寄贈する
「あかり」のない地域で勉強していた女の子に「あかり」を届ける  @UNFPA/Luis Tato

LUTFは無電化地域に、ソーラーランタンを届け、貧困の連鎖から抜け出すことを支援する取り組みだ。支援先はケニア、ミャンマー、インドネシアなどの無電化地域。

同社はこの取り組みを「企業市民活動」として行っている。「企業は社会の公器」という創業からの考え方をもとに無償で「あかり」を届けてきたのだ。ソーラーランタンは2009年から提供しており、これまでに10万台以上を寄贈した。

パナソニックが無電化地域に寄贈したソーラーランタン  @Panasonic

活動のきっかけは一通の手紙だ。送り主はウガンダ共和国の副大臣。パナソニックの工場や製品を見学に訪れた後、手紙でこう訴えた。

「無電化地域で暮らす人々は、灯油ランプが放つ黒い煙による健康被害に悩まされています。パナソニックの太陽電池はその解決の手段となります。ぜひ力を貸してください」

この手紙をもらったのは2006年のことだ。同社ではウガンダの無電化地域を調べると、「あかり」がないことで貧困から抜け出せない状況にあることが分かった。

彼らの多くは唯一の灯りとして灯油ランプを自宅で使っている。「あかり」はあることにはあるのだが、3つの問題があった。一つ目は灯油を使うことで起きる健康被害。二つ目は、家計への圧迫。灯油代は1回分で約1ドルかかる。世界銀行が定めた国際貧困ライン(一人当たり一日1.9ドル)未満の経済水準で生活している人々にとっては、約1ドルでも「高額」だ。そして、「あかり」は希少なので、子どもたちは空が明るいうちに勉強する。当然、学習時間が限られるので、識字率が上がらず就ける職の選択肢は狭まってしまう。

この3つの課題(「健康」「貧困」「教育」)の解決に「あかり」が活きると分かり、同社では2009年にウガンダにソーラーランタンを寄贈、さらに2013年から2018年までの5年間で10万台を寄贈した。届けた国はミャンマーから始まり、アジアやアフリカ諸国など30カ国に及ぶ。

「健康」「教育」「収入向上」が活動の3本柱

支援先の地域では、子どもたちの学習時間が増えて進級テストの合格率が上がったり、安全な環境で出産できるようになったりと一定の効果が出た。

同社では2018年でこの活動を一区切りすると、その後、さらに支援を拡大させた。こうして生まれたのが「LUTF」だ。これまでは会社もしくは社員の寄付に頼っていたが、LUTFでは、一般向けにリサイクル募金を行い不要となった本やCDなどを寄贈してもらうことで無電化地域にあかりを届ける仕組みをつくった。

「健康」「教育」「収入向上」を活動の3本柱と定め、現地で活動するNGOと連携して貧困削減を目指し活動を行ってきた。

なかでもケニアでの活動には注力する。同国ではLUTFとして、2018年10月から2021年9月までの3年間、活動してきた。ケニアの首都ナイロビから車で5時間の場所にある電化率12%のナロク県エンクトト地区にソーラーランタンを150世帯に寄贈し、学校や診療所などの公共施設が安定して電気を使えるように太陽光発電・蓄電システムやソーラーポンプなどを設置した。

その結果、子どもたちの学習能力が上がり、学校ではソーラーポンプを活用したトマト農園を始めた。作ったトマトの売り上げで学校給食も実現した。さらに、電気があることで、診療所でワクチンの保存ができるようになり、電気がない時期と比べて接種率が2倍以上に増えた。

学校に通うウエストポコット郡の女の子たち。学習時間を増やして収入の向上を目指す
@UNFPA Kenya

ケニアでの活動は2021年9月で一区切りしたが、2022年に再始動した。支援先は、人口60万人が住むウエストポコット郡と30万人のサンブル郡。この両郡に合計2000個のソーラーランタンを配布する計画だ。

学校に通う男女の児童にソーラーランタンを1500個、ビーズづくりで収入を稼ぐ18歳以上の女性に500個配布する。

2025年までにランタンを受け取った女性の70%の収入の向上と、子どもの70%が勉強時間を2時間増やすことが目標だ。女性の健康と権利を守る国連人口基金(UNFPA)と連携し、2024年までに地域イベントやラジオ番組などを通してFGM(女性器切除)の普及啓発を1万人に行うことを目指す。

FGMの背景に「貧困」

この2つの郡はFGMの実施率が深刻だ。ウエストポコット郡は74%、サンブル郡に至っては86%にも及ぶ。

FGMはいまだ世界約30カ国で社会・文化的な慣習として行われている。国連は2030年までにFGMの根絶を目指す世界目標を採択し、政府および現地NGOや市民団体と協力しながら取り組みを進めているものの、コロナ禍においては課題が多い。

国連人口基金ケニア事務所に勤務する新井さつきさんは、「ケニアではFGMは法律で禁止されているにも関わらず、全47郡あるうち、主に22郡で未だに行われている。さらにコロナによって被害者は増えている」と話す。

FGMの犠牲になるのは、主に10代前半の女の子たち。ケニアでは少女から大人になる、結婚の準備段階の儀式として伝統的に行われてきた。FGMは多くの場合、屋外の小さな小屋や林の中などで本人の合意無く行われるという。

FGMを行う際に使用する伝統的な刃物  @UNFPA/Luis Tato

不衛生な環境で医師免許を持っていない者が行うことが多いので、感染症を引き起こしたり、多量の出血で死亡したりするケースもある。深刻な健康被害と心理的なトラウマを引き起こすこの有害な慣習に苦しむ女の子は世界で約2億人にのぼる。

FGMを受けた女の子は心身ともに傷つくが、社会・地域など周囲からのプレッシャーから慣習として泣き寝入りしている状況だ。また、センシティブな問題なので声を挙げることができずにいる女性が多いという。

しかし、勇気あるFGMサバイバーが、「生理が来ない」「通常の安全な妊娠・出産ができない」と実体験に基づいた声を挙げ出すと国際社会全体でこの慣習を問題視するようになった。2015年には国連持続可能な開発サミットで2030年までにFGMの根絶を目指すという世界目標を193カ国が合意した。FGMが慣習として残っている国は相次いで法律で禁止するなど根絶に向けた措置が取られてきた。

FGMの根絶を訴えるウエストポコット郡の女子児童たち  @UNFPA Kenya

ケニアでは5人に1人がFGMの犠牲に

ケニアでは女性の5人に1人がFGMを受けたとされる。同国政府は2011年にFGMを禁止する法律を策定し、2019年に2022年までに根絶を目指すと発表したが、40以上の民族が暮らす多民族国家の特性や、地理的にも広く、治安が安定しない地域もあるためFGM撤廃のための支援が行き届かない、また法律や政策を実施していくための資金・人材不足などのため、FGMの慣習が今もまだ続いている地域が多い。長期化するコロナ禍も状況を悪化させている。

同国の報道機関によると、FGMから女の子たちを保護する機能を担っていた学校がコロナ禍で長い間休校になったことで、「FGMの被害件数が増えた」という。政府目標の今年2022年までの根絶は「非常に難しい」と新井さんは指摘する。

パナソニックではLUTFでFGMの根絶を後押しする。「あかり」で学習時間を増やし、学校の就学率・高等教育への進学率を上げる。教育を受けられることで子どもたちが自分の意志で自らの健康や仕事、結婚・出産など人生に関わる選択をできるよう支援し、自らと次世代のFGMの予防・啓発につなげる考えだ。

ビーズづくりの女性に配布する理由はこうだ。ビーズづくりに取り組む時間を増やすことで生産性・家庭の収入が上がり、その結果、女子教育にも費やすことができ、早めに結婚させられることを防ぐ。女の子は教育を十分に受けることができるのでFGMの防止につながる。

パナソニックは4月頃までにソーラーランタンをケニアまで送り、現地では国連人口基金がサンブル郡、ウエストポコット郡に配布する。

日本での認知拡大も行う。3月8日の国際女性デーの一環として、3月15日に上智大学でオンライン講演会を開く。FGMの被害に遭う女の子と同年代に向けて、問題の深刻さを伝える。

新井さんは、「FGMは女性の将来の生理や妊娠に多大な影響を及ぼす。世界で起きているこうした社会課題に関心を持ってほしい」と訴える。まずは「知る」ことを求めた。

「具体的な支援を起こすことは難しいが、その女の子たちがどういう境遇にいて、どのような思いで暮らしているのかを知ってほしい。そして、何ができるか一人ひとりに考えてもらいたい」

FGMの認知向上へパナソニックも社内向けの普及を考えているという。過去には連携先のNGOをゲストに招いて社内向けの講演会を開いたことがある。現場で働くNGO担当者の話に興味を持つ社員は多く、インナーブランディングにつながった。

社内アンケートでは、企業市民活動が社会に良いことをしていると感じている人の割合が9割にのぼったという。パナソニックでは社員を巻き込むために募金も行っている。同社の若原嘉鶴人さんは、「課題意識を持ったらアクションに移してほしい」と話した。

【池田 真隆 (オルタナS編集長)】

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